米軍再編と普天間基地の行方─〝日米軍事一体化〟促進に狙い
- 2012年 6月 2日
- 時代をみる
- 池田龍夫
野田佳彦首相とオバマ米大統領は4月30日(日本時間5月1日)ワシントンのホワイトハウスで会談。両首脳は直ちに、日米同盟の新たな指針として海上安全保障・経済分野のルールづくり促進と、日米防衛協力強化を柱とする共同声明=「未来に向けた共通のビジョン」を発表した。
首脳会談3日前の4月27日、日米両政府が外務・防衛担当閣僚4人の連名で公表した「共同文書」をベースにしたもので、「多様な緊急事態に日米同盟が対応する能力を高める」と規定している。米政府がアジア太平洋地域での軍事戦略見直しを急いだ背景には、軍事的・経済的攻勢のいちじるしい中国を牽制する狙いがあり、中東に集中していた米軍を、アジア太平洋地域にシフトする戦略への転換を明示したものだ。
小泉純一郎政権時(2006年)以来6年ぶりの「日米首脳声明」であり、特に09年の民主党政権後ギクシャクした両国関係を修復する意図が窺える。日米同盟の基本線が変わらないことを演出して、〝日米軍事一体化〟の様相がさらに色濃くなったように感じる。
「動的防衛力」強化を目指す配置
オバマ政権は、米議会の「防衛予算の大幅削減」要請を受けて、世界に展開する米軍を重点配置に切り替え、同盟国を抱き込んでの「戦略建て直し」を目論んでいる。
「4月25日の共同文書発表」が繰り延べされたのは、米上院軍事委員会のレビン氏ら3上院議員が要求した「普天間飛行場移設」の調整に手間取ったためだった。最終的にはクリントン国務長官が3議員を説得して、「日米会談」を一応成功させたものの、懸案は先送り。普天間飛行場移設やTPP(環太平洋パートナーシップ協定)などホットな問題解決への道筋は全く示されなかった。特に海兵隊のグアム移転をめぐって、米議会との調整が難航。結局、「辺野古移設」に必ずしも固執しないとの表現に修正して〝ごまかし合意〟を計った感が深い。日米首脳共同声明は小泉政権時代の2006年以来で、鳩山政権以降の両国関係を修復する狙いもあったと考えられる。今回の共同声明では「防衛協力のさらなる強化を目指す」と表明。沖縄・南西諸島などで警戒監視活動を強化する新たな防衛計画大綱の「動的防衛力」とアジア太平洋を重視する新たな米国防戦略に触れ、自衛隊と米軍の連携を深める方針を明示している。また、「緊急事態に日米同盟が対応する能力をさらに高める」と指摘。海洋・宇宙・サイバー分野については、中国による海洋資源確保や宇宙開発を踏まえて「ルールに基づいた利用の確保」を盛り込むなど〝日米一体化〟を強調した文書である。
自衛隊・米軍の連携を緊密に
共同声明の付属文書に「動的防衛協力」を明記したが、その目的は即応力・機動力を重視した部隊の運用によって、効率的な対応を目指す軍事戦略だ。2010年の「防衛大綱」に、自衛隊と米軍の共同訓練などが盛り込まれていたが、今回の共同声明によって具体化へ踏み出したと考えられる。それによると、在沖縄米海兵隊は約9000人を国外移転することとし、常時即応態勢にある海兵空陸任務部隊(MAGTF)を沖縄に加え、グアム、ハワイに分散配置、オーストラリアにもローテーションさせる計画だ。またグアムやテニアンに日米共同使用を想定した訓練場の整備、陸上自衛隊と米第3海兵機動展開部隊(3MEF)の共同訓練が盛り込まれている。まさに、太平洋地域での戦略的大転換を示すものだが、果たして国会論議が行われただろうか。野田政権が、米国主導による「動的防衛力」強化構想に引き込まれたと感じざるを得ないのである。一歩間違えば、日本国憲法と集団的自衛権に抵触する恐れすら内包する重大問題でなかろうか。
「普天間基地固定化」を危惧
普天間飛行場の「辺野古(名護市)移設」の見通しが立たないため、別の代替地に含みを残す文言が付け加えられたが、姑息な対応ではないだろうか。また在沖縄米海兵隊のグアム移転と沖縄本島中南部の米軍5施設・区域の返還を、「米軍普天間飛行場の移設計画」から切り離して進めることになったが、米海兵隊の一部がグアムに移転しても、約1万人の隊員は沖縄に残留する。1996年の返還合意以来、16年も漂流を続けている『普天間移設』決着の道筋はいぜん不透明で、打開の道は見えてこない。「普天間飛行場固定化」につながることを危惧する声が高まっている現状を深刻に受け止めなければならない。
