青山森人の東チモールだより 第232号(2013年4月7日)
- 2013年 4月 8日
- 評論・紹介・意見
- 東チモール汚職青山森人
シャナナ首相は汚職疑惑にまみれる政府をどう運営するのか
蜂蜜売りの老人と少女
去年までほぼ毎日見かけていた蜂蜜売りの老人と少女の二人の姿を見なくなりました。老人は、女の子のお祖父さんでしょうか、白い口鬚が似合い、肌つやがよく、清楚な身なりが印象的でした。子の子はいつもワンピースを着てこの老人の後ろをトコトコと歩いてついていました。二人の姿をここベコラに住み始めたころ(2006年)から見かけていました。首都の中心地でもこの二人をよく見かけ、夕方、二人が歩いて帰っていくのも見かけました。女の子は老人の後ろを黙々と歩くだけで、二人が言葉を交わしているのをわたしは見たことがありませんでした。売りものの蜂蜜とは瓶入りで、5~6本をぶらさげた棒を老人が肩にかけ、女の子は手ぶらでただ歩くだけでした。
いったい二人は毎日どれくらい歩いているのか。どれくらいたいへんな距離を歩いているのか。わたしの住むベコラの位置と首都中心地は片道約4Kmの距離、往復8Kmとしても、わたしの見えない所でこの二人は歩いているし、首都中心部で蜂蜜を売るときはゆっくり歩き、ときには立ち止まるであろう、移動距離はそれほどでなくても労力は相当に費やすはずだ。老人と小さな女の子にとって過酷な行商ではないのか。わたしの興味はしだいにふくらみ、タクシーやミニバスを利用していたわたしは二人の真似をして歩いてみました。最初は東チモール独特の暑さが最大の障害となり、そして明らかな体力不足から、完歩することはとてもできませんでした。完歩できるようになるとも考えられませんでした。いつも途中で車を拾うありさまでした。ところが1~2年間これを繰り返すうちにわたしも二人が一日に歩くと推測される距離を歩けるようになりました。ときには二人の後をつけるように歩いたものです。この体力増進には自分でも驚きました。東チモールで年に1~2回必ず病に伏していたわたしでしたが、それ以来、寝込むような病気をしなくなりました。
手ぶらで歩いていた女の子ですが、去年、瓶入り蜂蜜のぶらさがる棒を肩に担ぐようになりました。瓶が2~3本しかぶら下がっていない棒でも子どもの肩に食い込むほど重かったはずです。その一方、小さかった女の子も学校へ通う年頃になっていました。日中は蜂蜜売りをしていたので学校へは行けないはずです。お祖父さんであろうこの老人はずっとこの子を連れて歩き続けるのだろうか。それでいいのか。そんなことを思いながらこの二人をわたしは見つづけていました。
去年から今年にかけて何があったのかわかりませんが、この二人を今年わたしはまだ見ていません。女の子が通学するようになって、このコンビが平和裏に“解消”されたことを願っています。
わたしの住む位置からさらに坂道をのぼるところにある橋。雨上がりなので山岳部から海の方向へ濁流が流れている。あの老人と女の子の家がこの橋を渡った所にあるとしたら、毎日、片道5Km以上を首都中心部へ行くだけで歩いていたことになる。
2013年4月6日、ベコラにて。ⒸAoyama Morito
財務大臣の取り調べが始まる
去年から汚職疑惑が話題になっていたエミリア=ピレス財務大臣にたいする「反汚職委員会」による取り調べが、4月3日、始まりました。
捜査が始まったといっても、捜査官がゾロゾロと事務所に入り書類が入った段ボール箱の山を車に詰め込むという日本のテレビでたびたび流れるニュース映像を頭に浮かべられると困ります。「反汚職委員会」の事務所に大臣が従者を連れて入り、そして出てくるだけの実にのんびり閑古とした映像を想像してください。それに「反汚職委員会」は起訴する権限はありません。「反汚職委員会」の報告を受けて起訴・不起訴の判断をするのはあくまでも検察です。「捜査の受付が始まった」という言い方が現時点では実態に近いと思います。
とはいえ十分に重大ニュースです。捜査が始まったことにかわりありません。去年8月に発足した第二期シャナナ連立政権にも影響を与えることでしょうから、おおいに注目していきたいと思います。
「反汚職委員会」も、そして「反汚職委員会」の事務所から出てきたときマイクを向けられたピレス財務大臣も、捜査については正式な発表も声明もしません。4月4日、『スアラ=チモール=ロロサエ(STL)』紙は財務大臣の疑惑について、『テンポ=セマナル』紙が去年すでに報じた国立病院の医療機器購入をめぐって大臣が夫の経営する会社に便宜を図った疑いを取り上げただけでしたが、同日の『インデペンデンテ』紙は地方に建てられる庁舎建設をめぐる不正行為の疑いについても取り上げて報道しました。財務大臣の汚職疑惑はひとつだけではないようです。
