2010.07.30 オバマ政権下で無人機による爆撃急増
- 2010年 7月 30日
- 時代をみる
- アフガニスタンアメリカアルカイダタリバンパキスタン爆撃
昨年1月20日オバマ政権が誕生して以来、アフガニスタンとパキスタンではリモコン操作による無人機による爆撃が急増している。対象はタリバンやアルカイダなど米国の言うテロリストだが、巻き添えで殺される民間人も多く、現地民衆の間では反米感情が募る一方だ。オバマ大統領の言う「反テロ戦争の主戦場」であるアフガニスタンでは、このところタリバンなどの攻勢がますます激化、米軍などISAF(国際治安支援軍の)将兵の死傷率が高まり、欧州では厭戦ムードが広がっている。反米感情と厭戦ムードの下、オバマ政権のアフガン政策の前途は不透明感を増している。
英BBC放送の最近の報道(電子版)によると、パキスタン北西部のアフガン国境に接する「部族地域」に対する米国の無人機爆撃は、2008年1月からの1年間に25回。殺された人が200人弱だったのが、2009年1月(オバマ政権発足時)からの1年間に87回。殺された人が約700人と、回数も人数も3倍以上に増えた。この「部族地域」は、アフガニスタンの反政府武装勢力タリバンと国際テロ組織と呼ばれているアルカイダの隠れ場であり、これをかくまう「パキスタン・タリバン運動」の本拠地である。
無人機は、パキスタンにとって地球の裏側に当たる米ネバダ州の基地から2万キロもの遠隔操作で操縦し、ミサイルや爆弾を投下する最新兵器である。2008年まではプレデター(Predator:掠奪者)という名前の、偵察機として開発された無人機が主体だったが、今ではリーパー(Reeper:刈り取り機)という新型無人機が主力だ。地上から1万5000メートルの超高空を飛ぶので、地上からはほとんど聞こえないし見えない。いつの間にかミサイルが降ってくるのだから、狙われた方はたまらない。
リーパーは1機1300万ドル(11億3000万円)もする代物だが、プレデターより高空へ上昇できるし、航続距離も長い。ヘルファー空対地ミサイル(1基10万ドル=87万円)を4基のほかに、地下20メートルの地下壕を破壊できるスマート爆弾GBU-12を搭載できる。ネバダ州の地下壕に設けられた無人機操縦室はCIA(米中央情報局)の管轄で、夜勤の当直士官が2万キロの彼方から衛星通信で送られてくる映像を見ながら無人機をリモコン操縦するという仕掛けだ。
無人機のカメラが写す映像はネバダ基地と同時に、アフガン・パキスタン国境付近の陸上偵察員の受像機にも映し出される。ネバダの操縦員は映像を見ながら、同じ映像を見ている陸上偵察員からの指示にそって無人機を動かす。地上の偵察情報と上空からのカメラ映像が合致すれば爆撃対象を絞ることができる。ミサイル発射の前に標的の人物が民間人でなく武器を持つ戦闘員であるかどうかを確認する必要がある。無人機のカメラが武器を映せば、ネバダのリモコン・レバーが押される。その瞬間、地上は地獄図に変容する。ミサイルの破壊力の大きさからしても、民間人が巻き添えになるのはごく普通のことだ。
昨年8月、部族地域の一端にある南ワジリスタンでパキスタン・タリバン運動のリーダー、バイトゥラー・メスードが無人機によって爆殺された。相次ぐ無人機の爆撃とパキスタン国軍の侵攻作戦で、南ワジリスタンの住民は避難民となって大挙村を離れた。住民がいなくなるとタリバンの兵士たちも移動する。今年からは住民やタリバン兵が避難してきた隣接の北ワジリスタンが、無人機爆撃の対象になり、南ワジリスタンへの攻撃はめっきり減ったようだ。
無人機による爆撃は当初、以前から無人偵察機を使って情報を集めていたCIAの独壇場だったが、その効果を知った米空軍、英空軍も今ではタリバン攻撃にリーパーを利用している。高性能カメラと衛星通信とコンピューターによる航空機自動操縦装置というハイテク技術が「3種の神器」を生んだ。この21世紀の最新兵器システムは確かに効果的だ。だが民間人の巻き添え死傷者を出しており、民衆の反感を掻き立てている。米国の同盟国であるパキスタン、アフガニスタンの両政府は民間人を殺す爆撃を止めるよう米国に言い続けているが、米国は聞く耳を持たない。
米国軍産複合体の抱える技術陣はおそらく、無人機の性能をもっと高め、もっと精密なピンポイント爆撃ができるシステムを開発しようとするだろう。しかしいくら精密なピンポイント爆撃ができても、民間人の巻き添え死傷率をゼロにすることはできない。なぜなら「水(民衆)のないところに魚(ゲリラ)は住めない」(毛沢東)ので、タリバンと民間人を完全に分離することはできないから「だ。
オバマ大統領はなお、アフガニスタンとパキスタンに巣くうテロリスト(タリバンなどイスラム過激派やアルカイダ)を根絶しなければ、アフガン問題は解決しないと考えているようだが、それは不可能だ。そうした軍事解決を実行するにはアフガニスタン・パキスタン国境の両側に何千年も住み続けている、タリバンの母体であるパシュトゥン民族を根絶しなければならない。それは、ヒトラーでもスターリンでもできない業だ。
〔eye1026:100730〕
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