先見の明あった演劇「臨界幻想」 -30年前に3・11原発事故を予測-
- 2013年 2月 20日
- 評論・紹介・意見
- 『臨界幻想2011』原発岩垂 弘演劇
2月14日、東京・六本木の俳優座劇場で『臨界幻想2011』を観た。ふじたあさや作・演出による青年劇場の公演だった。初演は1981年だが、2011年3月11日の東日本大震災に伴う東京電力福島第1原子力発電所の事故を受けて、2012年に31年ぶりに再演され、今回、観客の要望に応えて再々演となった。「日本中が国をあげて原発推進に狂奔していた時代に原発の危険性を警告した演劇があったとは」。劇作家・演出家ふじたあさや氏の洞察力の鋭さと確かさに圧倒されるとともに、当時、この警告に耳を傾けることができなかった私たちの感性の鈍さを反省せざるをえなかった。
初演のタイトルは『臨界幻想』。演出は千田是也。東京を皮切りに愛媛、高知、宮崎、大分、京都、和歌山、新潟、宮城、福島、静岡、福井、島根の13都府県の25カ所で上演された。
再演、再々演のタイトルは『臨界幻想2011』で、初演の『臨界幻想』を3・11原発事故以降の事実を踏まえて改作したものだ。が、ふじたあさや氏によれば「原型の『臨界幻想』自体にはほとんど手を入れてはいない」という。
再演、再々演の狙いを、青年劇場の福島明夫・代表は「『臨界幻想』を初演したのは1981年でした。それから30年、福島原発事故は私たちにとって大きな衝撃でした。確かに30年前に『臨界幻想』を全国各地で上演はした。しかし、それは不十分だったという痛恨の思いです。演劇上演活動を繰り広げれば、世の中が変わるとは思いません。しかし、今を生きる表現者として、私たちも時代の当事者であり、伝えるべき中身はあるのだと思うのです。まして作品で描いた廃墟は現実のものとなったのです。原発事故後、私たちは作者のふじたあさやさんと話し合い、やはり上演すべきだろうということで一致しました」と述べている(俳優座劇場で配られたパンフレットから)。
さて、パンフレットによれば『臨界幻想2011』のあらすじはこうだ。
――時は「現在、もしくはかつての未来」。ところは「主に日本のどことも知れぬ地方の原子力発電所とその周辺」。青年が死んだ。 死因は心筋梗塞。26歳。未来産業とあこがれ、原子力発電所に就職して7年目だった。周囲の人間はただの病死と納得し、失意の恋人も新しい人生を選び直そうとしていた。その折りもお折り、残された母親のところへ、労働者被ばくの調査に訪れた者があった。「息子さんの死は、原発と関係があるんじゃありませんか」。息子の死の真相を追い求める母によって、知られていなかった事実が次々と浮かび上がる。そして……
舞台では、放射線を浴びながら働く原発労働者の過酷な作業実態や、電力会社による被ばく隠し、それに協力する医師、被ばくを追及しようとする人を脅して諦めさせようとする地元の有力者、原発で金を儲けようと公言する首長らの生態が、次々と明らかにされてゆく。暴力もばっこする。そして、終盤、舞台は突如として轟音とともに暗転する。「絶対安全」といわれてきた原発に事故が発生し、住民をパニックに陥れる。
舞台は終始緊迫感に満ち、観客席は静まりかえったまま。幕が降りても、しばらく重い沈黙が観客席に漂っていた。おそらく、ほとんどの観客にとっては、自分の目の前の舞台で展開されたドラマが、もはや架空のものでも空想の世界のものでもなく、厳然たる事実と受け止めていたからだろう。なぜなら、目の前で展開されたドラマの中身は、そのまま3・11福島原発事故直後からマスメディアの報道によって明らかにされた、それまて隠蔽されていた原発をめぐるさまざまな事実そのものだったからである。
私には、何かいたたまれないような、にがい思いが残った。つまり、「後の祭りではないか」という思いである。32年前に、原発の本質に迫った演劇が上演されたのに、なぜ私たちは3・11福島原発事故を防げなかったかという悔恨だ。多くの国民が「原発の安全神話」に踊らされたまま世界最悪レベルの原発事故を起こしてしまったのだ。
しかるに、私たちは原発の再稼働を目指す政党を勝利させてしまった。 私たちは再び国民的な判断を求められる時期を迎えているとみていいだろう。事故がもたらすリスクが明らかになってもなお原発を推進するか、それとも原発に頼らない社会を目指すか、である。
「畏(おそ)れを忘れた日本人へ 原発を問い曖昧な現実を疑え たかがお湯を沸かすためだけにどうして核分裂を起こさせる必要があるのだろうか」
会場でもらったチラシにあったキャッチコピーである。
機会があれば『臨界幻想2011』の観賞をお勧めしたい。青年劇場によれば、これを全国緊急上演することになり、その日程は以下の通り。問い合わせは青年劇場チケットサービス(03-3352-7200)へ。
2月20日 三島(静岡県)、2月21日 浜松(静岡県)、2月22日 菊川(静岡県)、2月24日 周南(山口県)、2月25日 岡山、2月27日 横浜(神奈川県)、3月2日 藤沢(神奈川県)、3月3日 八王子(東京都)、3月6日 郡山(福島県)、3月7日、仙台(宮城県)、3月9日 秋田
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