世界は後戻りできない現実の破局に入り始めた 1. 体毛がちりちりするような緊張感がする
- 2010年 10月 16日
- 時代をみる
- 海の大人破局通貨の失権
私は、マルクス経済学をかじった人間であるから、1971年のニクソンショックによる金ドル兌換の停止以降も、「経済体制というお約束ごと」で、金が貨幣でなくなったことと、商品経済が歴史的に選択してきた「金が貨幣である」ことの間に、問題の位相差はあっても、矛盾はないと考えてきた。そうしたものとして、私を信頼する人間には口を酸っぱくして教育してきたし、あらゆる変動相場制の下での信用と取引の基礎は、為替と金価格のリンクにあると教えてきた。
もう10年ほども前になるだろうが、その頃の金相場は、1トロイオンス700ドル台であった。世界信用の膨張の程度と比べるならば、いかにもみみっちくて、人々の気分は金は商品であって貨幣ではないと言う思いであっただろう。それからじりじりと値を上げ、ドル為替の下落とシーソーの関係にあるため、日本市場では今年5月の1グラム3700円超えがピークで現在でも3600円程度をうろうろしているという情況で、人々の関心を集めているという展開にはなっていない。
しかし、金相場を通じて世界を見ていると、以前から世界が、世界信用が、世界の金融循環が、1オンス900ドルに達した頃から、1オンス10000ドルにならないと世界の過剰信用の整理が出来ないのではないか、と思われるようになったし、発展途上国の「ブラックボックスからの資金調達による」離陸と、先進国の「アンダーグラウンド経済の巨大化が表経済を支えるシステム」の完備を見ていると、「過剰資本によるポスト近代=現代の腐朽化」が人類の尊厳の破滅を急速に加速する実感が強くなってきた。
そして、ちきゅう座でも以前書いたが、今年1オンス1200ドルを超え、今月への月替わりのころ1300ドルを超え、1400ドルをうかがう勢いなのだ。日本では、円高が話題の焦点だが、世界で生じているのは「ドル・ユーロを先頭とした通貨の失権」なのだ。このごろの為替相場、金相場の振れ幅の大きさは常軌を逸している。円高はその時に、金価格は世界的に高騰を続けているにも関わらず、5月の1グラム3700円より低い3500円台をうろうろしているのである。日本人のみが「通貨の失権」に鈍感なのだ。
10月14日の日経新聞は1面で、「若年層収入 女性が上回る」、「製造業不振 介護など伸びる」、「09年、産業構造変化映す」という見出しが躍っている。これは、産業構造の変化をもたらすだけでは絶対にあり得ない。社会構造の大きな変化につながるものだろう。しかし、これの基盤、世界の信用と資金循環の中で、日本社会の変化がどのように可能性の問題としてありうるのかについては、日経は語らない。
まず、「カネを稼がなければならない世界の中で、尖閣は問題なの」という疑問の出てくる、経済社会の基盤が具体的に揺らぎ始めているのだ。15日〈日本時間16日未明〉、ブルームバーグニュースは私の見方では2つの大きなニュースを伝えた。一つは、「バーナンキFRB議長 :低インフレ率が『さらなる行動』の論拠に」という故春日一幸ばりの「理屈は後から汽車でやってくる」というアメリカ連銀議長としては異例の決意表明であるし、もう一つは「米金融 差し押さえ不正の損失100億ドルにーMBSと二重苦の懸念も」という住宅金融会社が差し押さえに関連する書類を不適切に処理した疑いでその裁判沙汰の費用だけで100億ドル以上が見込まれるという記事だ。金額よりも不良債権処理の時間の見当がつかなくなった、というところに意味があるのであって、オバマ大統領のリーマンショック処理の展望がほぼなくなったということだろう。
他方、元切り上げ圧力にこの2日ほどさらされている中国も、尖閣問題に見られるように、「党内矛盾を対外矛盾に転嫁する」以外の余裕を全く失っている。民族資本家を党内に取り込む党規約の改正をして以来、「階級闘争を内包する共産党」となった中共党は、マルクス主義の伝統に従って、チベット族と回族とモンゴル族の民族問題を先送りし、沿海部と内陸部の経済格差を処理できず、党内の毛沢東主義者と太子党と江沢民派と胡錦涛派と民主化派の暗闘を続けながら、人民解放軍軍団と結びついての軍閥顕在化の一歩手前の状況だ。習近平氏が中央軍事委員会副主席に為っても情況は何も変わらない。
ユーロの事は触れる必要もないだろうが、だから、円高なのだ。これで、緊張しない方がおかしい。少なくとも、1972年以来の不完全な変動相場制は大きな手直しをしないと持たない、その兆しがここ数日、感じられてならないのだ。G7時代ならシェルパの活躍もあり得ただろうが、今それにどれだけ期待できるのか。悪感のような緊張感だけは取り急ぎ伝えておきたい。(続く)
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
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