原子力の軍事利用に道を開きかねない原子力規制委員会設置法付則と原子力基本法改悪
- 2012年 6月 24日
- 交流の広場
6月20日に成立した「原子力規制委員会設置法」については、 eシフトの【声明】「原子力規制庁の設置に関するNGO声明」 http://e-shift.org/?p=1895
http://e-shift.org/wp/wp-content/uploads/2012/04/120427_eshift_kiseicho.pdf
【eシフト声明】 原子力規制委員会の同意人事に関する緊急アピール
http://e-shift.org/wp/wp-content/uploads/2012/06/120621_緊急アピール.pdf
などでも指摘されているさまざまな問題がありますが、それ以外にも重大な問題があります。
成立した「原子力規制委員会設置法」の付則の第一二条で、「原子力の憲法」ともいわれる「原子力基本法」の「平和利用」の基本原則をゆがめて、「我が国の安全保障に資することを目的として」という文言の下、原子力の「軍事利用」に道を開きかねない「原子力基本法」改悪を、ほとんど議論の行われない中、忍び込ませ、成立させたのです。
「原子力の憲法」ともいわれる原子力基本法(1955年成立、1978年の改正)は、 その第二条で、「平和の目的に限り、安全の確保を旨として、民主的な運営の下に」と規定していたが、今月6月15日に衆議院で可決、6月20日、参議
院で可決、成立した原子力規制委員会設置法は、その付則の一二条で、 この原子力基本法第二条に第二項を追加、原子力利用の「安全確保」は 「国民の生命、健康及び財産の保護、環境の保全並びに我が国の安全保障に資することを目的として」行うとし、「我が国の安全保障に資することを目的」という項目を付け加えた。これは「平和の目的に限り」としてきた(もちろんこの「原子力の平和利用=原発の推進」という考え方自体は問題だが)基本原則を空洞化させ、「原子力の軍事利用」に道を開きかねないものである。
これに対しては、「世界平和アピール7人委員会」が<原子力基本法の基本方針に「安全保障に資する」と加える改正案の撤回を求める>とのアピール
http://worldpeace7.jp/modules/pico/index.php?content_id=127 を出し、
日弁連も「原子力規制委員会設置法成立に対する会長声明 」で、
http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/statement/year/2012/120621_4.html
その問題性を以下のように指摘している。
(1) 本法律さらには原子力基本法の目的規定に「我が国の安全保障に資すること」が加えられている。これは、従前の原子力基本法の目的である「人類社会の福祉と国民生活の水準向上」に異質のものを持ち込むのみならず、安全保障を掲げることによって原子力利用について非公開のものを作り出し「自主・民主・公開」の基本原則(原子力基本法2条)を空洞化させる危険がある。また、国会における審議において、安全保障を掲げることにより軍事転用を図ることはないとの答弁がなされ、さらに、附帯決議において、「我が国の非核三原則はもとより核不拡散についての原則を覆すものではないということを国民に対して丁寧に説明するよう努めること」とされているとはいえ、従前の原子力基本法では、原子力利用が「平和の目的に限」られていたところ、「安全保障」の名の下に軍事転用を許す懸念は払拭できない。このことは、東京電力福島第一原子力発電所事故の反省の下に原子力利用の安全性を確保しようとする本法律の目的とは全く異質のものである。このように原子力基本法の目的規定に安全保障を掲げることが、広島・長崎 ・福島を経験した我が国において、さしたる国民的議論もないまま国会で実質的議論がなされることもなく、原案のまま成立したことについては、深い憂慮を覚えるものである。 (日弁連会長声明より引用)
また「原子力規制委員会設置法」の「付則」で、「原子力の憲法」ともいうべき「原子力基本法」の基本原則を、こっそり変えてしまうことは大問題である。
「世界平和アピール7人委員会」のアピールでも指摘しているように、「基本法」は憲法と個別法の間にあって、個別法より優先した位置づけがされていることを考えれば、個別法の附則によって基本法の基本方針を、まともな討議もせずに変更することなど許されない。
東京新聞は6月21日付の社説<「安全保障」追加 平和の理念ゆがめるな>
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2012062102000113.html
および6月21日付の記事<東京新聞:「原子力の憲法」こっそり変更>で、この「安全保障」追加と原子力基本法の重大な変更の問題性を指摘している。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2012062102000113.html
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2012062190070419.html?ref=rank
なお1955(昭和30)年制定の「原子力基本法」は、1974年の原子力船むつの放射線漏れ事故を受け、原子力安全委員会を創設した1978年の改正で、基本方針に「安全の確保を旨として」の文言を追加したが、この原子力基本法にある「安全確保」に対し、今回「我が国の安全保障に資する」ことを目的とするという文言を挿入したことは、重大な問題である。そもそも「安全の確保」と今回こっそり追加された「我が国の安全保障」とは、異質のものである。「安全の確保」”safegurd”と「国家安全保障」”national security”は別の概念である。
