学芸員の眺める景色——山梨県立美術館の取材
- 2013年 12月 7日
- 評論・紹介・意見
- 山梨県立美術館木村洋平
学芸員の眺める景色——山梨県立美術館の取材 木村洋平
先日、山梨県立美術館で働く「しまりん」さんにお話を伺って来ました。彼女は学芸員です。学芸員とはどういう仕事なのか。現場としての美術館はどんなものか。近頃はやりの「キュレーター」とは――。
しまりんさんは、20代後半の女性。東京での大学生活、国立新美術館での仕事を経て、いまは山梨県立美術館(http://www.art-museum.pref.yamanashi.jp/index.html)/で働いています。
<自己紹介
――今年から山梨ですよね。
しまりん 「今年の4月から働き始めました。国立新美術館でアルバイトを2年して、その後1年と8ヶ月、研究補佐員(学芸員の補助)をしていました。」
――どんな仕事をしていたんですか。
「アルバイトの時は、図書室の裏方です。カタログが何万冊もあって。全国のカタログ(企画展の図録)を集めて、それを海外に送る仕事です。」
国立新美術館は、日本美術のカタログをアメリカやヨーロッパの大学、美術館の図書室へ送るセンターの役割をしている。だいたい週1でアルバイトをしながら、修士課程に在籍していたとのこと。その後は、研究補佐員として図録作成や展示・撤収などの展覧会企画の補助的な仕事に携わる。
――修士は、2年で論文を書くだけでも大変ですよね。なにを研究していたんですか。
「18世紀のシノワズリーです。修論の題名は、「フランソワ・ブーシェのタピスリー ―18世紀フランスのシノワズリー―」だったと思います。書いていて面白かったです。もっと続けたかったな、っていまでも思います。」
シノワズリーというのは、17,18世紀にあったヨーロッパの東洋趣味。主に王侯貴族など裕福な人々が室内装飾にする目的で、中国や日本の美術品を買い求めていました。「シノワズリー」は フランス語で「中国風
chinoiserie」のことですが、しまりんさんによると「東洋のかなり広い範囲の美術品を『シノワズリー』としていて、中国、韓国、日本、インドとか、場合によっては中東もごっちゃになっている感じがする。」そうです。
<美術館の役割
――しまりんさんがお仕事のなかで考えていることは。
「展覧会や美術館の存在ってなにか、ってことなんですけど……それが、いま不況で、ものすごく関係者でも言われていて。うちの美術館(山梨県立美術館は1978年の設立。)ができたのも、全国的に美術館がぼんぼん建てられた時期です。」
――それで、これからどうするのか、ということですね。
「たとえば、一般の人にとって、展覧会は非日常空間かもしれません。最近よく言われるのは「癒しの場」ということなんですけど……。公的な文書にも「癒しの場」という言葉が出てくるんですね。2,3年前だと思います。」
――90年代から「癒し」ブームはありましたが、美術館にも来たんですね。
「ただわたしはですね、それにはけっこうもの申したい派でして、べつにいいんですけど……。」
――いいんですけど、全然、よくないのでしょう?
「まず入館していただくことが大事なので、きっかけはそれでもいいのですけれど。癒されようとしたのに、入ってみたらちがった、ということになると困りますね。」
――そういう場面が具体的にあったんですか。
「このあいだ、「美術館は癒しの場だと思っています。」と言われて。癒しの場という役割を担っていかなければならないとしたら、重い荷物を背負っている気持ちになったわけなんですよ。」
――山梨県立美術館のホームページは拝見しましたが、過去の展覧会のタイトルに「癒し」はありませんよね。
「そうですね。癒しだけでなくて、公共の場に出す強いメッセージ性のあるもの。そういう展覧会をやっていきたいです。」
<キュレーターについて
――キュレーターという言葉は少し馴染みが出てきたとは思うけれど、説明してもらってもいいですか。
「美術の世界では、展覧会を作る人です。」
――もう少し語ってもらえますか。
「学芸員の仕事のなかでは、キュレーションは半分とか、1/3とか、そのくらいなんです。」
日本では、博物館、美術館で働く人を「学芸員」として国家資格にしており、英語の名刺だと「キュレーター」と訳されることもある。けれども、学芸員は欧米の「キュレーター」とは異なる点もある。そこを詳しく話してもらいました。
「ほかの(キュレーション=展覧会を作る、以外の)仕事は、作品の収集、保存、修復、研究などですが、たいていの学芸員はこれらの仕事すべてにかかわっています。また、大きな役割なんですけど、エデュケーターという仕事もあります。」
このように、「学芸員の仕事=キュレーション+その他、たくさん」ということ。
「私、いま実はエデュケーターをやっているので、仕事の分量的にはエデュケーターが2/3くらいで、あとはキュレーターという感じです。(「エデュケーター」は、)日本では「教育普及」と訳されます。仕事の内容としては、来館した子供たちに絵の解説をする、ワークショップ(幼児~大人まで)を開く、日本画や油絵の体験講座をやる、などですね。」
――ホームページを見たら、子供向けのイベントがたくさんありました。
「私もかかわっています。」
<夢、これからの展望
――エデュケーターは専門家と市民の「橋渡し」なのですね。どんな風にしていきたいですか。
「いま、山梨にいるからなんですけど、大学進学などで東京に出てしまう人が多いんです。高校生くらいの、とくに若い人たち、美術に興味ある人が、気軽に仲間を作ったり、語り合える場所が作れないかな、と思います。受験でいなくなっちゃうのもさみしいので。……っていうのがエデュケーターとしての自分の夢、というかやってみたいことです。」
それから、キュレーターとしての夢についても語ってくれました。
「あとは、キュレーターとしての夢もあります。私はずっと東京で生まれ育って、この年で山梨に来ました。山梨には、東京にはない良いものがたくさんありますが、情報をキャッチして新しいものを受け入れるという面は少し苦手かもしれない。たとえば、若い人が発信しようと思っても場が少ない。」
――発信というのは、なにを。
「サブカルチャーをふくめたアート。そういう人たちのことも美術館で支えたいです。新しい試みが歓迎される環境が作られるように、なるべく新しい価値観を提示できるような展示をやりたいです。」
初出:ブログ【珈琲ブレイク】http://idea-writer.blogspot.jp/2013/09/blog-post_27.html より許可を得て転載。
記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔opinion4678:131207〕
「ちきゅう座」に掲載された記事を転載される場合は、「ちきゅう座」からの転載であること、および著者名を必ず明記して下さい。