政府と政治家たちによる憲法改定の動きに反対する -世界平和アピール七人委が訴え-
- 2013年 6月 29日
- 時代をみる
- 岩垂 弘憲法
世界平和アピール七人委員会は6月28日、東京都内で記者会見し、「日本国憲法の基本的理念を否定する改定の動きに反対する」と題するアピールを発表した。アピールは、政府と国会議員が憲法の改定への動きを直ちに中止するよう求めるとともに、国民が憲法改定の動きに注目し、意見を表明するよう訴えている。
世界平和アピール七人委は1955年に平凡社社長・下中弥三郎氏、湯川秀樹博士、日本婦人団体連合会会長・平塚らいてうさんら当時の日本を代表する知識人7人で結成された、無党派の知識人グループ。人道主義の立場から平和と核兵器廃絶を内外に訴え続けてきた。現行憲法改定の動きに反対する本格的なアピールを発表したのは初めて。
現在の委員は池内了(総合研究大学院大学教授)、池田香代子(翻訳家・作家)、大石芳野(写真家)、小沼通二(慶應義塾大学名誉教授)、辻井喬(詩人・作家)、土山秀夫(元長崎大学学長)、武者小路公秀(元国連大学副学長)の7氏。記者会見には池内、小沼、武者小路の3氏が参加した。
七人委が問題にしているのは自民党が昨年4月27日に発表した「日本国憲法改正草案」で、まず、この草案が、現行憲法前文にうたわれている国際的視野を無視し、自国のことのみに目が向いていることを批判している。次いで、この草案が「戦争の放棄」を維持するかの如く見せかけながら、戦力保持、国の交戦権を認めない現行憲法の規定を削除して、集団的自衛権を含む自衛権の名の下で国防軍を設置するとしていることを深く憂えている。さらに、こうした軍事力増強が近隣諸国への圧力となるばかりか、国民生活を圧迫し、国力を弱体化させ、日本を「国防軍」維持のための徴兵制度へ向かわせるのでは、と指摘している。
アピールの全文は次の通り。
日本国憲法の基本的理念を否定する改定の動きに反対する
2013年6月28日
世界平和アピール七人委員会
武者小路公秀 土山秀夫 大石芳野
池田香代子 小沼通二 池内了 辻井喬
私たち世界平和アピール七人委員会は、政府と政治家たちが計画している、現行憲法の基本理念を否定する改定への動きに、主権者であるすべての国民が注目し意見を表明されるよう要望します。また、政府と国会議員がこの改定への動きを直ちに中止するよう求めます。
現行憲法の前文には、「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する」、「いずれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであって、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立とうとする各国の責務であると信ずる」とうたわれています。これは国連において日本政府が主導的貢献をしてきた「人間の安全保障」の理念と一致しています。それにもかかわらず、自由民主党が国会提出を目指している「日本国憲法改正草案」(平成24年4月27日、以下草案という)では、このような国際的視野が一切消え、自国のことのみに目が向いています。
現行憲法の第二章「戦争放棄」は、「草案」では「安全保障」と名をかえた上、第九条第一項の「戦争の放棄」を維持するかの如く見せています。しかし、それを保障してきた現行憲法第九条の②の、戦力を持たず、国の交戦権を認めない規定を削除して、集団的自衛権を含む自衛権の名の下で国防軍を設置して、第九章の「緊急事態」の下で、国民の批判を一切許さずに国の方針に従わせる義務を課そうとしています。
私たちは、現代の戦争が、自衛の名の下で進められてきたことを忘れてはなりません。現行憲法第九条の②のおかげで、第2次世界大戦後、日本は68年間戦争によって殺すことも殺されることもない平和と繁栄の国であり続けてきたのです。軍事力の増強は、たとえ防衛のためといっても、近隣諸国の軍事力増強への圧力となり、しばしば軍拡競争の連鎖となってきた歴史を想起する必要があります。近隣諸国との友好関係を一歩一歩進めることこそが、国家の安全保障の確保につながる最良の道です。日本のような、人口急減社会の下で、多額の財政赤字を抱えている国が軍備増強を図るならば、国民生活を圧迫し、国力を弱体化させ、「国防軍」維持のために徴兵制度への道を歩むことになることは明らかです。
