中産階層 北京では4割だが、全国ではまだ2割ちょっと -こんな「言葉」が!(46) 中国で-
- 2010年 7月 29日
- 評論・紹介・意見
- 中国中産階層
高度成長期の日本で、自分の生活の程度を「中の中」とみなす国民の中流意識は上昇を続けた。からかいと皮肉を込めて「一億総中流」といわれたものだ。バブルがはじけるとさすがにその意識は減退したようで、景気が上向かない昨今は、むしろ「下流」という単語の方がさまざまな分野で多用されている。
いま、中国ではどうか。日本のあゆみをたどるかのように中産階層が増大し、中流意識が高くなってきている。7月下旬公表されたある報告によると、首都・北京で所得のある市民の約40%、540万人ほどが中産階層に属すると判定されたという。北京工業大学と中国社会科学文献出版社が共同で担当した 『2010年北京社会建設分析報告』に盛られている数値で、それによると、月収6000元(為替レート換算で7万8000円)が中産階層の平均月収とされる。
もとより月収には幅があり、高い部類に入る人たちには中小企業のオウナー経営者(月平均9666元)がおり、低いグループには事務員(同2947元)などがあげられている。中産階層とひとくちに言っても、その20%をしめる収入の低いグループと、同じく20%をしめる高い方とではその格差が9倍になるという。
さて、この中産階層という語彙だが、マルクス主義では資本家・労働者の二大階級への分化論が強調された。中産階層ないし中産階級が新たな光をあびたのは、19世紀末の修正主義論争からである。中国では、鄧小平のリードした計画経済からの路線転換とその後の経済成長を反映して1980年代以降使われるようになった。
それを辞典でしらべてみよう。中国社会科学院語言研究所編『現代漢語詞典』は現代中国語の規範を示す辞典で、中国共産党が路線を転換した1978年末に初版が発行された。だからそこに「中産階層」が項目に立てられてなかったのは当然のことだろう。しかし、その後、1983年発行の第2版から2002年発行の第4版までずっと「中産階層」も「中産階級」も項目に立てられていなかった。「中産階級」が立項されたのは2005年6月刊の第5版になってからで、次のような語釈がついていた。
【中産階級】①中層ブルジョアジー、わが国では民族ブルジョア階級を示す。
②現代西側社会で、教育レベルが高く、収入の比較的多い階層。たとえば、
国家公務員・商工業の中上層管理者・医師・弁護士・記者など。
ご覧のように、この語釈は①が「階級」を指すとし、②は「階層」を意味するとして食い違っている。この矛盾について説明した文献は見たことがないが、①がマルクス・レーニン主義、毛沢東思想に受け継がれたマルクス主義的な階級分類であることは見て取れよう。いわば社会主義中国では伝統的だった分類である。
②は、「現代西側社会」と説明したが、これは世をはばかる物言い。経済成長で中国社会が変わったことは認識されており、中国自身、指導部ではわきまえていた。だから、経済成長に伴ってこうした階層が登場し、増加した現実を反映しようという見解が辞典編集部内で強くなったのだろう。しかし、「中産階層」を見出し語にとるところまでは踏み込めず、こういう語釈にする折衷論が上級から支持されたものと考えられる。この両論併記そのものがマルクス主義から社会学へという中国の変貌を物語っている。
このように“市民権”を得た中産階層は、首都・北京では所得のある市民の約40%という高い数値が出たが、範囲を全国に広げると23%前後にとどまるという(2005年人口1%サンプル調査など)。
しかし、 『法制晩報』が市場リサーチ企業の分析としてこのほど伝えたところによると、現在の経済成長が続けば10年後の2020年には中産階層にぞくする国民は7億人に達することになる。もっとも、その時点では中国の総人口は14.5億人に増大すると予想されるから、中産階層のしめる割合はそのほぼ半数ということになる。
ただ、それには①経済成長の持続を前提にし、さらに②都市部の低所得勤労者・農民の所得引き上げが欠かせない。これは、中国社会科学院社会学研究所の作成した「中国社会の十大階層」(下図)を見ていただけば一目瞭然だろう。
冒頭にあげた『分析報告』によると、北京の中産階層のなかで、事務職員・個人経営者・初級中級技術職員など「中の下」に位置する人々は全体の68%強、308万人前後をしめている。
これらの人々はかなり高い教育水準の持ち主なのだが、社会的立場、職掌や所得はいいとはいえない。このため、『分析報告』は、住宅やマイカーといった高額消費となるとローン返済に追われる“房奴”(マイホーム奴隷)、“車奴”(マイカー奴隷)になるひとが多いと結論している。
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