改憲路線の安倍政権に強い危機感と警戒心 -2013年の年賀状にみる国民意識-
- 2013年 1月 9日
- 時代をみる
- メディア安倍政権岩垂 弘
2013年は、「憲法改定」「集団的自衛権の行使」「原発推進」を掲げる安倍政権の登場で幕を開けた。マスメディアがこれをどう報道するか注視していたが、新年の紙面やテレビ画面で見る限り、安倍政権の路線に警鐘乱打するものはほとんど見当たらず、むしろその路線を声高に支持する論調が目立った。が、私が受け取った年賀状には、安倍政権の登場に危機感を抱く声が溢れていた。年の初めに、時の政権に少なからぬ国民がこれほど警戒心を募らせているなんて、私には初めて経験だ。
私はこれまで毎年、多くの友人、知人と年賀状の交換をしてきたが、これまでの年賀状の文面といえば、「謹賀新年」とか「賀正」とか「明けましておめでとうございます」といった、いわば新年を言祝ぐ決まり文句が大半だった。が、今年は違った。登場したばかりの安倍政権について言及したものが、予想以上に多かった。しかも、いつもは政治的なことには全く触れず、時候の挨拶や、身辺のこととか家族の消息だけを書き送ってくる、ごく普通の市民が、今年は安倍政権についての感想を書き添えるといったケースが目立ち、私を驚かせた。それらは、書かずにはおられない、といった切迫感を感じさせた。
「日本の右傾化に恐怖を覚えます」(長野県諏訪市・女性)
「国際友好国民が安心して暮らせる国造りとかけ離れた、国家独善と右傾化が気にかかります」(広島県安芸郡・平和運動関係者)
「自公圧勝、右翼政権の出現に危機感強いです」(長崎市・放送会社ディレクター)
「選挙の結果に唖然。原発も憲法も、一気に反動が進むのか、心配です」(千葉県柏市・元会社員)
「原発はどうなるのか、オスプレイは、TTPは、沖縄は、増税は、そして何より平和憲法は……。戦後から68年、何とか蓄積されてきた平和。それをひっくり返そうとする政権には、怒り心頭」(東京都品川区・元政党書記)
「原発は再稼働され、さらに周辺諸国との関係は戦後最悪となり、政界は右翼的に再編成されて新しい年を迎えました。隣国との不和は、今後長く経済的にも軍事的にも文化的にも双方の側に大きな損害を及ぼすと思います」(東京都文京区・大学名誉教授)
「安倍内閣は日銀の独立性、尖閣諸島をめぐる日中対立、憲法改定などで、超えてはならない一線を超えてしまう恐れがあります。待っているのは日本の自壊でしょう」(東京都杉並区・ジャーナリスト)
「特に今夏の参院選挙のあとは、これまで以上にキナ臭さと危険を感じます」(東京都小平市・研究所勤務)
危機感、警戒心は戦前生まれの人にひときわ強いようだ。
「『国防軍を』なんて平気で発言しまう人が総理大臣になってしまいました。昭和のはじめ生まれの者は心おだやかではありません」(東京都練馬区・女性)
「国防軍をなどと言われて、老人なら黙っておれない」(長野県諏訪郡・医師)
「選挙結果のひどさには落胆しました。小選挙制度のせい、反原発党派の分裂、中・韓の島嶼問題の武力圧力への反発、あるいは自民党自体の獲得数の減少などと言われても、落ち込みは治りません。『明文改憲』が衆院議席の3分の2を獲得し、右翼国家への進行が進むのですから。『国防軍』ですと!」(西東京市・平和運動家)
「安倍政権が2%インフレ政策を提示し、日銀がそれに追随することは、年金生活者には心配の種です。また、勇ましい掛け声の政策を打ち出していることも、戦前の軍部を思わせ、杞憂でなければよいがと思っています」(千葉県流山市・元大学教授)
「暴支膺懲―横暴シナを懲らしめる。南京を陥落させて威勢よく迎えた昭和13年正月は75年前のこと。だがそれは戦渦8年の苦難の序奏。武威を競って招いた昭和の教訓をすっかり忘れたかのような昨今に戦争体験世代は危ぶむばかりです」(横浜市・元新聞記者)
