加害者・東京電力や事故責任者・国は,何故,福島第1原発事故の被害者に対してきちんと損害賠償・補償を行わないのか?
- 2013年 7月 24日
- 交流の広場
- 田中一郎福島第一原発事故損害賠償・補償
岩波書店月刊誌『科学』(2013年6月号)に掲載されました「原発事故の被害補償とエネルギー転換(除本理史(大阪市立大学教授))という小論文です。先日のメールでも申し上げましたが,福島第1原発事故に伴う放射能汚染と放射線被曝の被害者に対する損害賠償・補償が全くの出鱈目で,重大かつ巨大規模の人権侵害事件へと発展しております。以下,その告発を兼ねて,今回ご紹介申し上げる除本理史(大阪市立大学教授)氏の小論文に沿って重要部分をピックアップし,簡単にコメントしたいと思います。
既に除本理史(大阪市立大学教授)氏は,多くの新聞・雑誌に諸論を発表されている他,自筆の著作も出版されているようです。岩波書店月刊誌『科学』の小論文のみならず,そうした同氏の他の著作にも目を通されることをお勧めします。但し,これら同氏の諸論文から受ける私の印象は,原発事故の損害賠償・補償の適正化へ向けた主張がやや弱いように感じられること,また,加害者・東京電力や事故責任者・国の責任なり,その悪行なりに対して,社会的な批判の観点が弱いようにも思われ,正直,物足りなさを感じています。そうした点も下記では補いながら,簡単なコメントをいたします。
<参考>
・原発事故の被害補償とエネルギー転換(除本理史(大阪市立大学教授):『科学2013 6』)
<参考:原子力損害賠償紛争審査会(指針等):文部科学省
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/kaihatu/016/index.htm
(1)「原子力損害賠償紛争審査会」が策定した指針
除本理史(大阪市立大学教授)氏曰く
「原賠法によれば,補償すべき被害の範囲に関する指針を決めるのは,文部科学省に設置される原子力損害賠償紛争審査会(以下,紛争審)である。紛争審は2011年4月から2013年1月の聞に, 6つの指針(追補を含む)を順次策定してきた。加害者と被害者の間に争いがある場合,通常は,司法のような第三者に裁定が委ねられる。ただ,裁判では時間や費用がかかるので,それを避け,当事者間の自主的な解決を促進するため,紛争審の指針によって,最低限補償すべき被害の範囲が示される。今回の事故では,東電が指針を受けて補償基準をつくり,被害者からの請求を受け付けている。」
「ここで注意すべきは,紛争審の指針が,裁判等をせずとも補償されることの明らかな被害を列挙したものであり,補償範囲としては最低限の目安だということである。指針に書かれていないからといって,補償されないというわけではない。にもかかわらず,加害者たる東電は,これを補償の「天井」であるかのように扱ってきた。それだけでなく,指針よりも補償範囲を限定しようとする場面すらあった。これには被害者や世論の批判が大きく,国会などでも取り上げられたため東電は一部撤回を余儀なくされている。とはいえ全体としてみれば,加害者側が補償の枠組みを定め,それを被害者に押しつけてきたといえる。一言でいえば「加害者主導」である。」
(田中一郎コメント)
そもそも「原子力損害賠償紛争審査会」(紛争審)そのものが,原発事故の被害者
のために,その受けた損害の賠償・補償がスムーズにいくようにと創設されたもの
だったはずである。だからこそ,「紛争審の指針が,裁判等をせずとも補償されるこ
との明らかな被害を列挙したものであり,補償範囲としては最低限の目安だというこ
とである。指針に書かれていないからといって,補償されないというわけではない」
(除本氏)であり,指針に書かれていることぐらいは「さっさとやれよ」という性格
のものなのだが,現実にはそれがそうはなっていない=つまり,東京電力が,指針だ
けをやっておけばよくて,それ以外のことは基本的にはやらなくていい,やってくれ
