黒い箱がつながって 2.扇風機が壊れた、いざ。
- 2010年 9月 8日
- 評論・紹介・意見
- 高橋 成
突然、扇風機が壊れた。
その姿はまるで首がもげたようだった。でも痛ましい姿に、悲しんではいられない。
何しろ歴史的猛暑のこの夏だ。扇風機1台無くなってしまうと、命に関わるに違いない。
早速いつものごとくパソコンを開きGoogleを開き、今どんな扇風機が評判がいいのか、調べてみた。
キーワードに入れるのは、とりあえず「扇風機」。こういった家電品を検索すると価格.comが検索上位に必ずヒットする。まあ、価格.comは実勢価格の比較サイトの中では老舗だ。そんなに間違いはないだろう。クリックして、開いてみる。
価格.comではそれぞれのカテゴリーの商品が、売れ筋ランキング、注目ランキング、満足度ランキングの3つに分けて実際の購入者の評価点がつけてあり、更にネット上の実売価格の最安値が表示される。
わたしの扇風機に対する要求は、第一に風がなるべく上を向くこと。扇風機の風を直接体に当てたくない。それと、隣の部屋のエアコンの冷気を導入するので、首振り角度ができるだけ広いこと。できれば収納も合理的に、コンパクトにできればいい。まあ、収納については日本製を選べばみんな優秀だろう。メーカは日本製に決めた。
どうせ買うのなら、これまで使っていたものよりもいいものを買いたい。壊れた扇風機は、20年近く使用していたものだ。あのとき、どのようにしてあの扇風機を選んだだろう?
そうそう。当時の恋人に近所の電気屋さんに連れて行ってもらったのだった。売り場にずらり並ぶ扇風機を目の前に、なんだか圧倒されてしまったのを思い出した。はて、当時、どういう基準で選んだのだろう?
そうだ。結局彼に選んでもらったのだ。どうでもいいところで彼の言うことを聞いて顔を立ててふりをする、当時のわたしはずるいところがあったよな、などということもついでに思い出した。回転する羽がその売り場ではみんな5枚だったのが、彼の選んだのは唯一6枚だった。それがどういう意味があるのか、壊れるまで十数年使ったけれども、結局分からないでいた。今回はそんなわけで、羽の枚数は購入条件には入れないことにした。
そんなわたしの条件を満たしてくれる扇風機は、東芝の製品だった。さて、価格.comからインターネットショッピングのサイトを開いてみよう。最安値で取り扱っているオンラインショップを直接開くことができる。送料も含めてどこが安いか、確認した。
どこも、品切れだった。
たまに在庫があっても、最安値から何千円も上乗せした値段がついていたりする。他のメーカの製品で、わたしの条件を満たしているものはない。
…、扇風機選びは頓挫してしまった。
最近に始まったことではない。
取り敢えず分からないことがあると何でも、Googleにキーワードを検索してみる。これはもう習慣になってしまった。
よくあるのが、夫とお酒を飲みながらくだらない話をしていたりして、あれ、これどういう意味だっけ?なんて思い出せない時だ。先日思い出せなかったのは、ラテン語の外交用語で、派遣国が外交官の着任を拒否する権限のことだった。お酒を飲んでいるとこういった日常にない単語は、ことさら思い出しにくい。そういうときには、即座にGoogleでキーワードを入力。外交官、着任、拒否、ラテン語、こういった単語を入力欄に並べてスペースで区切って入力して、検索ボタンをクリック。そうそう、「ペルソナ・ノン・グラータ」。これだ!と、酔っ払いは満足して、軽くストレスが解消されるのだ。
単語を思い出したところで、「ペルソナ・ノン・グラータ」を改めてGoogleで検索。必ずと言っていいほど、ウィキペディアが上位にヒットする。ウィキペディアは信用ならない。内容はいつの間にか変わって、百八十度別の説明になっていたりする。でもまあ、酔っ払いの満足は、そこそこ提供してくれるだろう。
はあ、Googleって、酔っ払いの話のタネですか?と、誤解されてしまうと困る。
一番力を発揮するのは、インターネットのこと、パソコンのこと、コンピュータのことで何か分からない時だ。
インターネットには伝統的に、自分の分からないことはみんな分からない、みんな分からないことは自分も分からない、そんな考え方が根付いている。これはインターネットのそもそもの成り立ちに関わる。そういうわけだから、パソコンの使い方、インターネットの使い方で分からないことがあれば、自分と同じ思いをして解決した人が必ず、どこかでホームページに情報としてまとめていてくれている。
先日、仕事のお問い合わせで、迷惑メールの中に、送信者が自分のメールアドレスになって配信されているメールが沢山来る、という相談を受けた。
