特定秘密保護法案は「戦争のできる日本」への第一歩 -集団的自衛権で日米軍事同盟の実行目指す安倍内閣-
- 2013年 10月 25日
- 時代をみる
- 伊藤力司安倍秘密保護法
7月の参議院選挙で国会のねじれを解消した安倍晋三首相は、オバマ米大統領の要求に応えて「戦争のできる日本」を実現するための第一歩として、特定秘密保護法案と国家安全保障会議(日本版NSC)設置法案の2法案を、今度の臨時国会で採択させようと、強引な国会運営を策動している。これは67年間にわたって日本に定着してきた平和憲法を掘り崩そうとする恐ろしい陰謀である。
安倍首相は、集団的自衛権の発動は憲法9条に反しないと考える、いわゆる“有識者”を集めた私的懇談会「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇、座長柳井俊二元駐米大使)を再スタートさせ、同様な見解を持つ小松一郎前駐仏大使を内閣法制局長官に任命するという人事を発動した。これは国民の過半数が反対する9条改憲をスキップし、集団的自衛権は違憲ではないとする強引な憲法解釈によって、自衛隊を米軍の補完戦力として「地球の裏側」まで派遣することを辞さないという姿勢を示すものだ。
秘密保護法案は1980年代に、時の中曽根政権が意図した「スパイ防止法案」が当時の広範な反対運動によって廃案になって以来、ほぼ30年ぶりに装いを変えて再登場した危険極まりない代物である。これは日米軍事同盟を実行させようと躍起になっているアメリカからの強い圧力を受けて、今度こそ「決められる政治」をやって見せようとする安倍政権が、オバマ政権に忠誠を示して見せるテストケースである。
この法案は①防衛②外交③外国の利益を目的とする特定有害活動の防止④テロ活動防止-の4分野で、防衛相や外相、警察庁長官などの行政機関の長が「漏えいがわが国の安全保障に著しい支障を与える恐れがある」と判断した情報を「特定秘密」と指定する。秘密指定の4分野の中味はどうなっているか、別表では次のように記載されている。
例えば防衛分野では「自衛隊の運用」、外交分野では「安全保障に関する外国政府との交渉内容」など、極めて抽象的だ。しかも各分野に「その他重要な情報」と付け加えられている。これでは特定秘密が際限なく広げられる余地がある。これこそ官僚たちが、自分たちの権限を野放図に広げるために、法案にこっそりちりばめている文言だ。具体的にどんな情報が秘密なのか、一般国民には知らされない。
このように指定された秘密を漏らした公務員への罰則を一挙に強化し、最高で懲役10年を科すと同法案は書き込んでいる。これまた異例なやり口であり、それだけ安倍政権が焦って、この法案を是が非でも早急に通したいとする願望を問わず語りに示していよう。
「リベラル21」の読者のみなさま方は「アーミテージ報告」という言葉を記憶されておられるだろう。アーミテージ報告とは2000年10月に第1次レポート、2007年2月に第2次レポート、2012年8月に第3次レポートと3回にわたり、自衛隊に米軍との共同行動を要求してきた。
リチャード・アーミテージという人物は1945年生まれ、米海軍兵学校を卒業して米海軍少尉として1960年代後半にベトナム戦争に従軍。1980年代にレーガン共和党政権にアジア太平洋担当国防次官補代理として加わったことから「知日派」として頭角を現した。一方クリントン民主党政権(2001~2009年)のアジア太平洋担当国務次官補として、やはり「知日派」として睨みを利かせたジョセフ・ナイ・ハーバード大学教授は、アメリカの対日政策の基本方針でアーミテージ氏と意気投合した。
共和党大統領がホワイトハウスの主人公の時はアーミテージ氏が、民主党大統領の時はナイ教授が、自衛隊に米軍との共同作戦を要求する役割を果たしてきた。日本独自の保守政治家を自負する安倍首相は、太平洋戦争(第2次世界大戦)の意味合いでオバマ大統領らのアメリカ式歴史観と異なる歴史観を持っている。
