謹賀新年、というより原発再稼働・軍国日本の始まりか?
- 2014年 1月 1日
- 時代をみる
- 加藤哲郎
2014.1.1 新年ですが、今年も松飾りはつけません。2011年3.11を経て、3回目の正月です。改めて東日本大震災・福島第一原発事故の被害を、確認しておきましょう。震災・津波による死者・行方不明者は1万8526人、建築物の全壊・半壊は合わせて39万9251戸が公式記録です。震災発生直後のピーク時、避難者は40万人以上、停電世帯は800万戸以上、断水世帯は180万戸以上、復興庁によると、2013年11月14日時点の避難者等の数は27万7609人です。住宅等(公営住宅、仮設住宅、民間賃貸住宅、病院含む)が26万3383人、その他(親族・知人宅等)が1万4211人、避難所(公民館、学校等)が15人で、自県外への避難は福島県が圧倒的で、4万9554人といいます。。高齢者を中心に避難所の不衛生や寒さによる死者は、2011年3月末までに280人を超え、2013年3月末時点で震災関連死と認定されたのは2688人、特に福島県が多くなっています。この間の福島県の人口減少は約7万8千人、今なお約8万人が「原発難民」として故郷に帰れずにいます。無論。福島原発事故そのものが終わっていません。汚染水処理も、廃炉計画も、これからです。核廃棄物処理の見通しはまったくたたないまま、「原子力ムラ」による再稼働への準備が進んでいます。
年末に、2014年の日本政治の予告編がありました。安倍首相による靖国神社参拝、沖縄県仲井間知事による普天間基地辺野古移転容認決定、です。靖国参拝は、たんなる戦没者慰霊ではありません。東条英機ほかA級戦犯が合祀され、「天皇陛下のために」死んだ兵士のみが祀られています。無論、広島・長崎の被爆者や空襲の民間人犠牲者は入っていません。政教分離の原則からいっても、侵略戦争をめぐる歴史認識からしても、首相の参拝は政治の問題です。中国・韓国ばかりでなく、アメリからも「失望した」と批判され、EUもロシアも国連も、東アジアの緊張を高める国際政治の暴挙・愚挙とみなしています。でも、特定秘密保護法から日本版NSC、新防衛大綱、そして沖縄への米軍基地集中固定化と、安倍晋三首相の「戦争ができる国」への暴走は止まりません。このまま集団的自衛権、憲法改正へと突っ走るのを、何とかとめなければなりません。抵抗の情報戦の舞台を枠づける特定秘密保護法は、すでに公布され、2014年12月までに施行されます。全文は、ウェブでも読めますが、この間この問題で本サイト「学術論文データベ ース」に連続投稿いただいた神戸の弁護士深草徹さんから、法の成立を機に改めて問題を整理し、新年更新用に「特定秘密保護法廃止のために―問題点をえぐる5本のメス」を寄稿していただきました。熟読してください。この土俵の上で、脱原発と軍事化の攻防、1月名護市長選、2月東京都知事選、4月消費税アップになります。
元号が平成になって、もう25年をすぎました。でも、ちょうど改元=冷戦崩壊の頃に研究していた問題が、なにやら新聞やウェブ上で蘇っています。一つは「過労死」、かつて日本的経営のゆがみの産み出す終身雇用正社員の会社への過剰献身・長時間労働との関わりで語られたものが、今日では、日本的経営の崩壊、非正規雇用増大と「みなし残業」「ブラック企業」と結びついて、再フォーカスされているようです。もう一つは、「粛清」です。「綱紀粛正」の「粛正」ではなく、旧ソ連のスターリン時代に典型的な政治的「粛清」です。こちらは日本政治の文脈ではなく、北朝鮮の金正恩独裁政権による叔父でナンバー・ツーの張成沢の突然の処刑で、世界的に使われました。ただし、冷戦崩壊後に、旧ソ連のスターリン時代に在住した約100人の日本人を追いかけて、野坂参三を除く約40人の粛清犠牲者の軌跡と冤罪を明らかにしてきた私としては、「粛清と名誉回復」という視角は、中国共産党の歴史や最近の薄熙来裁判、松本清張『日本の黒い霧』改訂でようやく「名誉回復」となった日本共産党元幹部伊藤律の幽閉、共産主義を離れても続くロシア・プーチン政権の政敵粛清、等々に応用可能です。伊藤律粛清の秘密については、ようやく『ゾルゲ事件』という本を書き上げ今春出します(平凡社)。その予告編として、9月上海での国際シンポジウム報告「国際情報戦としてのゾルゲ事件」(『ゾルゲ事件外国語文献翻訳集』38号、2013年12月刊)をアップしました。昨年末に出した『日本の社会主義ーー原爆反対・原発推進の論理』(岩波現代全書、アマゾンは表紙をクリック)と共に、ぜひお読みください。原発については、昨年春に公刊した本の私の担当分「日本における『原子力の平和利用』の出発」(加藤哲郎・井川充雄編『原子力と冷戦ーー日本とアジアの原発導入』花伝社,2013)も新年特別アップ。1月は16日(木)午後、如水会館新三木会で山本武利さんとジョイントで「ソ連の対日情報戦」の講演、26日(日)午後は明治大学リバティータワー1153室で大島幹雄さんと「ロシアのサーカス芸人」粛清の講演。今年も本サイトは、原発再稼働や安倍内閣の軍国主義化・格差拡大政策に抗して、月2回の時評を送っていきます。本年もよろしくお願いします。