この手の迷惑メールは手法としては古典的なやり方で、送信者が誰かを一見分かりにくくするための偽装だ。自分のメールアドレスが他の誰かにも迷惑メールといてばらまかれているのではないかと心配する人もいるが、それはない。安心していい。
相談者はメールの受信にWindows Live メールを利用しており、通常の迷惑メールは迷惑メールフォルダに振り分けられる。当然、送信者が自分のメールアドレスとなっている迷惑メールも迷惑メールフォルダに振り分けられてしまう。ただそれは困る、というのだ。
送信者が自分のメールは全てちゃんと確認したいという。
わたしの仕事では、そういう質問には直接答えられない。なにしろお問い合わせを受けるわたしの立場は会社の業務を案内するのが仕事だ。業務以外の内容を答えるには、会社として責任が持てない、というわけだ。
Windows Live メールなら、セーフアドレスとして自分で指定したメールアドレスは迷惑メールとして見なさない、という設定ができる。これはどこの迷惑メール判定機能でも見かけるので、その相談者も活用していた。ところが、再度迷惑メールの中に自分のメールアドレスが送信者とされたものがあると、セーフアドレスから削除されてしまう、というのだ。これは、なぜか。
迷惑メールであるという判定は、メールアドレスだけでは行われない。
ここが大切なポイントだ。
ではどこで迷惑メールとして判断されるか。
本文中のキーワード、これは重要な迷惑メールかどうかの判断材料だ。迷惑メールに特有のセックスを連想させる言葉や、有り得ないようなお金儲けを誘う文言がそれに当たる。でもそれだけではない。
送信者のメールアドレスを確認して、過去に迷惑メールを配信しているドメイン、つまり@より右側の文字列だが、それを使っていたりしても、迷惑メールと見なされる。
また、メールには一通一通、インターネット上でどのようなサーバに受け渡しされてきたかの記録が必ず残っている。これをヘッダという。メールのたどってきた経路から、元々の配信元を確認することができる。配信元とは送信者のメールアドレスとは一致しなくてもいいようになっている。配信元のサーバが迷惑メール配信常習犯だったりすると、これも迷惑メールと見なされる。これらは本文中にいかにも迷惑メールという文言が無くとも、迷惑メールという扱いになる。
迷惑メールは最近、質が悪くなってきた。ウイルスが添付ファイルとしてばらまかれるだけではない。フィッシング詐欺のきっかけに利用されるケースが増えてきている。やり方はこうだ。思わずクリックしたくなるような文言の並ぶ迷惑メールを配信する。ちょっとみてみよう、と軽い気持ちでクリックしてどこぞのホームページを開く。開いたページが、ウイルスを感染させたり大事な個人情報を盗み取るページだったりするのだ。
迷惑メールは、開かない。万が一、開けてしまったとしても、本文中のアドレスはクリックしない。添付ファイルは絶対に開かない。これはもう、大原則だろう。
送信者が自分のメールアドレスで、迷惑メールのフォルダに入ってしまうメールというのは、ほぼ間違いなく迷惑メールだろう。わざわざ開けて確認する必要もないと思われる。
ただ、そういうことを相談者に納得していただけるほど、短い時間で説明できるかどうかが悩ましい。会社の業務の幅が狭すぎる。専門家として説明することで相談者は安心したのかもしれない。けれどもそれは会社の業務内容ではないのだ。
わたしは、Googleで検索してみることをお勧めした。
検索欄に入力するのは、Windows Live メール、迷惑メール、メールアドレス。キーワードがこれだけではうまく出てこないかもしれない。そこで検索キーワードを変えてみる。Windows Live メール、迷惑メール、自分のメールアドレス。最後のキーワードは助詞が入っているので検索された時には名詞の単位でばらばらに検索されてしまい、うまくいかない。これは””で囲むとうまくいく。検索のキーワードに入力するのは、”自分のメールアドレス”だ。このようにすると一つのキーワードして扱われる。お手元のパソコンでGoogleが開けるようなら、試してみてほしい。
さて、この相談者は、これで解決策が発見できるかと言えば、そう簡単ではないだろう。ただ、空いている時間をすこしだけ、調べていろいろなサイトでの説明文を見てもらえたらいいと思う。そうすると、送信者が自分のメールアドレスであるメールでも、迷惑メールと判断されたメールは開く必要がないと徐々に分かっていただけるはずだ。
