マンケルの警察小説
- 2012年 5月 11日
- 交流の広場
- Henning MankellKurt Wallanderとら猫イーチ
私は、イギリスの推理小説と映画(TV)が好きだったのですが、最近、遅まきながら、彼のヘニング・マンケル(Henning Mankell)に魅せられ、スウェーデン語は、日常会話がやっとと云う程度なので、英訳書を読み始めました。 また、本国スウェーデンのTV連続ドラマを取り寄せて観ています。 どうやら見事に嵌ってしまったようです。
この推理小説と云うよりも警察小説は、筆者が可成りの年齢に達してからの作品である所為か、老境に差し掛かりつつある職業人の悲哀を醸し出しつつ、北欧の小国の小さな街に起きる犯罪と格闘する警察署の刑事達を見事に描いています。
主人公のKurt Wallanderは、妻と離婚し、娘とは中々分かり合えず、自身の健康への不安をも持ちながら、少数の部下を率い現代の北欧が直面する犯罪に対応しなければなりません。 舞台に為る街は、スウェーデン南部の港町Ystad(イ―スタッド)。 平和な北欧の街のイメージを壊すような犯罪が起き、人々の抱える悩み・困難には国境が無いことが分かります。 永世中立・平和国家の実相は、他国と大差が無いのです。
小説よりも、連続TV番組の方が、映像であるだけに分かり易いし、理解も進みます。 何より、出演者が皆役柄に為り切っているようです。 主役Wallanderは、Krister Henrikssonが務めています。 今日の北欧が置かれている状況を反映しているように、刑事達は、9㍉口径のシグ・ザウワ―を携帯しています。 また、短機関銃携帯の警察特殊部隊も頻繁に出て来ます。
緊迫した映画ですが、出演者が話すスウェーデン語が彼の地独特の風合いを感じさせます。 また、背景と為る風物、中でも、森林の緑までもが気温の低さを感じさせる程に「薄い」のが特徴です。
エピソードは、オリジナルが中心ですが、これは、マンケルの小説自体が十数本のみですので、TVのためにオリジナルの脚本を作ったからです。 イギリスの「モース警部」のシリーズでも原作のみでは、とても足らなかったのですから、同じ事情が伺えます。 昨夜は、第3集の最終作品である「The Leak」を観ましたが、今日からは、第4集です。 この集の装丁を観ると「The Swedish Morse」(The Radio Times)との評が載っています。 また、The Guardianに載った、「ABBA以来のスウェーデン最大の輸出」である旨の評もあります。 大人の読む(観る)作品であると思います。
因みに、「The Leak」は、良く出来た作品でした。 警備情報の漏えいが主題でしたが、漏えいの理由と漏えい元が以外なところにあったのが印象に残ります。 皮肉な結末にはマンケルの人生観が出ているのでしょうか。 また、主人公のKurtは、小さな幸を大切にする人だと思われました。 このエピソードの救いです。 私とは違い、犬と同居をしているのですが。
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