2013年は、春に「社会民主主義の国際連帯と生命力ーー1944年ストックホルムの 記録から」(田中浩編『リベラル・デモクラシーとソーシャル・デモクラシー 』未来社)と加藤哲郎・井川充雄編『原子力と冷戦ーー日本とアジアの原発導入』(花伝社)に「日本における『原子力の平和利用』の出発」を発表しました。秋の加藤・鳥山・森・国場編『戦後初期沖縄解放運動資料集』のDVD版刊行を期に、森宣雄・鳥山淳編『「島ぐるみ闘争」はどう準備されたのかーー沖縄が目指す<あま世>への道』(不二出版)が単行本として刊行され、私も「金澤幸雄さんと金澤資料について」を寄稿し、12月23日(月)には沖縄・那覇市で出版記念シンポジウムが開かれました。『図書新聞』11月2日号に書いた村田忠禧『日中領土問題の起源』の書評を今回アップ。チャルマーズ・ジョンソンの新訳『ゾルゲ事件とは何か』(岩波現代文庫)に寄せた「解説」、及び『歴史学研究』12月号掲載中の震災特設部会「大会報告批判」、それに9月上海での国際シンポジウム報告「国際情報戦としてのゾルゲ事件」(『ゾルゲ事件外国語文献翻訳集』38号、2013年12月刊)が活字になりました。年末には、この間の原爆・原発研究を踏まえて、岩波現代全書『日本の社会主義ーー原爆反対・原発推進の論理』が発売になりました。私の脱原発宣言本で、いろいろご意見もあろうかと思いますが、お正月にでも、ご笑覧ください
2013年3月から5月まで、早稲田大学演劇博物館で『佐野碩と世界演劇―日本・ロシア・メキシコ “芸術は民衆のものだ”―』展が開かれました。そのオープニングの国際シンポジウムで「1930年代の世界と佐野碩」を講演しました。一昨年桑野塾講演「亡命者佐野碩ーー震災後の東京からベルリン、モスクワへ」の増補改訂版です。プロレタリア演劇に関心のある方、佐野碩の作詞した労働歌「インターナショナル」をお聞きになりたい方は、どうぞpdfファイルのyou tube でお楽しみを。学術論文データベ ースには、神戸の深草徹さんの連続寄稿、「世界に通用しない特定秘密保護法(改訂版) 」、「集団的自衛権を考えるーー北岡伸一批判」(2013.11),「アメリカと比べてこんなにひどい特定秘密保護法」(2013.12) ,「特定秘密保護法廃止のために―問題点をえぐる5本のメス」(2014.1)などが入っています。昨年は、私が米国国立公文書館(NARA)で集めてきた日本戦犯資料を使って、心あるジャーナリストの皆さんが、意味ある現代史の再発掘・再検討を進めてくれました。ゾルゲ事件での伊藤律「革命を売る男」説の誤りをただす松本清張の『日本の黒い霧』の改訂については、その後も多くの報道がありますが、『東京新聞』5月28日に決定版解説記事が大きく出ました。沖縄での米軍対敵諜報部隊CICについては、『朝日新聞』西部版5月5日の「人権無視、いつの世まで」という記事で使っていただいたようです。ゾルゲ事件関係のファイルが増えてきたので、「情報学研究室」カリキュラムに、情報学研究<専門課程2ーー世界史のなかのゾルゲ事件> をつくりました。日本経済評論社の加藤哲郎・丹野清人編「21世紀への挑戦 7 民主主義・平和・地球政治」序論「情報戦の時代とソフト・パワーの政治」を詳述した講演記録「アメリカニズムと情報戦」(『葦牙』第36号)は、本サイト運営の方法論を示すものです。早稲田大学大学院政治学研究科2014年度開講大学院講義・ゼミ関係は、早稲田大学ホームページからアクセス願います。
初出:加藤哲郎の「ネチズン・カレッジ』より許可を得て転載 http://www.ff.iij4u.or.jp/~katote/Home.shtml
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔eye2503:140101〕
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