コンピュータやパソコン、インターネットについてであれば、こんな調べ方はお勧めだ。あるいは、現在進行形の出来事、それもインターネットに親和性の高い、若い人の関わっているような事象であれば、インターネット上に詳細な情報が沢山アップされていく。
よしながふみ『大奥』6巻を読んでいたら、「被子一決好父愛敬」という言葉が出てきた。これはどういう意味?と思い、例のごとくGoogleで検索してみた。江戸時代、江戸城大奥において、将軍の御台所もしくは側室が無事に女子を出産すると「被子一決好父愛敬」と触れ回る、とこれは分かった。男子の場合、「中央利益堅牢地神許出胎哲」と触れまわる、これもわかった。しかし、意味が分からない。出典も分からない。Yahoo!知恵袋といって、質問を書いて誰か詳しい人が解説してくれるのを待つサイトがある。ここに同様の質問があった。しかし、3年も前に質問されたまま、意味も出典も分からないままになっている。
こういうのをみると、インターネットはまだまだ蓄積が足りない、と思う。古典を読みこなせる人々が、インターネットで発信しにくい何かがあるのだと思う。
けれど、本当にそれだけなのか?と思うようなニュースが先日あった。
Yahoo!は日本における検索事業をGoogleと提携するという。(http://ascii.jp/elem/000/000/541/541904/)言ってみれば、Yahoo!Japanで検索した結果もGoogleで検索した結果も、同じになってしまうということだ。
確かに日本語検索は技術的に難しいようだ。Yahoo!Japanはずいぶん苦戦していたらしい。マイクロソフトがBingという検索サイトを作ったが、正直まだまだだ。
アメリカでは全文検索サイトはGoogleだけではない。Googleと協力関係にある検索サイトも多いが、もちろん独自の検索技術、サーチエンジンと言うが、開発しているところも沢山ある。(http://www.intelbridges.com/overseassearchengines.html)
インターネットの世界で日本語の利用は、それだけで排他的だ。
日本語以外の言語、特にインターネットの世界で利用の圧倒的に多いアメリカ英語で語られる思想、事象、思いはブロックされ、日本語の世界には入ってこない。
更に、日本語検索エンジンをGoogleがほぼ独占することで、日本語のインターネットでは、Googleの検索結果に表示されない情報は、情報として活用されないものになってしまった。これは日本語を母国語とするインターネットの利用者にとって、二重の障壁となってしまった事に他ならない。極端な想像をすると、Googleの検索アルゴリズムに手心が入れば、知らないうちに一定の方向の情報しか検索されなくなったりするのではないか。そうならないとは限らない。だって、Googleのアルゴリズムなんて、誰も知らないのだもの。
2ちゃんねるに「ググれ、カス」というスラングがある。Googleで検索すればすぐに分かるようなことを質問してくる書き込みに対する決まり文句だ。でも、これからはググっただけでは、駄目なのだ。それを意識しながらインターネットを利用しなければならない、そんな状況がやってきた。
ところで、扇風機だ。
欲しい機能を十分に満たしている東芝の扇風機は、価格.comに登録されているオンラインショップではみんな品切れか、異常な高値だった。Googleで商品の型番を検索しても結果は同じ。困ったわたしは、原点に戻ることにした。
電気屋さんに行ってみる。これだ。
車で30分ほどの大型量販店に半ばあきらめの気持ちを持って行ってみると、あるではないか欲しかった扇風機が。それも、沢山。
季節ものの家電は、シーズンが過ぎれば売れなくなる。余剰の在庫を回避するためにむしろ、インターネットが活用されるものとばかり思っていたわたしがいた。考えてみれば、そうよ、今この瞬間、暑いんだもの。ネットで注文して、配達されるまで待って、なんてやっていられない。それこそ命に関わる。買って店頭から持ち帰り、家に帰って扇風機で涼みたいではないか。
インターネットは、既に不可避なものになってきている。活用されなければならない。
でも、インターネットを信頼しすぎてはいけない。
そんなことを思って、新しい扇風機で涼みながら、未だ終わらない夏を過ごしている。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔opinion122:100908〕
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