JR採用差別問題は終っていない 国会周回マラソンと国会前ハンスト、そして今後の闘い
- 2012年 9月 15日
- 評論・紹介・意見
- JR採用差別問題国会周辺マラソン国鉄闘争の継続
JR採用差別に関する政治合意の成立
1987年の国鉄分割民営化でJR不採用とされた国労・全動労等の組合員は、解雇撤回・JR復帰を求めて24年間、国鉄闘争を闘ってきました。国鉄を承継した鉄道運輸機構に対する訴訟での国鉄の不当労働行為の認定が困難な局面を打開しました。国労内部の団結回復及び全動労との共闘が成立したことは、労働運動史上でも重大なことであったと思います。そして、裁判と大衆闘争の積み重ねの上に、2010年4月、与党3党と公明党から政府への要請により、一人平均2200万円の解決金支払いと政府によるJR・公的部門等への雇用要請を柱とした政治合意がなされ、殆どの原告は承諾書を提出して、同年6月には解決金支払いを内容とする最高裁での和解が成立し、雇用要請の課題が残されていました。
雇用要請の経緯と問題点
ようやく、昨年6月13日、国土交通省政務次官が民主党、社民党、国民新党3党の要請を取り次いでJR各社に184名の雇用を要請しました。しかし、政治合意の内容であるJR各社への「政府としての要請」というかたちではなされていません。
それに対して、JR各社は同じく13日に、三党の要請を拒否する回答をしました。それに対するJRへの指導等は政府からは公式にはなされていません。
また、政府が努力することになっていた公的部門への採用については、2011年6月の政党からの要請の段階で落とされました。しかし、各原告が承諾書を提出したのは、この公的部門への採用も前提とするものです。
政府による雇用実現の努力を重視して、政治合意を受け入れた各原告らにとっては「騙された」ことになります。
2010年4月の政治合意に際しての四党からの国土交通大臣への申し入れ文書には、東京高裁でも、国鉄による組合差別の不当労働行為が認定されたことが明記されていました。不当労働行為、すなわち反組合的差別があったからこそ、政府が政治合意をした、ということです。
それにも関わらず、その反組合差別を前提とした合意が履行されない、と言うことは、政府が反組合的差別を是正するために「必要にしてかつ適切な措置」を取りえていない、ということになります。結局、政治合意が履行されない現状は、団結権行使のために「必要にしてかつ適切な全ての措置」を取るべきことを明記したILO87号条約違反、反組合的差別を禁止したILO98号条約違反なのです。
ところが、国労の各闘争団、原告団、支援共闘会議は、雇用問題を未解決のまま、24年間の闘争に終止符を打って解散してしまいました。他方で全動労は闘争を終結せず、JR北海道と団体交渉を継続していました。
しかし、国労は、闘争団員の組合員資格を失わせ、元闘争団員は労働組合から切り捨てられました。国鉄分割民営化に反対した組合員は、憲法19条の「思想及び良心の自由」も保障されず、国家的不当労働行為によって解雇され、さらに、労働組合からも排除されたのです。
マラソン・ハンスト行動
これに納得できないとして、中野勇人さん(元北見闘争団員)が1月27日から2月16日までの21日間、「JR不採用問題は終っていない、政府は約束を守れ!」と、1日50キロの国会周回マラソンを走り抜き、これに呼応した佐久間忠夫さん(元東京闘争団員)と猪股正秀さん(元佐賀闘争団員)が5日間交代で2回ずつ、20日間ハンストを実行したのです。解雇当時55歳の佐久間さんの2回目のハンスト5日目2月11日は、81歳の誕生日で、立派な花束が贈呈されました。初日と最終日には元小倉地区闘争団員の松崎博巳氏もハンストに参加しました。
鎌田慧氏が1月31日付東京新聞でこの行動を応援するコラムを書き、それを読んだ多くの労働者と読者の共感を呼びました。
中野さんのマラソンは沢山の方々が伴走してくれました。2月6日、7日、14日には雨が降り、雨合羽は着てもシューズはびしょ濡れになり、困難を極めました。その中でも、伴走の無い日も、ただひたすらに走り続けた中野さんの精神力、国鉄に対する執念には驚くばかりでした。
国交省、JR各社交渉
国交省鉄道局とJR各社への要請にも取り組みました。国土交通省鉄道局には、1月30日と2月17日に請願に訪れて話し合いました。鉄道局は総務課長補佐等2人が応対しましたが、解決済みの問題として、取り合おうとしませんでした。
2月13日、JR九州、四国に要求書を持って交渉に行きましたが、警備陣に阻まれて、要請書も受け取りませんでした。
2月15日にはJR東日本に要求書を持って行きました。2人の社員が1階のロビーで対応しましたが、所属部署も、氏名も明かさず、要求書も受理しないので受付に置いてきました。多くの死者を出した尼崎事故、人権侵害の日勤教育、信濃川の漁業を壊滅させた不正取水を行って恥じない企業らしい対応でした。
しかし、私たちの行動によってこの問題の火種が残っていることは意識させることができたでしょう。国交省、JR各社に対しては、さらに圧力をかける行動を展開していく予定です。
応援する会の結成
支援共闘会議も解散され、労組や支援組織は無くなりましたが、中野さんのマラソンとそれに呼応した佐久間、猪股両氏のハンスト宣言に賛同した労働運動関係者や佐藤昭夫さんや私などの弁護士が、(3人を応援する会)を組織してこの闘争をサポートしてきました。
ハンスト者と机、椅子、横断幕などの資材を輸送する自動車は首都圏なかまユニオンが提供してくれ、多くのカンパも集まりました。
中野さんは、毎月16日にマラソンを行うとの決意表明をしました。3月16日にもマラソンが決行され、同日「JR不採用問題は終わっていない!元国労闘争団員を応援する会」が結成されました。今後も国交省、JR各社にこうした闘争を継続していきます。
国鉄闘争=政府とJRへの責任追及は続く
そもそも、国鉄問題は、中曽根元首相が告白したように、政府自らが組合潰しを意図してなした国家による反組合的差別です。今回、政府が約束を履行せず、1年以上が経過し、原告団の殆どが闘争終結を余儀なくされるに至ったことは、さらなる国家による反組合的差別と言うべき事態です。
そのもとで、政治合意に基づく和解に応じなかった者のうち3名は、現在も裁判を闘っており、全動労は安全問題でのJRへの団体交渉申し入れなどで闘争を継続しています。
国鉄分割民営化によってもたらされたJRの営利至上の体質を糾弾するべく信濃川不正取水問題でJR東日本の歴代取締役と監査役を相手とした株主代表訴訟も提訴され、原告株主3名に、株主209名が共同訴訟参加し、7月5日には第3回口頭弁論を迎えます。
他方で、JRはいっそうの合理化、偽装請負、ローカル線切り捨て、自然破壊と原発利用が不可避なリニアモーターカー建設などを推し進めています。
この現状では、まだ国鉄闘争はまだ完結していない。JRが不当労働行為の罪を認め、その営利至上主義を改め、真摯に改善に取り組むまで、国鉄闘争は続かざるを得ません。
それまで、亡くなった国鉄労働者、元闘争団員、元争議団員、その家族、地域住民らの怨嗟の声が止むことはないのです。
以上
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔opinion993:120915〕
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