脱原発法が国会提出されました!
- 2012年 9月 8日
- 評論・紹介・意見
- 海渡雄一脱原発法
○103名の国会議員の賛成・賛同で法案提出
本日9月7日、ついに脱原発法が国会提出され、継続審議となった。
脱原発法制定全国ネットワークが超党派の国会議員に提案を求めていた、遅くとも2020年から25年までの脱原発実現などを定めた「脱原発基本法案」が9月7日午前9時過ぎに衆議院事務総長に、13名の提出者(新党「国民の生活が第一」、社民党、新党きずな、減税日本、新党改革、新党大地・真民主の六会派)によって、23名の提出会派と無所属議員(土肥隆一氏)を含む賛成者を得て提出された。
法案提出の記者会見に際して、全国ネットワークは、この法案提出に会派としては参加しなかったが、民主党議員(55名)、みんなの党、みどりの風、たちあがれ日本、無所属議員(糸数慶子氏)など合計で67名の賛同議員名簿を公表した。(名簿の詳細はネットワークHPに掲載)。
以上のとおり、9月7日の時点で、この法案提出には、提出・賛成者と賛同議員を合計して103名の議員が賛同したこととなる。今後、全国ネットワークは賛同議員を増やし、次の臨時国会以降の国会で法案成立を求めて活動していく方針である。
同法案は、期末処理で継続審議とされることが決定された。
○大江健三郎氏らのことば
衆院第2議員会館で記者会見したノーベル賞作家の大江健三郎さんは「議員が個人の意思を発揮して法案提出されたことに改めて希望を持った」「国民、市民が(原発に)反対の意思をはっきり示すしかない」と強調した。弁護士の宇都宮健児さんは「市民と議員の協力で国会に法案を提出できたことは画期的だ。次は国民運動を巻き起こして、この法案を現実に成立させなければならない」と述べた。鎌田慧さんは「さよなら原発1000万人署名をしながら、どうやってさよなら原発を現実のものにしようかと考えてきた。法案提出でゴールが見えてきた」と述べた。原子力資料情報室の伴英幸代表は「情報室の前代表である高木仁三郎が呼びかけたときには、300万人以上の署名を集めても法案の提出に至らなかった。法案提出にこぎ着けたことは感慨深い」と述べた。
同法案では、政府に対して、「遅くとも2020~25年までのできる限り早い時期」に脱原発を実現させるとし、最新の科学的知見に基づく災害防止基準に適合しなければ、原発の運転を認めないとして、再稼働にも厳しいハードルを課している。
電力会社の発電事業と送電事業を分ける発送電分離、再生可能エネルギーの拡大、原発の立地地域や周辺の経済への影響に適切な対策を講じることも盛り込まれている。
○衆議院選挙のリトマス試験紙に -ネットワークの今後の活動-
ネットワークは8月22日の立ち上げ以降、今国会中の法案提出を目的に大車輪で活動してきた。このような方針をとった理由は、秋以降の早い時期に衆院解散が実施され、総選挙では今後の原子力政策が大きな争点となるにもかかわらず、各政党、候補者の政策は明確でないなか、明確な争点を提示する必要があると考えたからだ。年限の明らかでない「脱原発依存」政策と脱原発時期を明記した法案に賛成を表明している政党・候補者を見分け、次の国会で脱原発政策を確実に実現するためのツールとして、法案をこの国会に提案する必要があると考えたのだ。
全国の仲間からは、二つの声が寄せられている。一つの声は、「国策としての原発推進を転換させるため、このような活動を期待してた。各地でどのように活動したらよいのか、方法を教えてほしい。」という積極的な声だ。ネットワークとしては、ステッカー、脱原発法政治契約、運動マニュアルなど各地の脱原発運動がこの法律をツールとして活動する時の「パッケージ・ツール」を作り、弘めたいと考え、賛同団体を募っている。ぜひともご協力を!
○脱原発法制定運動と再稼働反対のための活動は矛盾しない
もう一つの声は、法案は2020年から2025年まで原発の稼働を認めているようにみえる。この法案は再稼働を認める事とならないかという危惧の声である。脱原発法は、大飯3,4号機などの原発再稼働を容認するものではない。法案には個別の原発の再稼働は、最新の科学的知見に基づいて原子力規制委員会が定める技術上の基準に合格することが最低限の条件であることを明記した。私たち脱原発弁護団全国連絡会は福島原発事故の事故原因を踏まえた安全対策も執られていないのに原発の再稼働をすることに強く反対し、すべての原発の再稼働を止めるための訴訟に取り組んできた。規制委員会のトップに原子力ムラの人々が選任されることを阻止するための活動にも取り組んでいる。
今必要なことは、一つ一つの再稼働を止めるだけでなく、これまで54基もの原発の設置を許可し、運転を認めてきた国の政策を、法律によって明確に方向転換することだ。日本が国として脱原発政策を選択し、廃炉や立地地域の産業復興などに国を挙げて取り組むためには、再稼働を止めるだけでは不十分であり、国会の多数による法律という形での決定を避けてとおることはできない。
大江健三郎さんは、ネットワークの結成時の会見で、「小説を書いている人間として、一人の市民として、原発は根本的な倫理に反するものだと申し上げてきた。私たち、今生きている人間の根本的なモラルは、次の世代の人間が生きていくことを妨害しないことだ。そのためには原発をすぐにやめなければならない。
大飯原発の再稼働を許したじゃないかと言う、敗北感、無力感を、強く感じながら、私はこの夏を過ごしていた。脱原発法は、遅くとも2020~25年には脱原発を実現するという、根本的でありながら、現実的な政策だ。」と述べられた。
ドイツにおいても、福島原発事故後に2011年5月に国民的なコンセンサスによって2022年までの脱原発が国の方針となったが、2011年7月に原子力法を改正している。2022年までに国内17基の原発を停止する内容で、福島第1原発の事故後、運転を停止している旧式の8基はこのまま閉鎖し、残る9基については、15、17、19年に各1基、21、22年に各3基を順次停止していくことが確認されている。
原発をやめるべきだという私たち一人一人の倫理的な判断を政治的な現実に転化していくためには、国会における法律がどうしても必要なのだ。全国で再稼働反対に取り組むことと、脱原発法制定に取り組むことは同じ目標のためのひとつながりの活動であり、互いに矛盾するものではない。自信を持って取り組んでいこう。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔opinion988:120908〕
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