と言われても適当な言い訳をして放置しておけばいいという方針で臨んでいるためだ。
この点については,次の3点に言及しておかなければならない。
<1>東京電力には国の巨額の財政資金が資本金や(一時的な)供与として投入され
ており(後日返還),実質的には国が東京電力の経営管理者である。だから,国がそ
の気になれば,東京電力の経営陣や幹部の人事も含めて,その経営内容はいかように
でもすることができる。上記のような事態が発生しているのなら,国が乗り出して東
京電力に是正させればいいだけの話である。国はいったい何をしているのか。
<2>更に,「原子力損害賠償紛争審査会」の指針は「最低限の目安」だというので
あれば,その分くらいは国が東京電力になり代わって立て替え払いをすればいいでは
ないか。国の財政資金を東京電力に「賠償・補償」を名目に注入するよりも,被害者
各位に国がきちんと立て替え払いをする方が,よほど財政資金の有用性や効果が生き
るというものだ。
<3>また,「原子力損害賠償紛争審査会」は何をしているのか。こんな程度のもの
は払えよ,という「最低限の目安」を答申してしまえば,この審査会の仕事は終わり
なのか。そもそもそんなものは答申するまでもないではないか。本来,この審査会が
すべきことは,今後の賠償・補償問題の中で,加害者・東京電力や事故責任者・国が
言いだしてきそうな「不払いの理屈」を想定し,それらを退けるための論理と目安を
明らかにすることこそ,この審査会の役目ではないのか。
ただでさえ,福島第1原発事故で全てを奪われた被害者住民の方々は,日々の生活
に経済的に苦労させられている。それを少しでも緩和し,少しでも早く万全の賠償・
補償がスムーズに行われるよう,そのための「道路」を整備することが,この審査会
の基本的使命ではないのか。言ってみれば当たり前の答申を出したら,その後は「知
らん顔」というこの「原子力損害賠償紛争審査会」の姿勢はあまりに無責任すぎるの
ではないか。
(2)不動産等の損害賠償基準を東京電力と経済産業省が談合をして決めている=そ
んなバナナ
除本理史(大阪市立大学教授)氏曰く
「たとえば昨年も,東電は経済産業省(以下,経産省)とともに,紛争審を差し置い
て,額が大きい土地・家屋など財物の被害補償に関する基準を策定・公表した。紛争
審は, 2012年3月から8月まで開催されなかったが,その間の7月に,経産省と東電
が,財物の補償基準を公表してしまったのである。経産省が補償の「考え方」を示し
(2012年7月初日),東電がそれを受けて,具体的な基準を公表するという形をとって
いる」
(田中一郎コメント)
悪質な飲酒わき見運転で子どもを含む多数の人々を死傷させた車の運転手が,事故
現場の道路を含む道路行政の欠陥を長らく指摘されてきたにもかかわらず放置してい
た交通行政担当の役所と談合をして,この交通事故の被害者への賠償金や慰謝料の金
額は,こんな程度のもんでいいんです,と公表したようなものである。しかもその金
額が,過去の交通事故時における賠償金や慰謝料と比較して,桁違いに少額である,
そういうパターンとほぼ同じことである。こんなことが許されるのか? 日本という
国は,こんなことが許される国なのか? 日本人という人種は,こういうことを見て
見ぬふりをして放置しておくのか?
私は,日本のマスごみや日弁連などの法曹界にお聞きしたい。上記のようなことを
放置しておいていいのですか? 特に不動産等の財産に係る賠償・補償は,被害者の
方々がこれから立ち直っていくために必要不可欠な,住居その他の資産的・財産的な
基礎となるものです。それがこんな出鱈目なことでいいのですか? マスごみ諸君
は,何故,真剣に,こんなのは許せないと,報道しないのですか? 法曹界の皆さま
は,何故,徹底した賠償・補償のための個別相談体制を創り,この許し難い人権侵
害・財産権侵害を法的に是正しようとしないのですか。福島第1原発事故の加害者は
強大で,被害者は弱小だからですか? それは社会正義に反しませんか? どうなん
ですか?
