本間宗究の「ちきゅうブッタ斬り」(45)
- 2013年 6月 29日
- 評論・紹介・意見
- 本間宗究金融
官軍から賊軍へ
歴史を紐解くと、「時の権力者」は、常に、「理論」や「宗教」などを利用することにより、「政治的な優位性」を保とうとする傾向があるようだ。あるいは、「権力」が発生するための必要条件としては、一般庶民が、「理論」や「宗教」などを盲信するという点も指摘できるようだが、興味深い事実は、「どのような時代も、必ず、時と共に変化する」ということであり、また、「どれほど強固に見えた政権も、必ず、終焉の時が訪れる」ということである。
そして、「一つの時代が終了すると、混乱期を経て、次の時代が幕を開ける」ということも「歴史の真理」だと考えているが、その時々を生きる人々にとっては、「自分たちが、激動の時期を生きている」という感覚は、ほとんど存在しなかったようである。つまり、「明治維新」の時のように、「ある日突然に、官軍が賊軍に変化する」ということは、「八重の桜」のドラマのとおりに、当時の「会津の人々」にとっては、「悪夢としか言いようのない出来事」だったようにも思われるのである。
また、「なぜ、会津藩士が変化に対応できず、朝敵として扱われたのか?」という点を考えてみると、やはり、「幕藩体制への盲信」が存在したようだ。つまり、当時の人々にとっては、「幕藩体制の崩壊」などは、まったくの予想外の出来事でもあったのだが、このことは、「国内だけで、安穏とした幕藩体制が継続している間は、幕藩体制に揺るぎがなかった」ということである。しかし、実際には、「ペリーの来航」以来、「海外諸国との対応」を迫られ、結果として、「既存の幕藩体制では、対応不能な状態」にまで追い詰められたようである。
そして、このことを、現在の「世界的な金融混乱」に当てはめてみると、「西暦1600年頃」に誕生した「時は金なり」という思想が世界的に行き渡り、「世界中の人々が、お金を盲信する」という態度に変化したのが現在であり、実際には、「マネーの大膨張」が限界点に達した段階とも言えるのである。
つまり、「幕藩体制」と同様に「既存の通貨体制」が維持不能な状態にまで追い込まれているということだが、今までは、既存の経済理論が利用され、ほとんどの人々が、「デフレ」を信じ込んでしまったようである。しかし、今後の問題は、このような状況下で、本当の「インフレ」である「急激な物価上昇」が起きた時に、「官軍が、ある日突然に、賊軍に変化するような事態」が「通貨の世界」で起きることが想定されるのである。
(2013.05.27)
人間の欲望
女優のアンジェリーナ・ジョリーさんが、「乳房切除」の手術を受けたそうだが、驚いたことは、「将来の癌発症に対しての予防手術だった」ということである。つまり、「現在は、健康に問題が無いのにもかかわらず、将来の発症率に危機感を抱いた」という状況だったようだが、この時に考えさせられたのが、「人間の欲望」のことだった。つまり、今回の行為は、「東洋で、古来、権力者が不老不死を願い、いろいろな行動を取った」ということと、よく似た行動だったのではないかということである。
つまり、「富」や「権力」、あるいは、「名声」を得た人々が、「次に何を望むのか?」という点において、アンジョリーナ・ジョリーさんは、「無病息災」や「長寿」という「病気をせずに長生きをする人生」を望んだようだが、このことは、「目に見える価値観」を重視する現代人が、「お金」と同等に望むものとも言えるのである。そして、この時に感じたことは、「人間の欲望には限りが無い」ということであり、また、歴史的変化から言えることは、「次に望むものが、死後の世界における安住ではないか?」ということだった。
具体的には、「京都」や「奈良」において、数多くの神社仏閣が存在する理由は、時の権力者たちが、「死後の世界において、地獄に落ちることなく、天国で安住したい」という思いが存在したからである。あるいは、西洋の「免罪符」のように、「お金を払えば、現生での罪を免除される」という考え方は、その背後に、「死後の世界に、罪を持っていかない」という思いが存在したようにも思われるのである。
このように、現在、西洋人が望み始めたことは、「目に見える価値観」よりも、「目に見えない価値観」であり、実際には、「お金」や「地位」よりも、「心の安住」のようにも感じられるのである。つまり、過去数百年にわたり、「時は金なり」という思想に支配され、「お金さえあれば、人生は安泰だ」と考えてきた人々の意識が変化し、現在では、「不老長寿」や「死後の安住」を求めた可能性が存在するのである。
つまり、今から1600年前に、「西ローマ帝国が、あっという間に滅び、その後は、神とともに生きた」という理由が、どうしても理解できなかったのだが、実際には、「人々の欲望」という「心から望むもの」が、大きく変化したことに、根本的な原因があったようである。そして、現在では、ほとんど同じ変化が起き始めている可能性があるようだが、この時に、現代人が信用している「お金」の価値が激減すると、この動きに、より一層、拍車がかかる可能性もあるようだ。
(2013.05.27)
社会の木鐸
