【俳文】札幌便り(8)
- 2013年 7月 1日
- 評論・紹介・意見
- 俳文木村洋平
松落葉ベンチのうえで寝るひとも
五月、長く雪に閉ざされていた円山公園が、茶色い大地を剥き出しにしているのには、力強い季節の移りゆきを感じる。
誰(たれ)よりも遅くて蝦夷の桜かな
日本でおそらく一番、遅い桜はエゾヤマザクラ。札幌にはソメイヨシノが少ない。
制服もスーツもありや花見客
木の下でカメラもつ子も花の宴
恒例の「花見」は、五月とともに始まり、公園も火気解禁となる。気象庁の「開花」は5月の半ばだったが、その前から、飲めや歌えの宴が開かれていた。
公園の花もけぶりなバーベキュー
じきに、楚々として奥ゆかしい山の桜が、ちらほらと花をつける。花見は、北国のひとにとっては、春を迎える行事らしい。円山公園に隣り合う北海道神宮も、参拝客で賑わう。
参道の花に埋める円い山
北ヨーロッパには、春の訪れを喜んで「五月の木」(メイ・ポール(英)、マイバウム(独))を立てる、という行事があります。春は短い夏の始まりでもあるような、季節の感覚。
実際、そこここに春の気色が。こちらのひとは、桜が咲くと「春が来た。」と言う。もう五月も後半だが、たしかに色とりどりの花が街路や花壇、家々の庭にあふれる。とりわけ、チューリップに目が行った。
小雨がち咲きたそうなるチューリップ
好きな子のほっぺに添えるチューリップ
来札のひと出迎えるチューリップ
その品種の多さと、あちこちに咲く様は、チューリップ王国のオランダを思わせた。北海道は、暦の上の夏を迎え、土地の暦では「春」を迎えているのでした。そうしたわけで、いくつか、遅れた春の句を。
母よりの手紙を開くクロッカス
遅咲きの桜のように笑むひとも
たんぽぽの乱れ咲く喜びと悲しみと
鶯の初音に白く二輪草
こでまりと握手しそうでできないな
鶯の初音を聞いたのは、二輪草の咲く山道でした。エゾエンゴサクという水色をした花も、五月の半ば頃、群生していました。こでまりは、まるで握手を求めるように風に花を揺すります。それから、夏の句を。
大木の曲がりたる根に清水寄る
新緑を編み上げている途中の木
小満や北の緑は薄緑
小満。万物がしだいに満つる時節。北国の林や山は、濃緑ではなくて、薄く白樺の肌を映したような浅い緑、黄緑に染まってゆきます。
夏の夜自転車一つ月一つ
今年の夏は、どこへゆこうか。
初出:ブログ【珈琲ブレイク】http://idea-writer.blogspot.jp/2013/06/blog-post.html より許可を得て転載。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
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