(3)不動産の賠償・補償は避難指示区域の再編と連動させ,その際,精神的損害な
どの補償は打ち切り
除本理史(大阪市立大学教授)氏曰く
「その際,経産省と東電は「事故収束」を前提として,精神的損害などの補償を打ち
切っていく方針も明らかにした。これは, 2012年4月以降実施されてきた避難指示区
域の再編と連動している。避難指示が解除されれば,避難による費用や精神的苦痛も
なくなるはずだから,それらに対する補償打ち切りが必然的に浮上してくる。避難指
示の解除は,早いところでは来年にも予定されている」
(田中一郎コメント)
上記の(2)には,更に,その理不尽に被害者を従わせるための「ムチ」が用意さ
れていて,一つには,避難指示区域=すなわち警戒区域・計画的避難区域・特定避難
勧奨地点の指定解除・再編と,不動産等の賠償・補償をセットとすること,もう一つ
には,これに伴って,精神的損害などの補償は打ち切りにすることである。絶句する
ようなひどい仕打ちではないか。(まるで沖縄の,島南部米軍基地用地返還と普天間
基地の辺野古崎への移転とがセットです,とそっくり同じパターンだ:アメとムチ)
申し上げるまでもない。不動産等の賠償・補償が避難指示区域の再編とセットにさ
れるいわれはないし,そんなことは道理に反している。避難指示区域を再編するかど
うかは,その区域の放射能汚染の度合いによるべきものであり(従って,現段階で再
編など出来るはずもない),賠償・補償は別物だ。その無茶苦茶で暴挙極まりない避
難指示区域再編とともに,精神的苦痛にかかる補償の打ち切りなど,許されるはずも
ない。
除本氏は「避難指示が解除されれば,避難による費用や精神的苦痛もなくなるはず
だから,それらに対する補償打ち切りが必然的に浮上してくる」などと,目を疑いた
くなるようなことを書いているが,放射能汚染のままの地域を指定解除されて,さ
あ,お前はここにさっさと帰れ,精神的苦痛はもうおしまいだ(東京電力や国に甘え
るな),(できもしない)除染は1回だけだが国がしてやるから早く帰れ,などと言
われて,なるほどそうだ,と思う人がどこにいるのか。これが分からないのなら,あ
なたにも同じようにして差し上げましょうか? ということだ。
(4)東京電力の補償すべき被害の範囲が,いまだ不確定
除本理史(大阪市立大学教授)氏曰く
「東電は,これまで約2兆円の補償を被害者に支払ってきた。ただし財物の補償がこ
れからであることからも明らかなように, 2兆円というのは全被害額の一部にすぎ
ない。では,東電の支払う補償額は全体でどれほどにのぼるのか。これについて確実
な見通しを述べることは難しい。」「東電の補償すべき被害の範囲が,いまだ不確定
だという要因もある。」
「2011年8月,紛争審はそれまでの指針を集成して「中間指針」を策定した。この指
針は,政府や自治体の避難指示等が出されていない区域について,住民の被害をほと
んど認めていなかった。(中略)政府の避難指示の目安は年間被爆量20mSvであり,
通常時の基準である1mSvとはかなり開きがある。」
「被害者らの働きかけは紛争審を動かし, 2011年12月,この間題に関する指針の追
補が決定された。これにより,政府の避難指示が出ていない福島市や郡山市など,
23市町村(すべて福島県内)の住民が,実際に避難したかどうかにかかわらず,新たに
補償の対象となった。該当者は約150万人におよび,補償額は18歳以下の子どもと妊
婦が1人あたり40万円,その他は8万円とされた。「自主避難者」からみれば,多くの
場合,金額では実際の避難費用に届かないだろう。また,とどまった人びとにとって
も十分な内容とはいえない。しかし被害者らの運動によって,補償の範聞が広がった
のは画期的なことであり,これによって約3500億円が支払われている。」
(田中一郎コメント)
<1>「東京電力の補償すべき被害の範囲」とは,福島第1原発事故によって被害者
が被った全ての被害である。それを加害者・東京電力や事故責任者・国から「お前の
損害額はこれだけだ」などと言われる筋合いのものではない。
<2>「2011年8月「中間指針」には,いわゆる自主避難者の被害をほとんど認めて
いなかった」=これもふざけるなだ。こういう点が,私が「原子力損害賠償紛争審査
会」もまた,大いに問題があると申し上げている理由の一つである。そもそも政府の
避難の「基準」たるや,20mSvという出鱈目な「未必の故意」の「殺人基準」であ
る。自主避難だろうが何だろうが,避難して当然であって,それにより多額の損害が
発生していることは自明なことである。それをこの「原子力損害賠償紛争審査会」の
御用委員たちは認めようとはしてこなかったというのである。どうぞ委員をおやめ下
さい。
<3>被害者らの働きかけで「2011年12月,この間題に関する指針の追補が決定」,
しかもその中身は「はした金」(40万円,8万円)であり,こんな金額では被害者の
被害はとてもコンペンセイトされない。人を馬鹿にしている,とはこういう時に使う
言葉である。しかも,対象となるのは福島県内の一部の市町村(23市町村)だけであ
り,他の福島県内の市町村や隣接県の市町村(たとえば宮城県丸森町)などは対象と
されていない。
この追補指針策定は,この紛争審なるものが,その御用聞き的使命を存分に発揮し
た瞬間であった。私はこの時点で,この紛争審は解散させられ,もっと被害者の側に
立って,きちんと損害額を一般的に査定していく本来のあるべき紛争審が改めて設置
されるべきであると思う。現紛争審の委員どもは恥を知れ!!!
