本間宗究「ちきゅうブッタ斬り」(20)
- 2012年 4月 6日
- 評論・紹介・意見
- 本間宗究通貨金本位制金融
ドラギマジックの有効期間
ヨーロッパでは、「ドラギマジック」という言葉が使われ、金融混乱は、一時的に安定したとも考えられているようだ。つまり、「12月21日」と「2月29日」に、合計で、約100兆円もの資金を金融機関に貸し与え、力によって混乱を封じたということだが、このことは、「金融システム」や「通貨制度」の観点からは、「末期癌の患者に、モルヒネを大量投与したような状態」とも言えるのである。
つまり、「どのようにして、100兆円もの資金が捻出されたのか?」という疑問点が出るとともに、「モルヒネの性質」として、時間の経過とともに、「より大量の薬を、より頻繁に投与する」ということが必要とされるからである。換言すると、「ギリシャの金融危機が、他国へ伝播することを防ぐために、100兆円もの資金が必要だった」ということは、今後、「イタリアやフランスなどに混乱が発生すると、数百兆円、数千兆円規模の資金が必要とされる」という状況が考えられるのである。
そして、この資金を、「ECBのバランスシートを大膨張させる」という方法で捻出することは、今後、不可能な状況になることも想定されるのだが、その理由としては、世界中の人々が、今回の「ドラギマジック」の危うさに気付かされたからである。つまり、今回の資金供給は、単に、借金爆弾の規模を大きくしただけであり、「決して、問題を本質的に解決したものではない」ということである。
そのために、今回の「ドラギマジック」が、「どれほどの期間、効果を持ち続けるのか?」という点が、気にかかるのだが、「暦」の観点から言えることは、その期間は「約6か月間」であり、実際には、「2012年の5月まで」とも考えられるようである。そして、その後は、無謀な政策の反動が生じ、より一層、金融混乱を悪化させることになるようだが、この時に考えられることは、「先進国の国債に、買い手がいなくなる」ということであり、結局は、「世界的な金利の急騰」ということになるようだ。
つまり、「バーナンキ議長」が、徐々に、言及を始めたように、「紙幣の増刷」によって、資金を賄うという状況が考えられるのだが、この時に起きることは、例外なく、「ハイパーインフレ」であり、実際には、「想像を絶するほどの物価の高騰」である。しかし、「安定した物価」に慣れきった現代人にとっては、実際に経験しなければ痛みも分からず、結局は、「気が付いた時には、インフレの大津波に巻きこまれていた」という状況が考えられるようである。(3月27日)
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金本位制復帰の完全否定
先日、バーナンキFRB議長が、ジョージワシントン大学で講演を行い、「金本位制への復帰」を完全に否定した。そして、その理由としては、最初に、「金(ゴールド)の絶対量が不足している」という点を指摘しているのだが、このことは、現在の「金の時価総額」が「約800兆円」であることに比較して、「世界のGDPが約5000兆円にも達している」という状況だからである。また、「世界の金融資産」については「約10京円」にも達していると言われており、この点からも、「金本位制が採用された時には、表面上、大幅な資金不足が生じる」という事態が考えられるのである。
また、もう一つの理由としては、「物価の安定性」に関して、「長期的には、金本位制の方が、安定した物価を実現できる」という点を認めながらも、「短期的には、変動が激しくなる」という点を指摘しているのである。つまり、「金の産出量」が変動することにより、「年間ごとの物価変動が激しくなる性質」があり、また、「金本位制は、第一次世界大戦以降、実質的には、機能していない」とコメントすることにより、「現時点で、金本位制に復帰するということは、ほとんど現実的ではない」とも述べているのである。
しかし、この講演内容を読んで感じたことは、「なぜ、現時点で、このような発言をするのか?」ということであり、議長の真意としては、「まったく反対の状況を想定しているのではないか?」ということだった。つまり、「通貨の歴史」を研究した人ならば、誰でも、「実体経済」と「マネー経済」との関係が理解できるとともに、「1971年のニクソンショック以降、どれほど、異常な事態が発生したのか?」ということも、明確に判断できるからである。
しかも、バーナンキ議長ほどの知識を持った人ならば、「なぜ、マネー経済と実体経済との間に、このような極端な乖離が発生したのか?」という理由を熟知するとともに、この問題の解決策としては、「金価格を100倍にする」という方法も、よく御存じのことと思われるのである。つまり、「紙幣の増刷により、デフレは克服できる」ということが、「ヘリコプター・ベン」という「綽名(あだ名)」を持つバーナンキ氏の持論であり、かつ、今回、「不胎化による紙幣の増刷」を持ち出してきた理由だと思われるからである。しかし、さすがに、「FRB議長としては、表立って、金本位制を支持できなかった」という状況でもあったようだが、反対の観点からは、世界中の人々が「通貨制度に関する認識」を深めることにより、結果として、「市場の反乱が起きるのを待つ姿勢」に変化したとも考えられるようである。(3月27日)
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔opinion0842 :120406〕
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