菅直人・前首相「原発事故調での証言」について
- 2012年 6月 1日
- 時代をみる
- 池田龍夫
国会の原発事故調査委員会(黒川清委員長)は5月28日の第16回会合に菅直人・前首相を参考人に招き、2時間50分にわたって、原発事故当時の対応を中心に証言を求めた。29日付朝刊各紙が詳報しているので、本稿では「傍聴記」の形で問題点を絞って報告する。
「原発事故は国の責任」と陳謝
(1)菅氏は冒頭「原発事故は国の責任」と陳謝したが、「情報が上がらなくて迅速に対策を打ち出せなかった」との弁明が多く、危機的状況に対する政府や東電の当事者能力の欠如を思い知らされた。先の海江田万里氏、枝野幸男氏の証言と大差なく、事故発生の昨年3月11~15日の情報混乱ぶりを再確認しただけで、最高責任者としての責任ある姿勢が感じられなかった。
(2)3月15日に東電本社に乗り込み、東電幹部を激しく叱責して「事故現場からの撤退」を思い止まらせた状況を詳しく証言。東電幹部はいぜん「全面撤退など言ってない」と主張しているが、「政府・東電統合対策本部事故」の設置を菅氏が指示した点は評価したい。これ以後、情報の流れがかなり改善されたと思う。
「原子力ムラ」の罪を指摘、「脱原発」の決意を訴える
(3)詳しい問答は、朝刊各紙を参照願いたいが、質疑の最後に述べた菅氏の言葉が強く印象に残った。各紙の扱いが目立たなかったので、発言の要点を紹介しておく。
「戦前、軍部が実権を掌握していた。そのプロセスは、東電と電気事業連絡会を中心と
する、いわゆる『原子力ムラ』と重なるものが見えた。現在『原子力ムラ』は、事故に対する深刻な反省もしないまま、原子力行政の実権を握り続けようとしている。原子力行政の実権を掌握し、批判的な専門家や政治家、官僚は村八分にされ、多くの関係者は自己保身と事なかれ主義に陥って眺めている。今回の事故では最悪の場合、首都圏3000万人の避難が必至となり、国家の機能が崩壊しかねなかった。このような戦前の軍部にも似た『原子力ムラ』の組織する構造を徹底的に解明して、解体することが原子力行政の抜本的改革の第一歩だ。今回の事故を体験して最も安全な原発(の対策)は、原発に依存しないこと。 つまり脱原発の実現だ」と言い切った。
原子力安全神話に振り回された菅氏の悔恨と、「脱原発」への強烈なメッセージと受け止められるが、なぜ首相在任中に、原子力行政の抜本改革に手をつけなかったかと問いたい。原発推進役だった原子力安全委員長も原子力委員長もいまだに居座っており、菅氏の責任も大きいはずだ。さらに事故後、原子力安全・保安院の経済産業省傘下からの分離も指摘されていたが、4月発足予定だった「原子力規制庁」は宙に浮いたままだ。
もっと「国政調査権」を行使して真相に迫って欲しい
(4)これまでの参考人証言を聴く限りでは、事故責任を問う材料がなお不足しているように思える。非公開で関係者からも聴取も行っているようだが、その情報も開示すべきだ。事故当時の東電社長・清水正孝の聴取や東電技術者や内閣参与(外部の学者ら)の証言も求めてもらいたいと思う。「国政調査権」を付与されている国会事故調としての権限をさらに行使して真相解明に迫ってもらいたい。
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