「外見第一」、「猫かぶり政権」を見張ろう
- 2012年 12月 27日
- 時代をみる
- 安倍政権田畑光永
暴論珍説メモ(121)
また安倍内閣が誕生した。前回、2006年の時の何とも言えない不吉な予感を思い出す。人気抜群の小泉首相(当時)に重用され、自らにあたかも神通力があると錯覚したかのごとく、意気揚々と「美しい日本」だの、「戦後レジームからの脱却」だのを唱えて登場した安倍内閣(第一次)は防衛庁の防衛省への昇格、教育基本法の改定などを矢継ぎ早に実行した。どこまで突っ走るのか不安にかられたものだ。
しかし、「消えた年金」に足を救われ、07年の参院選に敗退、自身の体調もあって1年で政権放棄、なんとも不恰好な退陣となって、われわれの悪夢は意外にあっさりと終わった。
あれから5年、よもやこの人物が再び表舞台に出てくることはないはずとの常識は、自民党の非常識によって見事に裏切られ、また首相官邸にこの人物が入ることになってしまった。民主党による「政権交代」がいずれ自民党に崩されることはそれなりに覚悟していたにしても、まさかあの自民党政権末期の顔ぶれがまたもわが世の春を謳うのを次幕に用意していようとは、民主党さんのブラック・ユーモアもたいしたものだ。
しかし、今度の党役員、組閣の人事を見ると、5年の歳月は安倍氏にも相応の知恵をつけたようだ。まずこの前の党総裁選に立候補した5人のうち本人と病気療養中に町村信孝氏を除く3人、石破茂、石原伸晃、林芳正の各氏を幹事長、閣僚に取り込み、前総裁の谷垣禎一氏にも法相の椅子を用意して礼を尽くした。「お友達内閣」から脱皮して「挙党体制」という言葉が古ければ、「オールスター・キャスト」だが、これも古いか。とにかく極力文句を言わせない体制作りだ。一塹を喫して一智を長ず、か。
それ以上に考えたのは女性の扱いだ。内閣に稲田朋美行政改革担当相、森雅子少子化担当相、さらに党役員に野田聖子総務会長、高市早苗政調会長を配した。この2人の三役入りには驚いた。2人は言うまでもなく、女性の三役入りはおそらく初めてだ。なぜだ?
安倍氏自身、来年7月の参院選に勝つことが、民主党政権による政治の混乱を糾す本番の戦いと位置づけている。そして選挙戦となると、閣僚より党役員の出番が多くなる。そこでこの2人なのだ。たとえば各党政策担当者によるテレビ討論の場を考えると、高市氏の関西弁が効果を上げそうだ。またシングルマザーで障害児を育てる野田氏が子育てや社会保障を論じたら、いかにも女性票を集めそうではないか。
これが参院選目当ての「外見第一政権」だ。
安倍政権にはもう一つの顔がある。「猫かぶり」だ。安倍氏は来年2月2日の島根県の竹島の日に政府の行事は行わないことを早々と表明した。韓国のパク・クネ新大統領の就任式がその3日後であることを考えての所作だ。そればかりではない。尖閣への公務員常駐も当面やめるそうだし、選挙中は大声で呼ばわっていた憲法改正での国防軍とか、集団的自衛権の行使とか、やばいことはすっかり触れなくなった。外国であれ、輿論であれ、刺激は避けるという姿勢があからさまだ。
とはいえ、安倍氏が右寄り体質であることは衆目の見るところだ。表向きのおとなしさの陰で、閣僚人事を見ると、下村博文文科相、古谷圭司拉致問題担当相、稲田朋美行政改革担当相各氏は右寄りどころではなく右そのものだし、右寄りといえば麻生太郎副総理以下、菅義偉、新藤義孝、山本一太各氏が居並ぶ。これぞ安倍内閣だ。どこまで猫をかぶりおおせるか、見ものではある。
政策はどうか。これはさすがに「外見第一」も「猫かぶり」も難しい。
