「民主党代表選―菅・小沢の一騎打ちに」「2者会談で一致―どんな結果でも協力約束」
- 2010年 8月 31日
- 時代をみる
- 瀬戸栄一
9月14日投開票の民主党代表選は8月31日夕、菅直人首相(現代表)と小沢一郎前幹事長の2者会談の結果、一騎打ちの形で実施されることになった。翌1日に告示される。会談は民主党本部内で約30分間にわたり行なわれ、現代表と最大実力者の「激突」による民主党分裂の懸念を振り切る格好で、「整斉と」(小沢氏)行なわれる。この代表選で敗北すれば首相の座をわずか3ヶ月後に追われることになる菅首相は、代表選までの2週間、「首相の仕事を優先」しながら選挙勝利を目指す、と再三強調。政権のトップを世論の高い支持で継続する決意を表明した。
「熟慮のすえ」出馬を決意した小沢氏は、2者会談の直前まで「出馬回避」の可能性を反対勢力はもちろん支持者の一部からもうわさされたが、結局、8月26日に記者団に述べたとおり出馬を貫いた。9月1日の告示―立候補届け出のあと、所信や政策を発表する。
小沢氏が事実上、内閣総理大臣に直結する代表選に出馬するのは、40年近くにわたる国会議員生活の中で初めてである。だが、かつて新進党や自由党の党首を務めながら党を解党したり、他の党と合併した過去の特異な政治歴から、今回は政権の座にある民主党のトップの座を争って仮に敗北すると、党分裂―政界再編を断行するのではないかとの懸念に取り囲まれた。
▽決意貫いた小沢氏
小沢氏は菅首相が「脱小沢色人事」を変えないとみるや、8月26日に明確に代表選出馬の決意を表明した。31日の菅首相との会談に至るまで結局、この決意を変えなかった。
最初の小沢氏決意表明を聞いた菅首相は「いいことだ」と口では評価したものの、代表選の勝敗や、勝った場合でも小沢氏が多数の支持議員を引き連れて離党するのではないかとの不安に襲われた。その菅首相を激励したのが各社世論調査での高い支持率(共同通信では菅17%、小沢6%の大差)と、急激な円高・株安の津波に襲われるなか民主党代表選で2週間も政治空白を生じてもよいのか、という批判だ。小沢氏との一騎打ちとなれば、代表選に勝つために全力を注ぐべきだ、という支持勢力の意見は強まる一方で、首相としての仕事もすべて代表選を有利に導く材料にせざるを得ない。
▽トロイカ効果、奏功せず
代表選の波及効果としての民主党分裂を最も派手に心配し、双方の妥協や譲歩を引き出そうと動いたのが鳩山由紀夫前首相だ。たまたまモスクワ訪問中に小沢氏の代表選出馬の気配を知ると、帰国早々、菅首相らと何度も会談し、人事による融和を試みた。小沢氏を例えば幹事長のような枢要ポストに起用し、代表選出馬を断念させようとも試みた。
だが、鳩山首相の6月2日の突然の退陣表明と、その際に小沢幹事長(当時)との「相討ち」を断行したことが代表選騒動のはじまりであることを、鳩山氏はすっかり忘却した様子だった。小沢氏が出馬を表明すると「小沢支持」を口にし、党分裂の危機を感じ取ると、なんと「トロイカ体制」なる旧ソ連の一時期の共産党指導体制(スターリン死去後)の呼び名まで持ち出し、菅直人・小沢一郎・鳩山由紀夫(プラス輿石東)の3頭立ての指導部結束の原点で合意した、と30日夜に明言し、多くの大新聞の見出しを「トロイカ合意」(つまり小沢不出馬)で飾った。
▽狙いはいつも最高権力
しかし、鳩山氏の妥協工作のなかで、欠落していたのが、小沢一郎という個性的な政治家の心理の読みだった。26日にいったん記者団を手招きで呼び寄せ、代表選への出馬決意をはっきり語った小沢氏が、もしトロイカ路線などに乗って人事と引き換えに出馬を断念したら、それこそ政治生命が終わる。おまけに鳩山氏は6月2日の自らの退陣表明と合わせて「私は次の衆院選には立候補しない」と半泣きの表情で吐露したばかりではなかったか。
引退表明した自身のことをすっかり忘れてトロイカの一頭に加えるとは、それこそ「とろい」とからかわれても仕方のない、相変わらずの甘さだった。68歳と自分(63歳)より高齢の小沢氏がまだまだ「生煮え」の深層心理にあることも、鳩山氏は見落とした。小沢氏は「不肖の身」などと謙遜するが、本音は40年の政治家生活を通じて政権のトップが一貫した狙いなのだ。内心では鳩山氏の甘さを馬鹿にしている。
▽菅支持勢力からも票決着の声
皮肉なことに、菅首相の支持陣営にも代表選での(ルールに沿った)票による決着の主張が強まった。前原誠司国土交通相らである。31日朝の会見で「密室での一本化」反対を言明した。若い前原氏はたとえ代表選で小沢氏が勝っても、そんなに長続きせず、いずれ遠からず自分たちの世代にチャンスが来る、と読んでいる。
前原氏のみならず枝野幸男幹事長らは、小沢氏が出馬して勝利したとしても、小沢陣営を見渡せば新人や「政策音痴」の武闘派が多く、必ず自分たちにお鉢が回ってくると読んでいる。今は万一、菅首相が負けたところで数年後には自分たちが「トップ争い」をすることになる、と分析する。そのためには民主党政権が続いていなければならない。
▽数は有利でもトゲが
さて、9月14日の当面の代表選はどうなるのか。衆参国会議員の数では小沢氏が圧倒的に有利であることは否定できない。国会運営に不可欠の、公明党や自民党の一部との妥協工作、場合によっては連立工作において、小沢一郎氏にかなう政治家はいない。
小沢氏にとって、のどに刺さったトゲは、政治とカネ、具体的には検察審査会を構成する市民が政治資金虚偽報告事件で出すかもしれない議決だ。東京第五審査会が再び「起訴相当」を議決・公表すれば法的には強制起訴となる。
それ以前に民主党代表選で勝ち、首相の座に就いていれば憲法75条を応用して、起訴を回避できるのか?小沢一郎氏はその懸念を乗り越えて代表選出馬を表明したが、「小沢首相」を果たして野党側が許容するのだろうか。(了)
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
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