原子力委の「議案隠し」は許せない
- 2012年 5月 9日
- 時代をみる
- 池田龍夫
関西電力・大飯原発(福井県おおい町)3、4号機の再稼動の是非をめぐって、世論の関心が高まっている。野田佳彦政権は第一次ストレステストの報告を受けて再稼動への意向を固めたものの、地元自治体との調整が難航している。
なぜ削った? 「地域社会との共生」
政府の打開策を待ち望んでいたところ、内閣府原子力委員会の「議案隠し」が発覚したとの報道に驚かされた。毎日新聞5月8日付朝刊が特報した記事によると、有識者で構成する「新大綱策定会議」(議長・近藤駿介原子力委員長)は現在、原子力政策指針づくりを進めている。ところが、その議案書の一つから「(原子力と)地域社会との共生」という記述が消されていたことが、明るみに出てしまった。有識者委員会は原子力政策をゼロベースから見直す目的で設置されたものだが、隠蔽体質は改まっていないようだ。
近藤委員長は、毎日新聞の取材に対し「事務局から『地域との共生』についての報告を受けたが、議案が煮詰まっていなかっただけ」と弁明している。しかし、「地元の理解が必要」と受け取られるような記述を避けたに違いない。当面、大飯原発再稼動の難題があるだけに、恣意的に隠蔽したと考えられるのである。大飯原発に隣接する京都、滋賀、大阪から早期稼動に反対する声が強まっている中で、公平・中立であるべき原子力委員会の責任は極めて重大と言わなければならない。
事故原因究明など3条件の確認が前提
原発再稼動をめぐっては①福島事故原因の徹底究明、②事故責任の明確化、③原子力行政の抜本改革――この3原則を確認したうえで、改めて論議して結論を出す慎重さが求められる。近藤氏が事故後も原子力委員長にとどまっている点にも批判が上がっており、「原子力規制庁」発足を急いで、原子力行政・新エネルギー戦略の策定に全力を傾注すべきだ。
玄海原発周辺の自治体も安全協定を要請
原発の安全をめぐる自治体の不安が日に日に高まっており、今度は玄海原発(佐賀県玄海町)から30㌔圏内にある伊万里市と長崎県松浦市、佐世保市、平戸市、壱岐市の市長らが5月7日、九州電力に原子力安全協定の締結を要請した。山元春義副社長は「30㌔圏内の自治体とは安全協定の締結に向け、協議のテーブルに着きたい」と回答。玄海原発については玄海町と佐賀県が協定を結び、玄海町以外の県内10市9町も先月九電に締結を求めている。30㌔圏内には唐津市と福岡県糸島市も入るが、唐津市は市長会で要請したため、今回の要請活動には不参加。糸島市は4月に連絡体制の確立などにとどめた安全協定を締結しているという。
地元との合意形成なくして、原発再稼動を強行できない状況が各地で盛り上がっている現実を直視することをためらってはならない。その点から見ても、原子力委の情報隠しの姿勢を許してはならないと思う。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔eye1939:120509〕
「ちきゅう座」に掲載された記事を転載される場合は、「ちきゅう座」からの転載であること、および著者名を必ず明記して下さい。