沖縄でも安倍政権を生み出した本土の住民への批判が強まっているようだ。かつて沖縄市の職員だった知人は、こう書いてきた。「『みぎ』振れを開始したニッポン。オキナワの意思に何ら動く気配も見せずに『政治』は勝手に動き出して『右へ右へ』。いつからこんなに『強い者』にあこがれる日本人になったのですか」
安倍自民党の圧勝をもたらした最大要因は、選挙制度すなわち小選挙区制にあると指摘した年賀状も少なくなかった。
愛知県在住の元新聞記者はこう書いてきた。「総選挙では、原発維持に寛容で憲法改正(とくに9条)に積極的な自民党や維新の会が大勝しました。しかし、自民党は議席こそ6割を得たものの、得票率小選挙区で4割、比例区で15%でした。これで国論を二分するような重大事をすべて白紙委任されたと言えるのでしょうか」
出版社の役員は「戦後最低の投票率、最高の白票率、そして比例得票率では、大負けの09年とほとんど変わらないのに『自民圧勝』。それでも有権者の信託を受けたという『お墨付き』で、政策は転換されるでしょう」と懸念する。
広島市の元大学教授は「最も非民主的な小選挙区制のからくりで極右・安倍の率いる自民が『圧勝』した。中道・福祉が看板だった公明はどこまでぶら下がっていくつもりか」と述べていた。
ところで、マスメディアを批判する年賀状は年々増える一方だが、今年も目についた。それも、かつてマスメディアに在籍したことのある知人からの年賀状だ。
東京都在住の元新聞記者は「(総選挙で)争点をあいまいにしたまま、国防軍を掲げる自民党などを大勝させてしまったことにはマスコミの責任が大きいと言わざるを得ません」と書く。
「非核三原則と憲法9条への攻撃が加速しています。鈍いジャーナリズムの反応が気がかりな新春です」と書いてきたのは、大阪府下在住の元新聞記者だ。
かつて新聞記者として原水爆禁止運動の取材を担当した経験をもつローカル・テレビ局の役員は、こう書く。「原水禁運動における長年の危惧が現実になったというのに、警鐘を鳴らしていた人たちの声が聞こえてこない。声を届けないメディアの不始末でしょうか」
元新聞記者から来た年賀状の添え書きには「メディアと政治とポピュリズム。ワイマールからナチスの時代を想起します」とあった。昨今の政治情勢と大衆意識、それにメディアの論調が、ドイツ・ワイマール共和国の崩壊過程に似ているのでは、という危惧であった。
埼玉県在住の元労組書記(女性)の年賀状には「50年も購読しているOO新聞を中止しようかなと考えています」とあった。新聞論調への不満が、彼女をついに長年愛読した新聞の購読中止へと走らせているようだった。
これに関連して、印象に残ったことがあった。核問題に関心をもつ人たちで運営されているメーリングリストにあった12月31日付の書き込みだ。広島県のメーリングリスト参加者からの書き込みで、「新聞の購読を月末でやめた」という内容。購読をやめた理由について、その人は「知りたいことを書いてくれてないんですよ。原発や放射能とかの記事がなくて見るところがない。むしろ私たちのほうがよく知ってる。記事をみてもおかしいなと思ったり、違うなと思うものばかりで、参考にならないというか、ほんと、見るところがなくて、実はここ2~3か月、ほとんど読んでないんです。いい加減、もうやめようと思いまして」と書いていた。
これを読みながら、私はこう思わざるを得なかった。「新聞が今のような紙面をつくり続ける限り、購読をやめる読者が増えてゆくのではないか」と。
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