そもそも、SACO(日米特別行動委員会)合意では、2014年までの移設を目標に掲げていたが、「辺野古案」が暗礁に乗り上げたため普天間の返還時期は後退。昨年6月の日米合意では「できる限り早い時期に」という曖昧な表現に変わってしまった。さらに問題なのは、今回の日米協議の中で、米国側が18~19年度に普天間飛行場滑走路の大幅な改修工事を実施する計画であることを明らかにした点である。公式には「辺野古案を堅持する」と言いながら、今後も普天間を使い続けるという虫のいい話ではないか。嘉手納基地以南の施設を、普天間移設と関係なく先行的に返還するのは歓迎だが、肝心の普天間返還が遠のくことになれば本末転倒。これでは沖縄の県民感情を逆撫でするばかりである。
沖縄タイムスが4月29日の社説で、「日米共同文書には、普天間県外移設を求める沖縄の意向が全く反映されていない。誰のための『見直し』なのか。日米首脳会談で、同盟の深化を演出したい両政府の思惑を優先したのが実情だろう。共同文書には、普天間飛行場の補修に日米で取り組むことも盛り込まれた。住民の生命・財産を危険にさらし続ける基地を維持するために血税を注ぐ。この不条理と向き合うのは県民には耐え難い。…嘉手納基地より南の米軍施設の『先行返還』で得点を稼ぎ、普天間飛行場の辺野古移設に向け、県の軟化を促す。これが官僚の描く筋書きだった。日米交渉の読みの甘さ、県民世論とのピントのずれは救い難い。逆の見方をすれば、政府は辺野古移設を進めるまともな手だてを持ち合わせていないことの証しでもある」と指摘、主体性のない日本外交を厳しく批判している。
毎日新聞は5月15日付社説で、「毎日新聞と琉球新報の共同世論調査では、沖縄への米軍基地集中について沖縄の『69%が不平等だ』と回答、全国では33%だった。普天間移設は、『県外』『国外』『撤去』の合計が沖縄89%、全国63%だった。本土も沖縄も安全保障上の利益を等しく享受しながら沖縄に基地が集中していることに、県民は強い不満を抱いている。……米軍基地や訓練場の一部を本土に移転させ、本土側が沖縄の意識を共有することが第一歩であり、政府の努力が不可欠だ。同時に必要なのが、米議会の有力議員が主張する普天間を嘉手納基地に統合する案は、現在の嘉手納基地機能の一部移転が前提になる。それなしには沖縄の理解は得られない。移転先は本土が想定される。また、普天間移設実現まで普天間の機能を分散移転する場合も本土の協力が欠かせない。政府も、本土も、沖縄の『叫び』に正面から向き合うべきである」と訴えていた。
〝欠陥機〟オスプレイ配備に驚く
「普天間移設」決着を急がねばならない時期に、米軍新型輸送機MVオスプレイ12機を沖縄に直接配備する方針が示され、県民感情をさらに硬化させてしまった。日米両政府は当初、キャンプ富士(静岡県)岩国基地(山口県)のいずれかに配備する計画だったが、地元自治体の反対によって断念。普天間への直接配備に切り替え、7月中に那覇軍港に持ち込んで組み立て、10月に普天間に配備する計画という。仲井真弘多知事は5月11日、「普天間飛行場は宜野湾市の真ん中にある。オスプレイは開発期間中にいくつかの死亡事故を起こし、最近も運用トラブルがあった。人の良い沖縄県民でも分かりましたとは言えない」と直ちに反対を表明、那覇市長らも強く反発している。
「沖縄の本土復帰40周年」記念式典が15日宜野湾市で開かれ、野田佳彦首相ら関係者が参列したが、単なるセレモニーの印象だったことが悲しい。全国の米軍基地の74%が沖縄に集中していることこそ、〝沖縄差別〟の実態であることを深刻に受け止めたい。仲井真知事が「普天間飛行場の県外移設と早期返還を県民は強く希望している」と再度強調したが、日本国民はその訴えを共有し、「普天間固定化」を防ぐ抜本策を早急に打ち出すべきである。
初出:「メディア展望」6月号(新聞通信調査会)より許可を得て転載 ――編集部
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