小さな村の根深い行き違い
- 2012年 6月 22日
- 評論・紹介・意見
- 岩田昌征
新聞紙面やテレビ画面から旧ユーゴスラヴィアの諸地域における民族浄化や宗教紛争のニュースが殆ど見えなくなってから久しい。だからと言って、コソヴォにおけるセルビア人とアルバニア人の対立が消えたわけではない。EUに入りたいセルビアと言う国家とアルバニア人のコソヴォ独立国家を支援するEU・アメリカとのメビウスの輪的な対立に姿を変えたのである。最近国連総会の議長にEUやアメリカが支援するリトアニアの国連大使を制して、ロシア等の支持を得てセルビア外相ヴゥク・イェレミチが選出されたが、これなどは久しぶりに小国セルビアが欧米諸大国に一矢を報いた形となった。同時にセルビア国内的に見れば、民族問題や宗教問題をあえて表面化させず、市民社会の体裁のみを対外的にアッピールして――例えば、ホモ・ゲイ達の市民権デモを国家的に警察的に保護する姿勢をアッピールして、EUになるべく早く受け入れてもらいたい市民主義的勢力に対して、EU加盟に支障があってもあくまでもコソヴォ独立を承認しない民族派勢力が久しぶりにポイントを取ったことになる。
ところで、ここではセルビアを離れて、マケドニアにおけるマケドニア人とアルバニア人の宗教的・民族的対立の小さなニュースを紹介しよう。
マケドニアの西南部、都市ビトラの近くにラジェツという小村がある。マケドニア人120人、アルバニア人80人が住む。6年前から村人達の間でイスラム寺院(モスク)の建設に絡んで小さいが根深い紛争が続いている。マケドニアのイスラム共同体はラジェツ村にモスクをたてることを決めて、当局は村の入り口にモスクをたてることを許可した。勿論、アルバニア人は喜んだ。しかし、マケドニア人は反撥した。「自分達はモスクに反対なのではない。ロケーションが問題なのだ。村のマケドニア正教の教会堂に並んでモスクを建てるべきだ。そうすれば、ラジェツ村が両民族共生の地だとわかる。村の入り口にモスクが建てられれば、ラジェツはあたかもアルバニア人だけが住んでいるかのようなシグナルを表示することになる。」アルバニア人側は建築の用意万端すべて整っており、国家が定めた場所にたてると譲らない。
このような6年にわたる争論の中で、村の共生的性格は弱まり、両者の日常的交流もとだえた。例えば、パン等の日用必需品に関してさえマケドニア人商店とアルバニア人商店が出来て、両者は別々に買い物する。(『ポリティカ』2012.Ⅵ.13)
このような小さな村の根深い行き違いの総和が民族問題なのであろう。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔opinion0917:120622〕
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