ドイツ-古きアッセ核廃棄物貯蔵施設の悩み
- 2012年 10月 7日
- 時代をみる
- グローガー理恵ドイツの核廃棄物貯蔵施設
原発が稼動すれば、核廃棄物は止まることなく生産されます。核廃棄物は私達だけでなく、私達の後代子孫、人類が未だ存在するか否か分からないような時代までにも影響を及ぼし続ける恐ろしい有毒物です。
ドイツのcontrAtomサイトによれば、現在、フランスでは59基の原子炉が稼動中ですが、核ゴミ処理問題に関して何の解決法も見い出されないまま、それぞれの原子炉は絶えず放射性廃棄物を生産し続けています。そして、特に、フランスのラ・アーグ(La Hauge)再処理工場にある幾つかの貯蔵施設は、核ゴミの安全性に関わる深刻な問題を抱えています。彼等は、核ゴミ貯蔵に関して要求されている安全性クライテリアを充たす事が出来なかったからです。その為、彼等は他の場所に核ゴミを移して貯蔵しなければならないような状況に追いやられています。因みにフランスでは、2010年末に1.3百万立方メーターの核ゴミを貯蔵しました。
http://www.contratom.de/2012/07/12/frankreichs-atommullberg-wachst-und-wachst/
2011年に脱原発宣言をしたドイツでさえも、核廃棄物処理問題には頭を抱えています。ドイツ ニーダーザクセン州ににあるアッセ岩塩層地下核廃棄物貯蔵施設の現状も、ドイツが直面している核廃棄物処理難題の一つです。アッセ核廃棄物貯蔵施設では、1988年に坑内出水が発生して以来、出水は止まることなく、放射能汚染された水が周辺地域の地下水に入り込むかもしれないというリスクにも曝されています。
この事に対して過去、政府機関も関係者も何の措置・対策もとらなかったことは重大な問題です。そして、核廃棄物処理委員会もアッセの運営者も責任を問われる事もなくここまで来てしまっていることも納得できません。ただ、ポジティヴなことは、今、この難題に取り組もうとする動きが出てきているという事です。そして、このアッセ問題に関して 殆どのメージャーメディアがリポートしていることも、ポジティヴな事だと思います。
今日、ご紹介させて戴きます「フランクフルター・ルンドゥシャウ(Frankfurter Rundschau)新聞」サイトに掲載されていました記事、「アッセ核廃棄物施設をめぐる新しい論争」の原文へ のリンクです。:http://www.fr-online.de/energie/atommuelllager-asse-neuer-streit-um-atomlager-asse,1473634,17755156.html
概説:アッセ核廃棄物貯蔵施設をめぐる新しい論争
フランクフルター・ルンドゥシャウ(Frankfurter Rundschau)オンライン記事‐2012年9月22日付
筆者:ヨアヒム・ヴィレ(Joachim Wille)
アッセ核廃棄物貯蔵所 (写真 dpa)
実際には、崩れかかったアッセ核廃棄物貯蔵施設から核廃棄物ドラム缶が取り出される筈だった。-しかし、廃棄物処理委員会・会長は核廃棄物を取り出す計画の危険性を指摘する。地下水が放射能汚染されるリスクが高まっていっている
専門家の間では、今にも崩れそうになっているアッセ核廃棄物貯蔵所の修復整理を果たして遂行することが出来るのだろうかとの疑惑が広まってきている。崩壊する危険に脅かされているアッセ岩塩抗貯蔵施設で新たに発生した問題は、連邦政府が本命と見なしていた処理対策-アッセに貯蔵された12万6千の核廃棄物ドラム缶を再取出する作業-を遅らせることになる。
連邦廃棄物処理委員会のミヒャエル・ザイラー(Michael Sailer)会長は我々、フランクフルター・ルンドゥシャウ新聞に「アッセから核廃棄物を再び取り出す作業は、ますます『ミッション・インポッシブル』な状況へと進展してきている。」と述べる。そしてザイラー氏は、その代替案として-①核廃棄物貯蔵室(複数)の前と坑内作業現場内に密閉された遮蔽壁を建てること、②それと平行して、貯蔵施設内で空隙になっている空間を出来得る限り多く、固体物質で充填すること-を提案している。
アッセ核廃棄物貯蔵所ー問題は果てしなく続く
ニーダーザクセン(Niedersachsen)州のヴォルフェンブッテル(Wolfenbüttel)にあるかっての岩塩抗は、1960年代から70年代にかけて、連邦政府によって手頃な核ゴミ処理場として利用されてきた。しかし、今、その安全性が脅かされている。この岩塩ドームは、スイスチーズのように沢山の穴があいている。岩塩ドーム内には何百もの空洞があって、そこから、1964年まで岩塩が採掘されていた。これらの空洞の中で、ほんの一部が再び充填されたのみであった。そして、13の空洞室に-恐らくは、既に核廃棄物が漏れ出しているものも含めて-核廃棄物入りドラム缶が貯蔵されているのである。