<4>東京電力が賠償・補償しなければならない範囲は大きく分けて下記の3分野で
あり,その総額は数百兆円となるだろう。だからこそ,東京電力1企業の支払能力を
はるかに超えていて,こういう状態で東京電力をゾンビ状態で生かしておくことは,
様々な意味でよろしくない(例えば事故責任が拡散する)。直ちに会社更生法を適用
し,東京電力を解体・再編せよ。
また,下記に掲げる金額は,原発の電気コストにカウントされるべきもので,カウ
ントの仕方は,下記のような「保険金」を支払ってくれる一般の民間保険に加入した
場合の,その年間掛け金としてカウントされるべきである。そうすることで原発の本
当のコストが,市場価格ベースで(言い換えれば,政府による人為的な政策的作為な
しに)算定されることになる。おそらく,数兆円/年・1基,原発銀座などの場合に
は,数十兆円/年・1基になるものと推定される。ずいぶんと原発とは「低コスト」
の発電のようだ。
<東京電力が賠償・補償しなければならない3分野とその金額>
被害者への損害賠償・補償 数百兆円
汚染地域の除染 数百兆円
福島第1原発6基の廃炉 数十兆円
(5)原子力損害賠償法とはどういうものか
除本理史(大阪市立大学教授)氏曰く
「そもそも被害補償は,被害を引き起こした関係主体の責任において行なわれるべき
である。原賠法のもとで責任を負っている原子力事業者(福島原発事故では束電)は
もちろん,被害を防ぐための規制や対策を怠った国も,責任は免れまい。また,原発
プラントメーカーのような関連業界も,事故被害に対する「社会的責任」を問われる
だろう。」
「しかし原賠法は,補償の責任を原子力事業者に集中する規定を置いており(第4
条),国や関連業界には責任を負わせていない。ただし国については,原子力事業者
に対する「援助」の規定がある。被害額が,原子力事業者の加入する保険などで賄え
ない場合,国が必要に応じ援助を行なうのである。」
(田中一郎コメント)
原子力損害賠償法の問題点は山のようにあるが,若干を指摘すれば下記の通りであ
る。この法律は,原発の過酷事故は起きないという建前論を押し通してつくられた法
律であり,実効性に乏しい建前だけの「損害賠償法」である。それに加え,肝心の事
故原発をつくった原子力産業・企業の賠償・補償責任が免除されている。それは,こ
の法律が策定された当時は,原発を造る原子力産業が,アメリカを中心とする海外企
業だったため,その事故責任を免除するために法制化されたためである。しかし,そ
の後,原発が国産化しても,この原子力産業の賠償・補償免除規定は変わることがな
かった。変えようとしなかったのは歴代の自民党政権である。
<原子力損害賠償法の欠陥:例>
<1>賠償・補償総額の限度額が1,200億円と小さすぎる(これでも引き上げられて
きた)。こんな金額では役に立たない。また,このことは,原発のリスク・コストが
きちんと計上されていないことを意味しており,言い換えれば,原発事故の際は地域
住民がその損害を甘んじて引き受けよ,ということが言外に暗黙の了解とされている
のである(そして,今回の福島第1原発事故で,それが文字通り現実化している)。
<2>地震や津波などの天災による被害は民間保険ではなく,政府が電力会社と契約
するもう一つの損害保険でカバーされるが,その保険掛け金がべらぼうに安く,事実
上の電力会社への政府補助金になっている(この政府の原発保険会計は,今回の福島
第1原発事故において1,200億円の支出が発生し,まっかっかの赤字会計となってし
まった:しかし政府は,この保険掛け金を今もって抜本的に引き上げようとはしてい
ない)。
<3>原子力産業を賠償責任から免除している(上記)。本来はP/L法(製造物責
任法)と同じ並びで責任を問うべきもの。
<4>国の責任,とりわけ原発事故被害者への責任が全く不明確で,無責任状態でい
いような法律になっている(わずかに「異常に巨大な天災地変又は社会的動乱によつ
て生じたものであるとき」に限り,国会の議決の範囲内で国が「援助」するという規
定があるのみ)。
