日中「戦争」と原発
- 2014年 2月 5日
- 評論・紹介・意見
- 岩田昌征
安倍首相が欧州上流社会の貴顕紳士淑女の前で現在の日中関係を第一次欧州大戦直前における英独関係に擬して、戦争勃発の可能性に言及したという。欧州大戦開戦百周年の今年、欧州でかかる発言をあえてしたのには、大型宰相たらんとして、何か含みがあったのか、それとも宰相小器化の流れか。
それはさておき、日本国首相が隣国大国との戦争の可能性を口に出してしまったのであるから、さぞや準備万端整えるべく努力していると思いきや、どうもその正反対のことをやっている。食糧安全保障最優先の農業政策に転じるようでもない。むしろ、戦争の可能性が100%無いかの如き政策が目立つ。原子力発電所再稼働へ向ける努力のレベルアップである。
ここで昔読んだ中国側識者二人の発言を紹介しよう。
──日本と中国との間で軍事衝突が起こったらどうなるだろうか。……しかも中国に比べて日本は、国土面積があまりに小さく、戦略の深い掘り下げもなく、五十五の原子力発電所が島に点在している。……、衝突の際は激しいミサイル戦が重要な役割を発揮する。いったん戦争が起これば、中日両国とも重い傷を負うことは疑いの余地がない。日本は「玉砕」という結果を受け入れるだろうか。──(馬立誠『贖罪を越えて 新しい日中関係に向けて』文春文庫、2006年、pp. 91-92)[下線は岩田]
──日本は近代的な戦争に耐えられる状態ではなく、軍国主義を復活させて軍事大国に向かう傾向も存在しない。その要因は以下のとおりだ。第一に、日本はわずか三七万平方キロメートルの島国であり、……などが東京などの大都市に集中しており……。第二に、日本には五十五の原子力発電所があり、いったん原子力発電所が攻撃を受ければ、日本にとっては壊滅的な打撃となる。第三に……。第四に……。(同上、pp. 164-165)
前者は、人民日報高級評論委員・馬立誠の診断である。後者は、国防大学教授・朱成虎のそれである。
中国人に「戦略の深い掘り下げもなく」と看破されてしまった原子力発電と国防との関連について、日本国大型首相たるには、二つの選択肢があると思われる。
第一に、国防上の最大脅威である国内五十四基の原発の廃絶に頑強に抵抗する電力業界・原子力国内国家の特殊利益を国防愛国主義の国益の大所高所から説き伏せること。第二に、フランスが安心して原発大国であり続けることが出来るのは、EUの底にある独仏不戦同盟の故である事に学んで、日中不戦同盟の成立に向けて邁進すること。
安倍氏よ、宰相小器化の流れに乗るまいぞ!
平成26年2月4日
記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.ne/
〔opinion4738:140205〕
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