損害賠償請求権の消滅時効に関し、立法措置を求める会長声明/大阪弁護士会
- 2013年 6月 8日
- 評論・紹介・意見
- kaido損害賠償請求権
3.11原発事故から2年3ヶ月が過ぎ、損害賠償請求権の3年時効が適用されると、
被災者の賠償請求権消滅まで残りわずか9ヶ月となります。
国会では、和解仲介手続の申し立てをおこなっている場合には時効中断が可能に
なる法律が成立していますが、この法律によって救済される人はわずかな数に過
ぎません。
大阪弁護士会が、下記の会長声明を発表しています。
ぜひお読みください。
***
[2013年6月4日] 大阪弁護士会 会長声明
東京電力福島第一原子力発電所事故に基づく損害賠償請求権の消滅時効に関し、
参議院での付帯決議を実行あらしめるために立法措置を求める会長声明
http://www.osakaben.or.jp/web/03_speak/kanri/db/info/2013/2013_51ad6c207fcb0_0.pdf
(以下、PDFの内容をテキスト形式で掲載)
1 2011年(平成23年)3月11日に発生した東日本大震災に伴う東京電
力福島第一原子力発電所の放射性物質放出事故(以下「本件原発事故」とい
う。)から、すでに2年3ヶ月が経過しようとしている。
未だに5万人以上の被災者が福島県外に避難している。また、放射線量が高いに
もかかわらず、195万人以上の被災者が福島県内での生活を余儀なくさせられ
ている。さらに、福島県のみならず、その他の地域においても深刻な放射能汚染
による被害を及ぼしている。本件原発事故による被害は、現時点においてもその
全容が明らかではなく、これがいつまで続くか計り知れない深刻かつ広範なもの
である。大阪府内にも故郷からの退去を余儀なくされた多くの被災者が避難して
おり、平成25年5月2日現在、1947名の方が避難をされている(関西広域
連合発表)。
このような状況において、本件原発事故の損害賠償請求権につき3年間の短期消
滅時効(民法第724条前段)が適用されるとなれば、本件原発事故の被害者に
残された時間はわずか9ヶ月余りしかなく、多くの被害者が、先の見えない生活
の最中に、損害賠償請求の法的手続をとらざるを得ない状況に追い込まれること
になるが、このような事態は著しく正義に反する。
2 今国会において、「東日本大震災に係る原子力損害賠償紛争についての原子
力紛争審査会による和解仲介手続の利用に係る時効の中断に関する法律(以下
「特例法」という。)」が成立した。この特例法は、前記紛争解決センターへの
和解仲介手続が打切りとなった場合、手続打切りの通知を受けた日から1ヶ月以
内に裁判所に訴訟を提起すれば、和解仲介申立時に訴えを提起したものとみなす
ことで時効中断を認めるものであり、その限りで評価できるものである。
しかし、文部科学省によると、和解仲介手続申立ては約1万8千人だけで、福島
県の避難者約15万2千人の12%にすぎず、未曾有の被災者・避難者の数に比
してごく一部にとどまっているのであって、被災者・避難者の救済としてはきわ
めて不十分である。しかも、時効中断は和解仲介申立てをした損害項目に限られ
ているため、申立外の損害項目には中断効は及ばない。また、手続き打ち切りの
通知を受けた日から1ヶ月以内に訴えを提起しなければならないという点も、被
災者・避難者に対し、事実上不可能を強いることになる。したがって、本件原発
事故の損害賠償請求権に対しては、3年の短期消滅時効は適用すべきではない。
3 他方、本件原発事故について、不法行為のときから20年間の経過により損
害賠償請求権が消滅するという除斥期間や10年間の債権消滅時効(民法第
724条後段、同法第167条第1項)も、適用されるべきではない。
現時点では、原発事故と健康被害との関係について、放射線による健康被害がい
つの時点でどのように出現するか一致した科学的な知見は確立していない。チェ
ルノブイリ原発事故では、発生後25年が経過した後も、新たな被害が発生し続
けている事実が報告されているのである。
そのような中で、上記除斥期間や消滅時効が適用されると、本件原発事故から
20年経過後に発生する被害は、賠償されないことにもなりかねず、著しく正義
に反することになる。
この点について参議院が、特例法の成立に際し、平成25年度中に短期消滅時
効・除斥期間に関して、法的措置の検討を含む必要な措置を講じることを附帯決
議したことは極めて適切である。
4 よって、当会は、国に対し、参議院での上記附帯決議を実行あらしめるため
に、原子力損害賠償請求権について、3年間の短期消滅時効(民法第724条前
段)が適用されないとする更なる立法措置を速やかに講ずることを求めるととも
に、20年間の除斥期間や10年間の債権消滅時効(民法第724条後段、同法
第167条第1項)についても、別途適切な立法措置の検討に着手することを求
める。
2013年(平成25年)6月4日
大阪弁護士会
会長 福原 哲晃
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔opinion1321:130608〕
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