<5>この「無責任法」とでも言うべき原子力損害賠償法を,更に改正して,原発事
故を引き起こした電力会社の損害賠償責任を,電力会社が支払える範囲内の金額まで
引き下げる方向で法改正を行えという,とんでもない動きが表面化しつつある。言い
換えれば,原発事故が起きた時は,事故原因の電力会社や原子力産業の法的責任はご
くわずかなものに抑え込み,あとは国が無限責任で対応すればいいという内容の法律
にせよというのである。とんでもないモラルハザードの法改悪の陰謀である。こんな
ことをしたら,益々電力会社は原発の安全に対して無責任な態度をとるようになるだ
ろう。断固阻止あるのみ。
*原子力損害賠償法
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S36/S36HO147.html
(6)東京電力と国がグルになって「責任逃れ」をしている
除本理史(大阪市立大学教授)氏曰く
「ここで重大な問題は,政府が原発事故の加害者として責任を認め,それにもとづく
負担として東電を援助しているのではない,ということである。政府は,東電の責任
「遂行Jを援助するにすぎない。破綻処理を免れ「延命Jされた東電は,原発再稼働を
ねらい,電気料金の値上げまでしている。つまり,東電と政府の「責任逃れ」が表裏
一体となった仕組みなのである。」
(田中一郎コメント)
2013年4月までに,ゾンビ会社東京電力につぎ込まれた公的資金は3兆4千億円を
超える。その巨額な金額が,被害者の救済のためにではなく,被害者の救済を名目に
したゾンビ会社東京電力と国の延命・責任逃れのために使われている。許せない。
(7)東京電力と最大の債権者・金融機関がグルになって,貸出債権を無担保から有
担保に切り替えている
除本理史(大阪市立大学教授)氏の論文にはないが,これも付記しておく。既に
メール等でご案内している通り,東京電力と取引金融機関が談合し,現在,無担保の
貸出となっている債権を,貸出の期限が来る都度,有担保の私募債に切り替えてい
る。会社全体の資産を担保にする「ゼネラル・モーゲージ」という方法である。
こうすることで,金融機関は仮に東京電力が法的処理に入っても,貸出金が貸倒す
ることはほぼなくなる。これによって一般債権者は金融機関に劣後して「割りを食
う」形となるが,この一般債権者こそが,福島第1原発事故で被害を受けた被害者の
方々である(損害賠償請求債権)。つまり,金融機関は自分達の貸出債権を守るため
に,被害者の債権を無担保のまま放置・切捨てさせ,それは国の税金で面倒を見ろ
よ,という態度で東京電力に対して臨んでいるということである。これも反社会的な
出鱈目行為である。
(8)最後に(水俣問題と比較して)
除本理史(大阪市立大学教授)氏曰く「水俣病事件と福島第1原発事故との類似点」
<1>被害者の分断
<2>加害者が補償範囲を決め,決着を図ろうとしたものの,被害者の抵抗にあい失
敗していること
<3>加害者が被害補償の責任を果たしているようにみえても,費用負担の実態はそ
うなっておらず,実際には責任が唆味になっていること
(田中一郎コメント)
水俣病の被害者の方々が完全救済されていない今日の日本に,企業の環境破壊(汚
染)犯罪(公害とも言う)がなくなる日が来なかったように,福島第1原発事故の被
害者への完全救済が実現しなければ,日本には本当の意味での脱原発=脱被曝の日は
訪れないだろう。福島県民をはじめ福島第1原発事故の被害の賠償・補償の問題は,
まさに我々自身の問題なのである。
そして,その賠償・補償問題の核心的なことの一つの期限が,今,目前に迫ってい
る。民間債権消滅時効3年の問題だ。国会及び日本の法曹界は,福島第1原発事故に
伴う賠償・補償請求債権の消滅時効の不適用(2014年3月で時効),ないしは大幅延
長の特例法制定に向け全力を挙げていただきたい。このままでは,数百万人と思われ
る被害者の方々は救われないまま闇に葬り去られてしまうことになる。それは絶対に
あってはならないことだ。
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