しかし、この春から、核廃棄物入りドラム缶を取り出すための準備作業が更に困難になった。理由は、崩壊リスクがあり、作業員と機械を輸送するために利用されていた坑内の一通路を封鎖しなければならなかったからである。これは、岩塩抗からの2つの出口間を結ぶ主要な通路だった。これらの出口は地下道(いわゆる横抗)に導かれている。
深さ490メートルの坑内出口から、さらに深いレベル750メートルにある出口までを結んでいる螺旋通路があるのだが、その螺旋通路の環状カーブ間の岩塩地盤の深さが、ある部分は2-3メートルしかなく、坑内にかかる圧力もあり、ますます亀裂しやすくなっていて、一つの箇所には幅20センチまでの亀裂が出来てしまったのである。
アッセでの作業はずっと続く。
この亀裂を修理することは不可能なので、アッセの運営者である放射線防護-連邦政府機関(Bundesamt für Strahlenschutz《BfS》)は、まだ乱されていない部分の安定した頑丈な岩石を切削して、広い迂回路を設けることにした。
この仕事を請け負っているアッセ有限会社のスポークスマンは、迂回路設置作業が2013年まで続く事を認めた。 (フランクフルター・ルンドゥシャウ(FR)新聞の内部情報によれば、この作業は、2013年の9月になって、やっと終了することが推測されている。)
迂回路を設ける作業は、岩塩地盤の乾いた埃に満ちた環境の中で行われる。あるインサイダーは、「作業員達が仕事を再び続行する前に、使用されたミーリングマシンや他の輸送車両、機械など全てを、繰り返し繰り返しクリーニングしなければならない。」と報告している。
アッセのスポークスパーソンによれば、迂回路設置作業のためにアッセでの他の作業が、かなり制限されてしまっていると謂う。
特に切断されてしまった接続通路が問題を引き起こしている。何故なら、地下レベル490メートルの所には坑内作業場(複数)があって、そこでは常時なら、機械や車両のメインテナンスが為されているのだが、その作業場から更に下方に位置する坑内へは直接入ることが不可能になってしまったからである。
他にも間接的に影響を受けているのは、6月1日に始まった核廃棄物貯蔵室(一室)に穴をあけるボーリング作業である。この貯蔵室内検査は-①放射性廃棄物入りドラム缶がどのような状態なのか、②密閉されていないドラム缶を通して、既にどれぐらいの量の塩粗粒子が放射能汚染されているのか―について解明することになっている。かってのアッセ運営者は、放射性廃棄物入りドラム缶の一部を単に貯蔵室内にダンピングし、その上を塩粗粒子でカバーしていたのだった。
テスト・ボーリングはもう直ぐ完了する。ボーリング機械は、貯蔵室を密封しているコンクリート、アスファルト、ビチューメンの層からなる厚さ20メートル以上の「栓」を貫通しなければならない。しかし、ビチューメンがべとべとしているため、ボーリングを何度もクリーニングしなければならなかったという事が判明している。
そのため、この作業は予想されていたよりも長く、2ヵ月半かかった。アッセのスポークスパーソンによれば、その間に、ボーリングは厚さ凡そ19メーターまでに到達し、現在は、複雑な問題が起こらない限り、作業員たちは一日に40センチずつボーリングする事を為し遂げていっていると謂う。貯蔵室(複数)の中には、もしかすると、放射性-および/もしくは-爆発性のガスが発生している可能性があるため、ボーリング作業は高度な安全準備対策のもとに行われている。そして、「ここ数週間のうちに」ボーリングが貯蔵室まで突き進むことになり、最初の検査結果が期待されることになる。
時間との競争
アッセ有限会社によって任命を受けた専門家たちは公表した2011年の研究調査で、「地下の深い坑内から275,000立方メーターの核廃棄物を取り出さなければならない」と推定している。これは時間との「かけっこ」となるだろう。例えば、核廃棄物取り出し作業を開始する前に、新しくもっと大きな立抗や放射性物質をしっかりと安全にパッキングできるようする、所謂「コンディショニング設備」をつくらなければならない。
5月には、放射線防護‐連邦政府機関の「アッセ・リスキュー」の予定表が露見し、人々を怒らせた。予定表によれば、「アッセから核廃棄物を再取り出しする作業は、現在の状況において、2036年になってから開始することが可能であろう。」となっているのである。専門家の査定では、核廃棄物救出だけでも2年から3年はかかるであろうとなっている。
アッセでの不安定さばかりでなく坑内が制御不可能な満水状態になる危険性も、核廃棄物再取り出しプランをぶち壊すことになるかもしれない。1988年からアッセ岩塩抗には水が浸入していっている。それ以来、絶えず、一日に約11,000リットルの出水量がある。しかし、いつまでもこのような状態が保たれるのか保証はない。「坑内では、流水が岩塩ドームの割れ目を通って絶え間なく塩を洗い落としている可能性もある。」と、廃棄物処理専門家、ザイル氏は解説する。
