人道主義とは何か?
- 2010年 10月 15日
- 時代をみる
- コソヴォ、セルビア問題人道主義岩田昌征
ポリティカ紙(セルビアの代表的新聞)の10月8日号に、あるノルウェー人の映画・テレビ監督による「ノルウェー王国政府への公開状」が載っていた。筆者は名前からみてセルビア系らしい。内容の要約は以下の如し。何月何日と明記していないが最近のことらしい。
警察力を使って早朝3時、コソヴォ・セルビア人の老若男女・子どもたちがベッドからたたき起され、荷物をまとめるのに2時間だけ余裕を与えられ、集合させられて、その後セルビア共和国へ強制送還された。ノルウェー政府のスポークスマンは、テレビに登場して「大変に人道的」とこの措置を評した。彼らの家は、1999年のNATO軍の―ノルウェー軍も参加した―空爆の時、あるいは空爆の終了後に焼かれ、破壊され、略奪された。財産を奪われた彼らは、6世紀以来住んでいた地域から追い払われた。
ノルウェー王国は2008年3月28日にセルビアからのコソヴォの独立を承認した。そのノルウェーがコソヴォ・セルビア人をコソヴォ共和国―そこでは、今日でもセルビア人の生命が危険にさらされている―ではなく、セルビア共和国へ送り還した。彼らの受け入れは、セルビア政府にとっては、当然のことである。なぜならば、セルビアはコソヴォの独立を認めておらず、コソヴォ・セルビア人もセルビア共和国の国民であるから、である。しかし、ノルウェー政府にとっては論理矛盾である。コソヴォを独立国家と承認しているのであるから、本国送還ならば、コソヴォ共和国へのはずである。第三国へ送り出すのならば、国連憲章第32条に従って、難民たちの意思を尊重すべきである。
更にもう一つの問題がある。ノルウェーにはボスニア人の難民もコソヴォ・アルバニア人の難民もいる。彼らはすでにノルウェーの援助もあって、自分たちの国家を持っている。戦争その他の危険ももはやない。それなのに、コソヴォ・アルバニア人もボスニア人も本国へ強制送還されない―それは良いことだが―コソヴォ・セルビア人だけがこんな目に合わなければならないのはノルウェー政府のあまりにご都合主義ではないか。
わが日本でも時々起る悲劇ですが、どちらが乱暴かを論じても益なしでしょう。
10月15日 記
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔eye1070 :101015〕
「ちきゅう座」に掲載された記事を転載される場合は、「ちきゅう座」からの転載であること、および著者名を必ず明記して下さい。