今この日本で新政権が出来るとすれば、いかなる原発政策をとるかは世界の関心事だ。そして今度の選挙では「脱現発」もしくはそれに類する言葉が多くの政党の旗印に書き込まれた。しかし、結果は脱原発の「だ」の字も言わなかった自民党の勝利だった。そこでいざ政権発足にあたって、多少は輿論に譲るかと期待した。外見第一でも猫かぶりでもいいから、脱原発に一歩でも足を踏み出さないかと。
選挙に当たっての自民党の原発政策は、今ある原子力発電所の再稼働については3年以内に結論を出す。そして10年以内に持続可能な電源構成、つまり火力発電、原子力、自然エネルギーをそれぞれどういう比率にするかを確立する、というものだった。
公明党と連立政権を組むにあたって、両党の政策協議というのが行われたのだが、その結果は「原発の再稼働は原子力規制委員会の安全基準を満たすことを前提に国民の理解を得て判断する」と、「国民の理解を得て」という言葉が入るには入った。しかし、脱原発らしきところは、省エネルギー、再使用エネルギーの組み合わせで、「可能な限り原発依存度を減らす」という表現だ。「可能な限り」だから、別に原発依存度を減らせなくても約束違反にはならない。結論としては、とにかくほとぼりが冷めたら、これまでどおり原発を動かしたいという気持ちがありありの政策で、公明党もこの問題ではブレーキの役目は果たさなかった。
次に安倍総理が最重要課題とする経済再生はどうか。経済再生本部を作るとか、経済なんとか諮問会議を復活させるとか、機構つくりはやりたければやればいいのだが、肝心の政策はといえば、結局、インフレターゲット頼み。それも日銀に責任を押し付けて、うまくいかなければ日銀のせいにしようという姿勢がありありだ。
先週の木曜日と金曜日、日銀は金融政策決定会合を開いて、安倍氏の言う2%というインフレターゲットについては来月の会議で討議することを決めた。日銀もさすがにこれまで物価のめどとして1%の上昇と言ってきたのを、手のひらを返したように自民党にすり寄るわけにもいかず、来月に検討をのばした。が、1%さえ実現していないのが実情なのだ。
ところが23日の日曜日、フジテレビ番組で安倍氏は追い打ちをかけた。来月、日銀が2%のインフレ目標を決めなければ、日銀法を改正してでも日銀に約束させる、と言い、さらに物価だけでなく雇用を増やすことも日銀に責任を持ってもらうと踏み込んだ。これは米のFRBが物価と失業率の目標を掲げていることを真似したのだろうが、インフレにさえなればすべてが上向くという安倍氏の考え方は単純に過ぎて、これが総理の言うことかとこちらは不安になる。どうやら日銀が本気でやれば都合よくインフレを起こせると思っているのだろうが、失礼ながら経済政策がわかっていないと言わざるをえない。
安倍氏は今、株が上がり、円が下がっているのを、すでに自分の政策が効果を表し始めたと悦にいっているようだが、この二つは別物だ。株が上がったのは、株の世界はとにかくお金が出回るという話にさえなれば、その期待だけで上がる世界だ。円安で輸出産業の業績があがるのを見込んでいるにしても、いずれも期待値であって、実際になにがよくなったわけでもない。
一方、円が下がっているのは、輸出産業には都合がよくても、基本的には日銀の円じゃぶじゃぶ政策が実行されれば、円の価値がそれだけ下がると見越しての下げだ。しかもこの円安がどんな副作用をもたらすか分からない。輸入にたよる食糧やガソリンが大きく値上がりして、物価上昇の目的は達しても所得の増えない庶民は余計にものを買うどころか、かえって生活が苦しくなるということだって起こりうる。むしろその可能性の方が高い。
とにかくこれは半年あれば結論が出る。外見第一、猫かぶりが通用するかどうかは、じつは安倍インフレ、通称「アベノミクス」(ばかばかしい)にかかっている。まあ見ていよう。
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