水はもっと多量の塩を溶かす。―「それで、出水量が突如、非常に速い速度で増えていく可能性も考えられる。現在のところ、アッセ坑内で漏出して来た水は受け集められ運ばれていって処理されている。出水量がもっと著しく増えたとしたら、このような処理作業を遂行することはもう出来なくなってしまう。」と、エコロジー研究所(Öko-Institut)の取締役でもあるザイラー氏は警告する。アッセが満水になれば、放射能が制御されることなく周辺の地域の地下水に入り込んでいくリスクが生じることになる。
廃棄物処理委員会・会長ザイラー氏は、別の安全策案を提案している。:
1)13ある核廃棄物貯蔵室の内、いくつかの貯蔵室はもう既に浸水してしまっているので、放射能汚染された水の流出を防ぐか、若しくは、少なくとも放射能漏出を制限するために、適切なスポットに(出来る限り漏れない)遮断壁を建てる。
2)それと平行して、アッセ貯蔵施設内で空隙になっている空間を出来得る限り多く、固体物質で充填すべきである。その目的-坑内の空隙ヴォリュームを少なくすることによって、水の浸入量を制限する。
ザイラー氏によれば:これらの措置法がもたらす利点は、もしアッセ貯蔵施設内が満水になってしまった場合、その(満水になった)時点までに為し遂げられてきた其々の措置によって地下水の放射能汚染リスクが低下される。一方、「『核廃棄物再取出の案』に従うのであれば、地下水放射能汚染のリスクをかなり低下させるために、もう既に少なくとも、貯蔵された総核廃棄物の3/4が坑内から取り出されていなければならなかった筈である。これを為し遂げるのに30年から40年ぐらいかかるかも知れない。-その間中、坑内はずっと開いたままだし、開いたままの坑内にはもっと水が浸入してくることになる。
アルトマイヤーは圧力下にある。
ザイラー氏は、かってのアッセ運営者であったヘルムホルツ-ツェントルムス-ミュンヘン(Helmholtz-Zentrums München)の「アッセ閉鎖案」からは距離を置いている。アッセ閉鎖案とは: ヘルムホルツ-ツェントルムスは、単に、多量の飽和した塩水で坑内を浸水させることを計画していた。それによって安定性が増す筈であると謂うことだった。しかし、彼等の案では、地下水放射能汚染のリスクを惹起することになってしまったことになる。とりわけ、そのことが理由となって、2008年、当時の連邦政府はアッセの運営者をヘルムホルツ-ツェントルムスから放射線防護-連邦政府機関(Bfs)に変えることを命じた。
廃棄物処理専門家の警告は、ペーター・アルトマイヤー連邦環境大臣に圧力を掛けている。アルトマイヤー氏は5月に連邦環境大臣への任命を受けてから間もなく「アッセ核廃棄物の再取り出しプラン」を明らかに言明した。アッセの住民や地域の政治家、環境保護団体はこの「救出プラン」を要求していた。
ドイツ連邦環境省は最初の「アッセ法(Lex Asse)」法案を練り上げた。:
①アッセ核廃棄物貯蔵施設の閉鎖は急がれるべきである。-閉鎖は遅滞なしに即座に為されるべきである。②12万6千ある放射性廃棄物入りドラム缶を救出するための正式な計画承認決定は、時間を食うので必要なし。③様々な工程段階は時間を節約するために、順々にではなく、平行して進められるべきである。
そして、法案の章句-*「むしろ、アッセ核廃棄物貯蔵施設の閉鎖は、核廃棄物を救出した後に起こることが望ましい。」-は、野党、住民そして環境保護団体からの批判を呼び起こした。この章句によれば、論議の余地ある、「今にも崩れそうな坑内を浸水させる(ヘルムホルツ-ツェントルムスの)案」は除外されていないのである。緑の党もまた、アッセ核廃棄物貯蔵施設の修復整理のコストが連邦政府によって賄われるという案を批判している。彼等は、電力会社がコストを分担して支払うべきであると要請している。結局のところ、アッセにある核廃棄物の凡そ80%は元々、原子力発電所から出たものなのである。
以上
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*法案の章句「むしろ、アッセ核廃棄物貯蔵施設の閉鎖は、核廃棄物を救出した後に起こることが望ましい。」は、「むしろ...望ましい(ドイツ語:vorzugsweise)」という表現を滑り入れさせることによって、場合によっては核廃棄物を救出しないうちにアッセを閉鎖する可能性もあるということを示唆しています。と同時に、それは、「塩水を流し入れて坑内を浸水させてからアッセを閉鎖する」という案が未だオプションとして残されている可能性を暗示している、とも解釈できます。その為、この法案章句は野党、住民、環境保護団体から批判を浴びました。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔eye2063:1201007〕
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