ルシア=ロバト前法務大臣、女子刑務所に入って約二ヶ月
ところで、第一期シャナナ連立政権下で法務大臣を務めたルシア=ロバトですが、今年2月から服役を始め、ほぼ2ヶ月がたちました。場所はエルメラ地方グレノにある女子刑務所です。刑務所の事業の発注にかんして夫の経営する会社に便宜を図り、5年の実刑を喰らってしまい自らが刑務所に入ってしまうとは法務大臣としてなんとも皮肉な話です。
『STL』(2013年3月28日)によると、ルシア=ロバト受刑者は体調不良を訴えて国立病院で治療を受けましたが、ディオニシオ=バボ現法務大臣やグレノ刑務所の所長は前法務大臣の症状について「たいしたことはない」と語っています。ひと昔前のこの国なら要人の受刑者は海外の病院で治療を受けるという厚い待遇を受けたものですが、前法務大臣に何らかの特別待遇を与えるという動きはいまのところは出ていません。
大物の取り調べが続く、どうする首相
「反汚職委員会」の取り調べの対象となっている閣僚はエミリア=ピレス財務大臣だけではありません。第一期シャナナ連立政権で基盤整備大臣を務めたペドロ=レイ交通通信大臣は前政権時代の事業にかんしてすでに二度の取り調べを受けています。
また第一期シャナナ連立政権で財務省の局長を務め、現政権下で制度強化担当長官に就いているフランシスコ=ボルラコについては、局長時代の職権乱用について裁判が5月28日に始まることがすでに決められています。デリ(Dili、ディリ)地方裁判所はこの長官の裁判をおこなうために国会へ長官の免責特権を外すように要請しているところです。
閣僚・政府高官の不正疑惑が立て続けに報道されると、日本ならばそれだけで内閣は支持率低下で揺れるところですが、東チモールでは内閣支持率調査というものがないので支持率がどうなっているかはわかりません。
第二期目に入ったシャナナ首相が求められているのはまず治安の安定です。しかしいくら治安が安定しているからといっても汚職などの不正疑惑が次々に政府内から涌くとなるとやはり世間の風あたりが厳しくなります。
もし任期途中で政権維持が難しくなるほどの事態に陥った場合、政府あるいは大統領府はどのような行動をとるのか。市民生活が暴動で脅かされてマリ=アルカテリ首相が退陣したような極端な暴力環境に至らないとしても、内閣が明らかに国民から不信任のレッテルを貼られたたとしたらこの国の首脳はどのように責任をとるべきなのか、これはこの国では未知の分野です。時間が経てばいずれ東チモールでもそのような政局が生じることでしょう。いまはシャナナ=グズマン首相が解放闘争の最高指導者だったという威光のおかげで政局を収めることができるかもしれませんが、20年後、30年後、40年後、解放闘争の英雄たちが政治の最前線から物理的に退いている近い将来は、解放闘争の栄光は政治には通用しません。そのような近い将来を見据えて現在のシャナナ首相ら指導者たちは社会の政治的な地ならしをすべきです。
3月25日、シャナナ首相は記者たちにたいし、もし「反汚職委員会」が必要とするならば自分も取り調べるように、首相を取り調べることに臆することは無い、自分は調査に応じると語りました。「反汚職委員会」の調査にかんして秘密を守らないといけないのでシャナナ首相は具体的なことは語りませんが、首相のいう調査の対象とされるのはコモロ地区に架かる橋の建設と首都の道路工事の事業です。事業は計画通り進まないのに金だけが費やされている。庶民の生活が向上しない。政治家と官僚は豪華な公用車を乗り回しいい暮らしをしている。この状況をいかに打破するか。日本も人ごとではありませんが……。
去年、独立(東チモールでは「独立回復」という)10周年記念日にオープンした「レシデレ広場」は若者や学生、そして子ども連れの家族で賑わう。市民の新しい憩いの場だ。しかし去年の10月、『テンポ=セマナル』紙はこの広場の工事を請け負った業者に第一期シャナナ連立政権の観光通商産業省の局長の家族が経営する会社が含まれたとして汚職疑惑のあることを報じている。2013年4月4日、「レシデレ広場」。ⒸAoyama Morito
~次号へ続く~
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