つまり安倍首相の祖父岸信介らが描いた「大東亜共栄圏」の構想は間違っていなかった、むしろ西欧列強が東亜を支配しようとする帝国主義に抵抗する正義の戦いだったとする「大東亜共栄圏史観」である。しかし昭和16年12月から昭和20年8月まで東南アジアに侵攻した日本帝国陸海軍の行状は、西欧帝国主義の行状より酷いものだった。そのことを東南アジアの人々は忘れていない。
ところが安倍首相はそれに目をつぶり、よく意味の分からない「積極的平和主義」の名の下に、中国と対抗してアジアに再進出を図ろうとしている。中国の勃興に不安を感じるオバマ政権だが、米国はイラク、アフガン戦争で膨大な軍事費を浪費した結果である深刻な財政危機をしのがねばならない。そこで日本の自衛隊を米軍の補完部隊として活用できれば、米国の軍事費を切り詰めることができる。安倍首相は独自の思惑も含めて、精一杯米国の要求に応じようとしている。
オバマ大統領とは「そり」の合わない安倍首相だが「右翼の軍国主義者と呼ばれても構わない」と自嘲しながらも、できるだけオバマ大統領の意向に従おうとしている。オバマ氏の意向というより、中国に対抗してアジア太平洋の覇権を出来る限り持ちこたえさせようとするアメリカ帝国の野望に従うことだろう。戦後日本の歴代政権は一貫して、ワシントンの意向に従うことを最優先する官僚集団に支えられてきた。その官僚集団も、官僚集団に指示を与えるアーミテージ=ナイ・コンビも、「日本は二度と戦争はしない」決意を込めた憲法9条を無視することはできなかった。
そこへ登場したのが、憲法9条を改定し「日本を戦争できる国」にするという大方針を秘めた安倍内閣だ。2012年8月に発表された第3次アーミテージ=ナイ報告は、当時の野田民主党政権が「集団的自衛権の行使は認められない」とする内閣法制局の憲法解釈に縛られているのは、時代にそぐわないと厳しく批判していた。
安倍首相は、こうした歴代内閣法制局長官の憲法解釈を変えて集団的自衛権の行使を認める考えの小松一郎氏を内閣法制局長官に任命した。小松氏は外交官出身で内閣法制局に勤務したことはなく、安倍首相はこれまで歴代の内閣法制局長官は副長官が昇格するという慣行を破るという人事権を敢えて発動した。
こうした背景を振り返って見ても、安倍首相が並々ならぬ決意で秘密保護法案を準備してきたことが分かる。アメリカから秘密保護ができなければ米軍と自衛隊との共同作戦はできないと、厳しく申し渡されたことであろう。
秘密保護法案が「言論・報道の自由」「国民の知る権利」を侵害する恐れがあるとして、日本新聞協会、日本弁護士連合会、日本ペンクラブなどが相次いで反対声明を発表した。自民党と連立を組んでいる公明党が、こうした声に押されて自民党に申し入れて「知る権利」や「報道の自由」を侵害しない旨の文言が、法案に盛り込まれることになったと報じられている。
しかし秘密保護法が国会で採択されれば、すべては「後の祭り」である。十数年前「国歌・国旗法」が採択された時、同法を推進した当時の内閣官房長官は「君が代を歌いたくない人の内心の自由は侵さない」と確約した。しかし東京、大阪の教育委員会は君が代を歌わない教員を公然と罰していることは公然の事実である。
このままでは、この秘密保護法案が今の臨時国会に上程されて採択されかねない。この法案の危険性に気付いた多くの有識者が反対しているにもかかわらず、今の国会は自公連立与党が過半数を超えている現状だからだ。
今夏の参院選で初当選した山本太郎議員が秘密保護法案の危険性を訴える全国行脚で強調したのは、全国の有権者が地元選出国会議員の事務所に電話なり、ファクスなり、メールなりで「秘密保護法案に反対票を投じて欲しい。賛成したら次の選挙の時に支持できない」と伝えること、それは今からでも遅くはない-とのメッセージだった。筆者も地元の国会議員の事務所にメールしたが「リベラル21」読者のみなさまにもよろしくお願いする。
初出:「リベラル21」より許可を得て転載http://lib21.blog96.fc2.com/
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔eye2429:1301025〕
「ちきゅう座」に掲載された記事を転載される場合は、「ちきゅう座」からの転載であること、および著者名を必ず明記して下さい。