世論調査、その過剰報道に物申す
- 2012年 12月 10日
- 時代をみる
- 池田龍夫
12月6日付在京6紙の1面を開いて驚かされた。4日公示の衆院選挙・序盤戦の世論調査揃い踏みである。特に、 朝日、毎日、読売、日経4紙が「自民単独過半数の勢い、民主100議席割れか」とのトップ扱いだった。
朝日など4紙が「自民党単独過半数の勢い」と大報道
朝日新聞6日付朝刊は「4、5日に電話調査を実施、全国の取材網の情報を加えて序盤の情勢を探った」としたうえで、①自民党は単独で過半数を確保する勢い②民主は惨敗で100議席を割る公算③第三極の日本維新の会は比例区で民主と肩を並べ、小選挙区と合わせて50議席に――などとの情勢分析」を報じた。読売、毎日、日経3紙の主見出しが朝日とが同じだったことにビックリした。朝日・読売は独自世論調査、毎日・日経は共同通信の調査に独自取材を加味したものである。
毎日新聞同日付朝刊も「自民党は小選挙区、比例代表ともに優位に立ち、単独過半数(241議席)を確保、公明党と合わせ、300議席をうかがい、政権奪還の公算が大きくなってきた。民主党は公示前の230議席から激減し、70議席前後にとどまる可能性がある」と分析していた。
「自民が優勢だが、過半数は投票先決めず」と書いた東京新聞
産経も1面トップ扱いだったものの、「自公政権奪還の公算、民主激減、第3極も伸び悩み」との見出し。1面2番手扱いの東京新聞は「自民優位、民主苦戦、半数が投票先決まらず」と、控えめな扱いだった。東京新聞が「現時点では自民党が優勢だが、選挙戦次第では情勢も大きく変わる可能性もある。半数の有権者が投票する候補者を決めていない」と慎重に扱った点に、私は同感である。
公示直後、突然の電話に支持政党を答えられるだろうか
いずれの世論調査も、乱数番号(RDD)方式による電話調査。公示翌日に電話がかかってきて、「何党を支持しますか」と突然問われて、的確に返答できる人が何人いるだろうか。ましてや12党が乱立した今回の選挙、一般の有権者は咄嗟に、民・自・公・維新などの党名しか思い浮かばないのではないか。また各紙とも、世論調査に加えて各地の取材網を動員して補強したと報じているが、10人前後の支局記者の取材には限界がある。地元の選挙通や選管OBなどが主たる取材先に違いない。以前の世論調査の際、〝独自調査〟を加味しない〝ナマ数字〟の方が、選挙結果に近かったケースもあった。選挙世論調査の精度がたびたび指摘されてきたが、メディアの姿勢は旧態依然たる〝お祭り騒ぎ〟の印象である。
自民党は予想外の世論調査人気にやや困惑、「党内引き締めに当たっている」という。7日夜のテレビ朝日の報道ステーションに出演した安倍晋三総裁も「自公で過半数を取れれば…」と発言、圧勝ムードの世論調査に、むしろ警戒気味だった。
〝数字の魔術〟にひっかかる恐れ
私は世論調査の誇大報道の悪影響をかねがね指摘してきたが、今回の調査は突出していたように思う。特に序盤戦での予測を大々的に報じることには反対だ。世論調査を否定するわけではなく、紙面扱いの問題である。麗々しく1面で報じるのではなく、2~3面などで「本社の世論調査によると、こんな結果が出ました。参考にしてください」といった扱い方が望ましいと考える。さらに得票予測まで見出しに掲げることは控えた方がいいだろう。民自公以外の党に投票したいと考えていても、「自民圧勝で決まり」との世論調査数字を示されると、一般有権者は戸惑ってしまう。それでは「既成政党のうち、よりましな政党に」鞍替えする有権者も多いだろう。従って世論調査報道は、「何党が優勢」程度の表現に留めないと〝数字の魔術〟にひっかかり、投票行動に影響するだけでなく、白票や棄権が増える可能性がある。そもそも2大政党重視、少数党軽視の選挙制度自体に問題があるわけで、〝死に票〟を増やしかねないな制度は見直さなければならない。
今後、中盤・終盤の世論調査を実施するだろうが、RDD調査の対象者は違うはずだ。また序盤調査で「まだ何党に投票するか考えていない」と返答した人が約5割というが、その人たちが投票先を決めたかどうかも注目される。
「日本国の分岐点」との認識で投票を
各紙とも原発、憲法、景気浮揚策などについて解説を報道しているが、どの程度読まれているだろうか。異例ずくめの今回の選挙は、「日本国の分岐点ともなる重大な総選挙」との認識を再確認して、16日の投票に臨んでもらいたいと思う。
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