原子力規制委員会設置法の自民党・公明党案作成の中心となった塩崎恭久衆院議員(自民)は(我が国が)「核の技術を持っているという安全保障上の意味はある」と指摘。「日本を守るため、原子力の技術を安全保障からも理解しないといけない」と述べている。
また「原子力規制委員会設置法」が成立した同じ6月20日は、「改正宇宙航空研究開発機構法」も成立した。ここでも「平和目的」に限定された条項が変更され、「防衛利用」への参加を可能にした。単なる偶然とは考えられない、重大な意図が感じられる。核の軍事利用と宇宙の軍事利用、非常に危険な方向である。
「世界平和アピール7人委員会」の今回のアピールでも、「国会決議によって、平和利用に限り、公開・民主・自主の下で進められてきた日本の宇宙研究・開発・利用が、宇宙基本法の目的に、「わが国の安全保障に資すること」を含めることによって、軍事利用の道を開いたことを忘れることもできない。」と指摘されている。
韓国など周辺諸国では、今回の「我が国の安全保障に資することを目的」明記に対して、日本の核武装化に道を開くものとして、強い懸念、反発が
起きている。
韓国・東亜日報[社説]「核の軍事利用への道を開く日本」(6月22日)
http://japanese.donga.com/srv/service.php3?biid=2012062272458
韓国・中央日報 【社説】「核武装疑惑を自ら招いた日本」(6月22日)
http://japanese.joins.com/article/180/154180.html?servcode=100§code=110
韓国・朝鮮日報【社説】中朝の軍事力拡大を口実に核武装目指す日本(6月22日)
http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2012/06/22/2012062201108.html
「日本でひそかに成立した原子力規制委設置法」(韓国・朝鮮日報・6月22日)
http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2012/06/22/2012062201114.html
「日本が原子力関連法を改正、韓国政府の反応は?」(韓国・朝鮮日報・6月22日)
http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2012/06/22/2012062201119.html
「日本の核武装疑惑表現、自民党がこっそり追加」(1)(韓国・中央日報・6月22日)
http://japanese.joins.com/article/166/154166.html?servcode=A00§code=A00
「日本の核武装疑惑表現、自民党がこっそり追加(2)(韓国・中央日報・6月22日)
http://japanese.joins.com/article/167/154167.html?servcode=A00§code=A00
「日本、核兵器5000発分のプルトニウム保有」(韓国・中央日報・6月22日)
http://japanese.joins.com/article/187/154187.html?servcode=A00§code=A00
「被爆国日本、タブーを破り軍備拡張に乗り出すのか」(1)(韓国・朝鮮日報・6月22日)
http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2012/06/22/2012062201110.html
「被爆国日本、タブーを破り軍備拡張に乗り出すのか」(2)(韓国・朝鮮日報・6月22日)
http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2012/06/22/2012062201110_2.html
日本「核武装合法化」…韓国政府「鋭意注視」(韓国・中央日報・6月21日)
http://japanese.joins.com/article/143/154143.html?servcode=A00§code=A10
「韓国外交部「日本を注視する」…核武装の可能性には懐疑的」
(韓国・中央日報・6月22日)
http://japanese.joins.com/article/174/154174.html?servcode=A00§code=A00
北朝鮮の核を根拠に「核武装」に進もうとする日本(韓国・東亜日報・6月22日)
http://japanese.donga.com/srv/service.php3?biid=2012062272878
「日本が核武装するはずがない…」 韓国政府、状況を注視
(韓国・東亜日報・6月22日)
http://japanese.donga.com/srv/service.php3?biid=2012062272868
「日本の核武装、現実には難題山積」(韓国・朝鮮日報・6月22日)
http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2012/06/22/2012062201116.html
これら韓国マスコミの批判に対して、産経新聞は、6月24日付[主張]で
<原子力基本法 「安全保障」明記は当然だ>と主張している。
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/120624/plc12062403110004-n1.htm
そこでは、「基本法の改定が核兵器製造に直結しない」としながら、「使用済みの原子力燃料」の「再処理」継続の必要性を述べ、(核)「抑止力などの観点も含めて原子力技術を堅持することは
日本の安全保障にとって不可欠である。非核三原則の見直しなどの論議も封殺してはなるまい」と主張している。
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