福島原発事故の収束に重い責任 -2020年東京オリンピックは決まったが-
- 2013年 9月 9日
- 時代をみる
- 伊藤力司放射能汚染水東京オリンピック
2020年の夏季オリンピックとパラリンピックの東京開催が決まり、日本中は湧き立っているようにメディアは伝えている。しかし東日本大地震の被災地、とりわけ東京電力原発事故の被災地福島の人々の心境は複雑だろう。確かに震災復興に「スポーツの力を生かそう」という呼びかけには一定の意義はあろう。今年の甲子園で東北勢の高校野球選手が大活躍したことが、被災地を勇気づけた。しかしオリンピックが開かれる7年後までに原発事故が本当に収束し、自分たちの町や村に住めなくなった被災者が故郷に帰れるだろうか。
安倍首相はロシア・サンクトペテルブルグで開かれたG20サミットを途中退場してまでブエノスアイレスに駆けつけ、フクシマの放射能汚染水の海中への垂れ流しを「日本政府が責任を持ってくい止める」と約束した。これが五輪会場の決定権を持つIOC(国際オリンピック委員会)委員たちを説得する決め手になったようだ。この汚染水問題はIOC開催の間際になってから国際的な大関心事になり、東京招致委員会を危機に追い込んだ。そこで「東京は福島から250キロも離れているから安全だ」という竹田恒和・招致委員会理事長の無神経発言が飛び出し、福島県民などから「東京が安全ならいいのか」と反発された。
「被災地復興を活性化させるためのオリンピック開催」をうたいながら、福島から遠く離れている東京は大丈夫というセリフは、思わず本音が出たものと受けとられた。「復興五輪」は、ためにするお飾りのスローガンであることがばれてしまい「被災地切り捨て五輪」と言われても仕方がない。この窮地を救ったのが、投票間際のIOC委員たちに訴えた宮城・気仙沼出身のパラリンピック選手佐藤真海(まみ)さん(31)のプレゼンテイションンだったようだ。佐藤さんは実家が大津波に襲われ、家族と5日間も連絡がつかないという被災体験を交えながら「私がここにいるのはスポーツに救われたからです」と語った。
早大のチアリーダーだった2001年、佐藤さんは右足に骨肉腫を発症して翌年膝下を切断した。未来を見失いかけた時、障害者スポーツに出会った。本格的に練習を始めて1年後にアテネ・パラリンピック代表に選ばれ、日本女子の義足選手として初めて世界の舞台に立った。それから3回連続日本代表として、パラリンピックの走り幅跳び競技に出場した佐藤さんは「私はスポーツのおかげで生き甲斐を取り戻した。同じ境遇の子供たちに希望を与えたい」と、自らの体験を生き生きと訴えた。こうした現役アスリートの発言は、IOC委員や日本の関係者の心に真っすぐ届いたに違いない。
さて安倍首相は、肝腎の汚染水問題で次のように高言した。「汚染水による影響は福島第一原発の港湾内の0・3平方キロメートルの範囲内で完全にブロックされている。近海でモニタリングしているが、数値は最大でもWHO(世界保健機構)の飲料水ガイドラインの500分の1だ。日本の食品や水の安全基準は世界で最も厳しい。健康問題については、今までも現在も将来も全く問題ないと約束する」「さらに完全に問題のないものにするため抜本解決に向けたプログラムを決定し、着手している。日本の首相として、子供たちの安全と未来に責任を持っている。日本に来るアスリートにも責任をもっている。その責任を完全に果たす」と。
これは日本政府としての国際公約である。安倍首相はブエノスアイレスでの記者会見で、東京オリンピック開催の決定に大喜びする姿を見せたが、この公約を厳守する責任がある。汚染水漏れについては、これまでの東京電力の対応が無能、無責任だったことを政府がようやく認め、470億円の政府予算予備費を投じて原子炉建屋周辺に深い氷の壁を設けて、水漏れを防ぐ工事に着手すると報じられている。これが「抜本解決に向けたプログラム」だろうが、遅くとも7年後までには汚染水漏れを完全にストップさせていなければならない。さらに安倍首相は「子供たちの安全と未来に責任を持つ」と公約した。原発事故による放射能汚染から子供たちを守ることを約束したこの約束も重い。
一方で「五輪招致が安倍政権の命運に直結」という指摘もある。zakzakというブログサイト(9月5日)によると、自民党政調幹部の言として「アベノミクスはここまで何とか来たが、4、5月に発表した成長戦略は不評だった。秋の『第4の矢』も規制緩和や税制が中心で、あまり手がない。『今後、株価が下がり始めるのでは』という不安もある。そうしたなかでマーケットが注目しているのが五輪招致。安倍首相にとっても『株価をけん引する起爆剤は東京五輪しかない』くらいの思いだ」という。
招致委員会が昨年6月に発表した試算によると、2020東京オリンピック開催の経済効果は、一般飲食店業や宿泊、広告などのサービス業で6,510億円、建設が4,745億円、商業が2,779億円など、合計で約2兆9,600億円となっている。うち東京都で約1兆6,700億円、その他の地域で約1兆2,900億円となっている。東京都以外にも効果はあるということだが、直接潤うのは建設関連と観光、宿泊、飲食などの業界だけだろう。問題は建設業界に一定の五輪ブームが起き、その結果建設資材や人件費が値上がりすることだ。ただでさえ東北の被災地では建設費の高騰や人手不足が復興の妨げになっているというのに。あるサイトに「東北(オリンピック)なら全面支持だが」というタイトルを見かけたが、思いは同じである。
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