本のカフェ第二回(札幌、りたる珈琲にて)のご報告
- 2014年 2月 20日
- カルチャー
- 木村 洋平
2014年1月26日(日)札幌の円山、りたる珈琲にて。第二回の本のカフェが開催されました。ご報告いたします。
13時ー16時の枠でしたが、12時半から受付を開始しました。ワルツ・フォー・デビィをたしか掛けていたと思います。(12時ー16時でレンタルルームを予約したため、集まり方がスムーズだったように思います。)
13時10分からご案内トークを始めて、その後、自己紹介。途中参加おひとりを含めて、8人の方が集まってくれました。(司会の僕を含めて9人。)前半は三人の方に本の紹介をいただきました。
はじめは、宮澤賢治の絵本『やまなし』。「山梨県のやまなしだと思っていた。」という出だし。ちがいますよね。山の梨が落ちて来て終わる、不思議なお話。「クラムボンはかぷかぷわらったよ。」クラムボン、なにものだかまったくわからないのですが、そんなリフレインが有名ですね。紹介者の方いわく、「賢治には森の話は多いが、川の話は少ないのでは。」そうかも。「きらきらしている。」そうですね、そこから紹介者の方は「いろんな速度」というテーマへ。
川の流れ、蟹の速さ、回遊する魚の速度、すごい速さで襲うカワセミ、泡の速さ、そして、水のなかへ落ちてくるやまなし。
こうしたいろんな流れ、速度が共存し、入れ替わって物語のリズムを構成している。すばらしい読みだと思います。このあと、2冊目として、ゼロと無限の話題を扱う、数学のご本も紹介いただきました。
14時ちょうどに二人目の方が「アラン・ロブ・グリエ」のご紹介を始めました。フランスの作家です。「去年、マリエンバートで」という映画に惹かれた、その脚本家が彼だった、という話から。「カットが正面から。左右対称。台詞は反復。」とくに反復というテーマは、小説にも共通する。「ポール・デルヴォーのような、ひとがマネキンで動かない映像美。」感想の比喩まで、美しい。
ロブ・グリエには「起承転結がない。小説もそう。」イメージのみが転々として、5ページおきに同じ台詞が出るというように、脈絡がない。また、「感情を排して出来事を描写する」手法はヌーヴォー・ロマン(新しい小説)の先駆けとなる。全編が夢のよう。
あらすじを楽しむ小説ではないが、反復される場面、イメージを味わえる……。
気づけば、50分も経っていました。三人目の紹介者さんは、アントニオ・タブッキの『インド夜想曲』。イタリアの作家だが、マイナー。ウンベルト・エーコやイタロ・カルヴィーノらのポストモダンが活躍していた時代に現れた。紹介者が「25歳のとき、初めて読んだ。100ページちょっとの薄い小説で、1時間もあれば読める。」だが、その後、くり返し読むことになったという。
タブッキは日本では無名だったが、日本の小説をイタリア語に訳して紹介していた須賀敦子さんが注目し、97年に『インド夜想曲』を日本語に翻訳。一方で、タブッキは須賀敦子さん訳の谷崎潤一郎を読み、感銘を受けていたという。
さて、この小説はインドで失踪した友人を主人公が探す物語。ボンベイ、マドラス、ゴアの3都市を回る。しかし、自然描写がほとんどない。見知らぬ都市の被造物ばかりが描かれる。その詩的な表現に触れていると、見知らぬ都市を旅するとは、インドの無意識のなかに入り込んでゆくことのようにも思われる。
最後に、友人をレストランで見つける主人公。だが、声は掛けない。なぜ見つからなかったのかと言えば、友人は主人公の名前を名乗って、偽名で旅をしていたから、だという。主人公がやっと見つけ出したのは、自分自身だったのか?
こんな感想で幕を閉じる……「自分が昔、住んだ場所で、周りのひとたちに『彼(自分の名前)はどこに行きましたか』と尋ねてもいいんじゃないか。」
15時20分から、残りの40分をフリータイムに当てました。後半1時間半とると告知していたフリータイムは大幅に縮小されたのでした……。(ちょっとてきとうなマネージメントでした。ごめんなさい。)
書誌情報
『やまなし』、宮澤賢治(文)、遠山繁年(絵)、偕成社、1987
『異端の数 ゼロ』、チャールズ・サイフェ、林大訳、早川文庫、2009
『快楽の館』、アラン・ロブ・グリエ、若林真訳、河出文庫、2009
『迷路のなかで』、アラン・ロブ・グリエ、平岡篤頼訳、講談社文芸文庫、1998
『覗くひと』、アラン・ロブ・グリエ、望月芳郎訳、講談社文芸文庫、1999
『インド夜想曲』、アントニオ・タブッキ、須賀敦子訳、白水uブックス、1993
『ペソア詩集』、フェルナンド・ペソア、澤田直訳、思潮社、2008
『ユリイカ』2012年6月号、アントニオ・タブッキ特集、青土社
なお、アンケートを実施したので、そこから意見を抜粋。(全8枚。)
「場所がわかりづらかった」という意見が2つ。りたる珈琲の案内が不十分だったかな……
「3時間より長い方がよい」という意見が1つ。今回は紹介も長引きましたしね。
自由記述では、「本だけでなく音楽、映画、絵画などさまざまなジャンルへの脱線(前向きな意味での)がとても楽しかったです。」「また参加したいです」も3件。ありがとうございます。
全体に穏やかながらも、活発に声が飛び交う場面が何度も見られ、自然な盛り上がりがよかったと思います。オブザーバー(紹介者でない方)からの質問や感想も、貴重なものでした。静かで密度の高い時間だったと思います。ちなみに、終了後は都合のつく7人で場所を移して、2時間ほど語り合うこともできたのでした。
みなさま、本当にありがとうございました。また次回、お会いしましょう。
初出:ブログ【珈琲ブレイク】http://idea-writer.blogspot.jp/2014/01/blog-post_27.html より許可を得て転載。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔culture0017:140220〕
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