今では死語になりつつあるが、かつては、「社会の木鐸(ぼくたく)」という言葉が存在した。つまり、「世の中の間違いや矛盾などに警告を発し、人々を正しい方向へと導く人々」のことであり、実際には、「新聞社」や「新聞記者」などのことを指していたのである。しかし、現在では、ほとんどこの機能が失われているようであり、結果として、多くの国民は、「金融混乱の嵐の中で、右往左往しているような状況」にもなっているようだ。
そして、この理由としては、ある政治家の言葉を借りると、「新聞社とテレビ局が同系列である」という点が指摘できるようだが、確かに、「世界を見ても、日本だけが、このような異常な状態にある」とも言えるようだ。その結果として、「テレビと新聞とで、まったく同じ意見が報道される」という状況となっており、「日本国民は、その意見を信用せざるを得ない状態」になっているのだが、特に、現在の「世界的な金融問題」においては、「マスコミの勉強不足」とも相まって、「ほとんど真実が知らされていない状態」とも言えるようである。
また、日本人の特徴としては、「議論」と「喧嘩」とを混同しやすい性質があるために、「余計な事を言わずに、穏便な発言に終始する」ということが、往々にして、起きやすくなるようだ。つまり、今回、「橋下大阪市長」が提起した「慰安婦問題」や、「安倍首相」が提起した「憲法改正問題」などのように、「重要な問題について、国民的な議論を活発にする」というのではなく、反対に、「面倒な問題については、当たり障りのない意見を述べ、真剣な議論を避ける」というような風潮が存在するようにも思われるのである。
しかし、現在では、さまざまな「制度疲労」や「問題の噴出」などにより、正確な「歴史認識」が求められるとともに、今後の混乱に対して、適切な「アドバイス」が必要な状況とも考えられるのである。つまり、「自分の意見を堂々と主張しながら、誤った時には、間違いを認め、より高度の考えを導き出す」という態度が求められているものと思われるのだが、どうしても、日本人は、「自分の意見」に固執し、「相手の意見」を尊重するということが苦手なようにも感じられるのである。
そして、最後の段階では、「信じられないような事件の発生」や「社会情勢の大きな変化」に遭遇することにより、「真摯な態度で歴史を振り返り、これからの世の中を真剣に創り上げる」とい態度が生まれるものと考えているが、このような観点からは、「現在の金融混乱も、全てが必要であり、必然なこと」とも言えるようである。
(2013.05.18)
資産効果と換物運動
現在では、「世界的な株高」により、「資産効果」が起きることが予想されている。具体的には、「株価の上昇などにより利益を得た人々が、ブランド品や高級車などを買う状況」のことだが、実際には、「富裕層」と呼ばれる人々が、「奢侈品」などを購入する状況が、主に想定されているようだ。つまり、現在の「中国の富裕層」などは、30年ほど前とは様変わりの状態となっており、「1980年代の日本人」と同様に、短期間の内に「お金もち」になったために、「今まで手に入らなかった高級品を、大量に購入している」という状況になっていることが見て取れるのである。
また、日本人の場合には、「バブル崩壊」以降、「失われた20年」という言葉のとおりに、「株安」や「景気の低迷」に悩まされてきたために、今回の株高は、いわゆる「ペントアップ・デマンド(抑制されてきた需要)」を喚起する効果があったようだ。つまり、今まで抑え付けられていた「消費意欲」が、「株高の利益」などにより、一挙に噴出してきたものと思われるが、これからの問題点は、このような動きが、今後、「換物運動」へと変化する可能性だと考えている。
つまり、「富裕層が高級品を買う」という状態に留まっているならば、一般的な物価情勢には、あまり影響を与えないのだが、今後は、「一般庶民が、より高い値段で、必需品を慌てて購入する」という「換物運動」が始まることが想定されるのである。具体的には、すでに始まった「商品価格の上昇」に加えて、「更なる円安」や「国債価格の下落」が始まると、多くの人々が、「預金」や「現金」に対して「不安感」や「不信感」を抱くことが予想されるのである。
その結果として、「通貨に対する信頼感」が失われ、実際に、「自分の資金」が目減りを始めると、多くの人々が、急速に、実物資産へと「資金の移動」を始める状況が想定されるのである。つまり、「1980年代の中南米」や「1990年代の東欧」などで起きたことが、今後は、先進諸国で繰り広げられようとしているのだが、この時のポイントとなるのが、「ギャロッピング・インフレ」から「ハイパーインフレ」へと、「いつ、移行を始めるのか?」ということである。
別の言葉では、「資産効果」をエンジョイしている状況が「ギャロッピング・インフレ」の段階とも言えるのだが、いったん、「換物運動」が始まった時には、「世界中の人々が大慌てをする状況」が考えられるからである。
(2013.05.16)
本間宗究のコラムhttp://www.tender-am.com/ja/column.html を許可を得て転載。
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