「憲法改正」を規定する現行憲法第九十六条を草案第百条に変更する構想にも大きな問題があります。憲法改定を計画する場合には、内容を丁寧に提示して支持を増やす努力をすることが正道です。それにもかかわらず草案では、現行憲法の改定条件を緩和して、国会議員のわずか1人の差でも国会の議決ができ、国民投票では投票率に関係なく有効投票数の過半数で改定ができることにしています。これでは多数の国民に支持される安定した憲法にならないことが明らかです。
このほかにも、以下に取り上げる項目を含め見過ごすことのできない多くの改定がもくろまれています。
第三章の「国民の権利及び義務」の改定草案では、「公益及び公の秩序」が繰り返し強調され、国民の権利を著しく制限する一方、義務を拡大することが目論まれています。草案は、主権者である国民が政府の行動を規制するという近代国家の憲法の理念に反し、国民主権を事実上放棄させて、政府に国民を従属させる構造になっています。現行憲法の下でさえ、政府は、米軍基地の沖縄県への押し付けを、県民の一致した意見を無視して続け、福島第一原発の事故状況が未解明のままであり、福島県民が将来への生活設計を全く立てられない苦悩の中にいるにも関わらず、この事態を無視して、原発の輸出に熱中し、国内での原発推進を公然ともくろむなど、さまざまな場で国民の基本的人権の蹂躙を繰り返しています。草案はこの動きを一層加速させるものであり、支持することはできません。
また現在、選挙区ごとの人口格差について、政府と国会が是正をしないままでいるため、憲法違反の状態が続いています。草案第四十七条には「各選挙区は、人口を基本とし、行政区画、地勢等を総合的に勘案して定めなければならない」という条項が追加されているため、人口格差が大きい現在の違憲状態をそのまま合憲として定着させてしまうことになります。
現行憲法第五十六条では、両議院の各々が、議員の3分の1以上の出席がなければ議事を進めることができないとされていますが、この規定の削除が提案されています。この改定は、議論の内容の重視でなく、議事を進めるという形式の重視に導くものです。
かつての日本では、軍部が政治に介入し深刻な弊害をもたらしました。そのため現行憲法第六十六条で、すべての大臣は文民でなければならないと定められ、自衛隊員にも適用されています。国防軍を設置しようとする草案では、「大臣は現役の軍人であってはならない」と規定されています。これでは、現役を退くことによって翌日から大臣になれることとなり、いわゆる文民統制は完全に空洞化されることになります。
さかのぼれば、アジアなどの非西欧諸国は、欧米を中心につくられた近代国家が行った侵略主義・植民地主義・覇権主義の犠牲になってきました。そのアジアの中で、明治以来の日本は、米欧諸国と肩を並べる近代国家を構築しました。しかし、日本が自ら近隣諸国に兵を進めて植民地化してきたことは、残念ながら否定できない歴史の事実です。これを反省し、現行憲法前文で「全世界の国民が・・・平和に生きる権利を有することを確認」したことによって、近隣諸国は、日本との武力衝突を考慮する必要がなくなったのでした。そして、高度な技術を保有する日本が、武器の輸出を抑制してきたことも、多くの国と市民から高く評価されてきたところでした。
世界平和アピール七人委員会は、1955年の発足以来、日本と世界の平和を求めてアピールを発表してきました。それは、日本・アジア・世界の歴史的経験を踏まえて到達し、日本国憲法の前文にうたわれている基本理念を発展させようとの一貫した努力であり、現行憲法制定の前年に発足した国連憲章の基本的理念とも一致するものでした。
1945年の敗戦以後積み重ねてきた平和を愛好する国としての日本の努力と成果を、敗戦と被占領の不本意な結果だとして否定し去ろうとする動きによって消し去るという過ちをおかしてはなりません。
連絡先:世界平和アピール七人委員会事務局長 小沼通二
メール: mkonuma254@m4.dion.ne.jp
ファクス: 045-891-8386
初出:「リベラル21」より許可を得て転載http://lib21.blog96.fc2.com/
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔eye2308:130629〕
「ちきゅう座」に掲載された記事を転載される場合は、「ちきゅう座」からの転載であること、および著者名を必ず明記して下さい。