メディアは異常ではないか。「消費増税、一体改革法案採決に思う
- 2012年 7月 6日
- 評論・紹介・意見
- 関千枝子
消費大増税と社会保障一体改革法案で、法案採決をあおるメディアは異常と思えた。メディアは、この問題に対しては「決められる政治」と野田首相を褒め称え、「造反の抑制に全力を挙げよ」と力説した。原発に対して野田内閣のやり方に批判的なところもこの問題に対しては一貫して野田氏を賛美、激励。この間1か月ほど、記事だけでなく、社説等をあふれるほど出した。こんな現象はかつてなかったのではないか。原発等で「保守派」のイメージの強い読売が16本なのはまあわかるとして、「進歩派」とみられる朝日が14本も出し、際立って熱心だったのは、呆れた。
野田総理は、とにかく消費税を増税したいの一心である。民主党内でも反対やためらいの声が多いのに、そのためには、野党の自民、公明と密室談合、社会保障政策もどんどん後退した。これでは、造反が出るのは当たり前と思うのに、メディアは「ひるむことなく採決に進め。造反者には厳正処分を」である。
この間、小沢グループが大きく話題に上がるのだが、小沢一郎氏の「人気のなさ」=ぶち壊し男、金に汚い=のイメージが、メディアの「造反叩き」に拍車をかけたようだ。私も小沢一郎氏に対しては、悪いイメージが強い。しかし、そうした過去を差っ引いても、今回のケースに関する限り、どう考えても小沢氏に「理」があると思うのだが。民主党の公約違反であり、増税の前にやるべきことがあるというのは道理にかなっている。それを増税先行批判は筋違い、大胆に妥協(自民党と)を、ぶれずに採決を、と叱咤激励。「決められる政治」の第一歩となったとほめあげる。「決められない政治」に、国民はイライラしているかもしれないが、何でもかんでも「決めればいい」というものではない。
小沢叩きで、小沢氏は、「増税反対は言うが、どうすればいいか言わない、選挙目当ての人気取りだ」とも批判した。確かに、小沢氏は、公約を反故にしたことを言い、ほかにするべきことがあると言ったが、何をするべきかはっきりは言わなかった。しかし、それを言うなら、大増税に反対した小野党などで、消費税は国民の暮らしを苦しくし却って不景気を呼び込むと、他の税の取り方を具体的にあげているところがある。消費税についてもっと根本的な論議をすべきなのに、それをせず、野田首相のやり方だけしかない、造反は許すなと言った論だけが突出しているのは何事だろう。全メディアを挙げてのこの異常な熱、なんだろう。
テレビなどで、この報道に付随して出てくる「街の声」も不思議だった。消費税は困るわねえ、と言いながら「でも、社会保障のために仕方がないのでしょう。」といった声ばかり出てくる。街の声など、どんな声でも操作できるのだからと思うが、それにしても変である。私は、小沢離党、処罰騒ぎの後、街に出かけることがあったので、少し声を聞いてみた。小さな洋品店をやっている中年夫婦。独特の品ぞろえで厳しい世の中でかなり善戦しているところである。念のため、この夫妻は私とはかなり考えが違い、「保守派」で石原慎太郎氏の大ファンである。「消費税増税などとんでもない。小沢氏にもっと頑張ってほしかった。石原慎太郎も今回はだめだ。もうファンは辞めた」という。消費税があがったら小さな店がどんなに困難になるか、たっぷり話を聞かされた。
タクシーを拾った。景気のことを聞くとき。私はタクシーの運転手に話を聞く。これほど景気が敏感に響く職種はないと思うからだ。「いや、今でもいっぱいいっぱいなのに、これで消費税が上がったら、私ら、もう食べていけないと思うよ」深刻な声が帰ってきた。ある調査によると消費税増税反対は6割を超えるという。その数は変わっていないと思った。
この間のメディアの対応に、「良心的」な評論家の批判もあまり聞けなかった。原発に対してはかなり厳しい批判をしている人もだんまりである。これはなんだろう。不気味を通り越して、私は恐ろしい。
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〔opinion0927:120706〕
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