2014年春から消費税引き上げ -安倍政権の増税路線を批判する-
- 2013年 10月 4日
- 時代をみる
- 安原和雄消費税
安倍政権は2014年春から消費税率を現行の5%から8%へ引き上げることを決めた。消費税率はやがて10%へと引き上げられる含みである。安倍政権のこの増税路線を新聞メディアはどう論じたか。大手紙社説では消費税上げを批判したのは東京新聞一紙にとどまる。これでは批判精神からかけ離れた大手紙というほかない。
健全な批判精神を失えば、その行き着く先は国家権力との癒着であり、メディアが国家権力のお先棒を担ぐことにもなりかねない。これではメディアとしての堕落そのものともいえよう。安倍政権とその増税路線に対する正当な批判はいよいよ正念場を迎えている。(2013年10月4日掲載)
政府は10月1日の閣議で2014年4月、消費税率を現行の5%から8%へ引き上げることを決めた。15年10月に予定されている消費税率10%への引き上げについては首相は「経済状況を勘案して判断時期を含めて適切に決断する」と述べた。
大手新聞社説(10月2日付)は安倍政権の消費税引き上げ決定をどう論じたか。まず各紙の社説の見出しを紹介する。
*朝日新聞=17年ぶり消費増税 目的を見失ってはならぬ
*毎日新聞=消費税8%へ 増税の原点を忘れるな
*讀賣新聞=消費税率8%へ 景気と財政へ首相の重い決断 来春から必需品に軽減税率を
*日本経済新聞=消費増税を財政改革の出発点に
*東京新聞=増税の大義が見えない 消費税引き上げを決定
以上5紙のうち消費税引き上げに批判的視点を打ち出しているのは東京新聞のみである。そこで他の4紙の主張は以下、簡潔に紹介し、東京新聞社説の紹介に重点を置く。
(1)朝日新聞=金額にして8兆円余り、わが国の税制改革史上、例のない大型増税である。家計への負担は大きい。それでも、消費増税はやむをえないと考える。借金漬けの財政を少しでも改善し、社会保障を持続可能なものにすることは、待ったなしの課題だからだ。
(2)毎日新聞=私たちは、増大する社会保障費と危機的な財政を踏まえ、消費増税は避けて通れない道だと主張してきた。現在の経済状況を考慮しても先送りする事情は見当たらない。増税によって、社会保障の持続可能性は高まり、財政を健全化していく第一歩となる。
(3)讀賣新聞=景気回復と財政再建をどう両立させるか。日本再生を掲げる安倍政権の真価が問われよう。デフレからの脱却を最優先し、来春の増税を先送りすべきであるが、首相が自らの責任で重い決断をした以上、これを受け止めるしかあるまい。
(4)日本経済新聞=安倍首相が予定通り消費税増税を決断した。5兆円規模の経済対策で景気を下支えしながら、5%の消費税を8%まで引き上げる。17年ぶりの消費税増税を実行し、財政再建の一歩を踏み出すことを評価したい。アベノミクスの効果もあって日本経済は着実に回復している。
(5)東京新聞=社説の大要を以下に紹介する。
安倍晋三首相が来年四月から消費税の8%への引き上げを決めた。終始、国民不在のまま進んだ大増税は、本来の目的も変質し、暮らしにのしかかる。
*何のための大増税か
一体、何のための大増税か。疑問がわく決着である。重い負担を強いるのに、血税は社会保障や財政再建といった本来の目的に充てられる保証はない。公共事業などのばらまきを可能とする付則が消費増税法に加えられたためだ。肝心の社会保障改革は不安が先に立つ内容となり、増税のための巨額の経済対策に至っては財政再建に矛盾する。増税の意義がまったく見えないのである。
*弱者を追い込む「悪魔の税制」
消費税は1%で二・七兆円の税収があり、3%引き上げると国民負担は八兆円を超える。財務省にとっては景気に左右されず安定的に税収が確保できるので好都合だ。だが、すべての人に同等にのしかかるため、所得の低い人ほど負担が重くなる逆進性がある。
さらに法人税は赤字企業には課せられないが、消費税はすべての商取引にかかり、もうかっていなくても必ず発生する。立場の弱い中小零細事業者は消費税を転嫁できずに自ら背負わざるを得ない場合がある。このままでは格差を広げ、弱者を追い込む「悪魔の税制」になってしまう。
*大企業優先の安倍政権
消費税を増税する一方、法人税は減税を進めようというのは大企業を優先する安倍政権の姿勢を物語っている。消費税増税で景気腰折れとならないよう打ち出す経済対策も同じである。五兆円規模のうち、企業向けの設備投資や賃上げを促す減税、さらに年末までに決める復興特別法人税の前倒し廃止を合わせると一・九兆円に上る。公共事業などの景気浮揚策も二兆円である。
国民から吸い上げた消費税を原資に、財界や建設業界といった自民党支持基盤に還流されたり、減税に充てられる構図である。過去に経済対策と銘打って公共事業をばらまき、借金を積み上げた「古い自民」の歴史を忘れてもらっては困る。このままでは社会保障の充実も財政再建もかなわないまま、消費税率だけが上がっていくことになりかねない。
*安心できる社会保障を
安倍首相は「持続可能な社会保障制度を次の世代にしっかりと引き渡すため、熟慮の末に消費税引き上げを決断した。財源確保は待ったなしだ」と理由を述べた。
そうであるならば、やるべきことは、安心できる社会保障制度の将来像を具体的に描き、その実現のために無駄な財政支出を徹底的に削減し、公平な負担を確立する。それなしに国民の理解は得られるとはとても思えない。
<安原のコメント> 東京新聞の消費税上げ反対は正論
東京新聞社説のうち注目すべき主張は以下の諸点である。
*消費税は所得の低い人ほど負担が重くなる逆進性
*格差を広げ、弱者を追い込む「悪魔の税制」
*消費税を原資に、財界や建設業界など自民党支持基盤に還流されたり、減税に充てられる構図
*公共事業をばらまき、借金を積み上げた「古い自民」の復活
以上のような視点は東京新聞以外の社説ではお目にかかれない。安倍政権の政策に批判の目を注いでいるからこそ、見えてくる疑問点といえる。他紙にこういう視点がほとんど見受けられないのは、安倍政権を批判するどころか、むしろ癒着の気風があるからではないのか。
現政権との馴れ合いになっては世に言う「痘痕(あばた)も靨(えくぼ)」である。こういう喩(たと)えは、最近ではほとんど使われなくなっているらしい。参考までに辞書を引いてみると、「恋する者の目には相手のあばたでもえくぼのように見える」、言い換えれば「ひいき目で見れば、どんな欠点でも長所に見えるということのたとえ」である。
これではメディア、新聞としての基本的必要条件であるべき「権力に対する批判精神」の欠如であり、メディアの堕落というほかない。堕落から正常な道へ立ち戻るのは容易ではないことを歴史は教えている。
初出:安原和雄のブログ「仏教経済塾」(13年10月4日掲載)より許可を得て転載
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〔eye2401:1301004〕
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