青山森人の東チモールだより 第244号(2013年7月29日)
- 2013年 8月 10日
- 評論・紹介・意見
- チモール青山森人
<資源開発の直接参加、試合の流れを一気に変えられるか>
チモール海開発にかんする三大話題
前号・前々号の「東チモールだより」で東チモールとオーストラリアによる「グレーターサンライズ」田をめぐる“攻防”について述べましたが、チモール海には他にも油田・ガス田が多数存在し、東チモールと多国籍企業の攻防は他にもあります。もしかしたら公表されない攻防あるいは好ましい進展もあるのかもしれません。最近、チモール海の天然資源開発をめぐり大きく報道される話題として次の三点がありあす。
1.東チモールがCMATS(チモール海における海洋諸協定にかんする条約)の見直し・無効を求める調停裁判手続きに入ったこと(前号・前々号の「東チモールだより」を参照)。
2.東チモールが開発会社に税金の正しい支払いを要求
3.東チモールが開発に直接参加
「2」と「3」にかんし若干、解説したいと思います。
東チモールが開発会社に税金の正しい支払いを要求
昨年、総選挙が終了した7月、チモール海のJPDA(共同石油開発地域)で資源開発をする日本やアメリカなどの諸会社は東チモールに税金を正しく支払っていないことを東チモール政府は発表し、税金としての未払い金額は数十億ドルに達するであろうと発表しました(「東チモールだより 第221号」を参照)。東チモール政府は、これらの会社を相手取り税の正しい支払いを求め裁判を起こしました。
その会社の一つであるアメリカのコノコ=フィリップス社を、シャナナ=グズマン首相はビケケ地方での住民との対話集会の場で、東チモールに経験がないことをいいことに東チモールの資源を盗み東チモールをくじこうとしている、と強く批判しました。
一方でシャナナ首相はビケケの住民に、東チモール人は自分たちの資源を管理する術をすでに身につけているが、石油がいかに東チモールを支えるのかを技術的によく心得なければならないとも訴えました(『インデペンデンテ』紙、2013年5月15日)。
ところでこの集会でシャナナ首相はオーストラリアのジュリア=ギラード首相(当時)に、2002年の東チモールと2013年の東チモールは違う、わたしたち(東チモールとオーストラリア)は話し合うべきだ、と書いた手紙を送ったことを打ち明けました。なお、その手紙が、4月23日に東チモール政府がオーストラリア政府へCMATSにたいする調停裁判手続きに入ったことを伝える書簡そのものを意味するのかどうか、新聞記事からははっきりわかりません。
東チモールが開発に直接参加
今年4月13日、東チモールの国営開発会社である「チモールギャップ」社(TIMOR GAP PSC 11-106 Unipessoal)と日本の「国際石油開発帝石」社グループのINPEX Offshore Timor-LesteとイタリアのEni社グループのEni JPDA 11-106 B.Vの3社は、JPDA内の一画における天然資源の「生産分配契約」(Production Sharing Contract=PSC)に調印しました。
チモール海のJPDAを管理する東チモール側の国家機関であるANP(国家石油局)代表・「チモールギャップ」社代表・INPEX代表(日本人)・Eni社代表の4人の手が重なり握り合う写真が『インデペンデンテ』(2013年4月17日)の第一面に大きく載りました。
この契約によって、これまで税金や採掘権からの収入に頼っていた東チモールは自ら開発に加わり収益を得ることができるようになったのです。これは東チモールにとって画期的な出来事といえます。
契約対象となった一画とはJPDA11-106鉱区と名づけられている区域で、「キタン」(Kitan)田に隣接し、約662㎢の広さを有し、東チモールの首都南部からおよそ260km、オーストラリア・ダーウィンからおよそ500km離れたところに位置します。
図
JPDA11-106鉱区の位置を示す。JPDAの鉱区は細分化され、それぞれ例えばJPDA03-12とかJPDA06-105などという区名が付けられ定義づけられている。
契約によれば、最初の2年間で二つの井戸を掘ることが義務付けられ、3年目の終わりに3社による合同採掘を終了することになっています。
分配率は、ENIが40.53%、INPEXが35.47%、そして「チモールギャップ」社が24%となります。アルフレド=ピレス天然資源大臣は、開発への直接参加は”game changer”(試合の流れを一気に変える出来事)だとし、またこの24%の「24」という数字をインドネシア軍占領下での解放運動の24年間の「24」と重ね合わせ、極めて象徴的な数字だと捉え、この分配率に満足の意向を表明しました。アジオ=ペレイラ官房長は、この新しい投機は石油とガスの採掘と開発へ直接参加する誇り高い瞬間であり、今後とも東チモールの国民のため最大限の参加と最大限の利益を求めていくと語りました。シャナナ首相がオーストラリアの首相への手紙の中に、東チモール人は自分たちの資源を管理する術をすでに身につけているという内容を書けたのは、東チモールが開発の直接参加するこの契約を交わしたことからくる自信があったればこそでしょう。
東チモール政府は足元を見ることを怠るな
しかしながら、チモール海の天然資源開発に気をとられるあまり、閣僚や政府高官の度重なる汚職の疑惑や杜撰な財政管理を改善できないならば、第二期シャナナ連立政権はなにをかいわんや、です。シャナナ首相は、自分たちの資源を管理する術をすでに身につけているとオーストラリアの首相に言うことはできても、自国民には嗤われるかもしれません。
例えば、医療態勢の不備が厳しい批判をうけています。医療機関は深刻な薬不足に陥り、オイクシ地方では発電機が動かないために手術ができない、他の地方では救急車のガソリン代を患者家族が負担しなければならない、などなどです。
このような状況のなか今年5月14日の国会で、セルジオ=ロボ保健相は薬不足を追及され、さらに大臣の立場を利用して自分の薬局を薬供給事業に係らせているのではないかという疑惑について説明を求められました。これにたいしロボ保健相はその会社とは関係を絶っているので疑惑はあたらないと反論し、適切な処置をするから患者は自分のところに処方箋も持ってきてほしいと弁明しました(『インデペンデンテ』2013年5月15日)。
国の医療機関に薬がないとなると患者は自分で薬を買わなければなりません。貧しい一般庶民にとってこれはたいへんな負担となります。一方でANPの役人とその関係者のために私立医療機関による高額な医療費が予算として計上されるという社会格差が生じているのです。
チモール海の天然資源はもちろん重要ですが、東チモール政府は貧しい庶民の生活向上を図る努力を怠るならば、第二期シャナナ連立政権は思わぬところで足元をすくわれることでしょう。
~次号へ続く~
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.ne/
〔opinion1407:130810〕
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