ケンカは高くつく 漁夫の利はあの男に?
- 2014年 2月 21日
- 時代をみる
- ロシア中国北方領土田畑光永
暴論珍説メモ(129)
安倍首相は国会審議の合間を縫って、2月7日のソチ五輪の開会式に出席し、翌8日にはロシアのプーチン大統領との「個人的な信頼関係をさらに強固なものにするために」、就任以来5回目となる首脳会談を行った。
この会談でプーチン大統領は「ソチ五輪への配慮」に謝意を表するとともに、今年秋に訪日する意向を明らかにし、「2国間でもっとも難しい問題を解決するための良い環境が出来上がっている」と強調したという。
ついに長年の懸案、北方領土問題を解決する大チャンスが巡って来た、と言えるだろう。ただ残念なのは、そのチャンスは日本のためのものではなく、ロシアのため、あるいはプーチン大統領のためのチャンスであることだ。
今やもっとも近い隣邦である中国、韓国の首脳と話もできなくなってしまった安倍首相は、それを埋め合わせるようにこの1年余の間に約30か国を歴訪した。しかし、遠い中東やアフリカに顔を売るのもいいけれど、お隣さんとの関係はやはり大事だ。自らの靖国神社参拝で対立のダメ押しをしてしまった上に、米からも不信の目で見られている現状に、安倍首相が焦っていないはずはない。それがソチへと安倍首相の背中を押したのであろう。
しかし、同じときにソチにはケンカ相手、中国の習近平主席もいた。こちらは昨年以来、なんと6回目になる首脳会談を安倍首相より2日早く6日に行っていた。
この席では、「来年、中ロで第2次大戦勝利70周年式典を共同開催することが確認された」と、中国側は報じ、さらにプーチン大統領の「ナチスの欧州侵略と日本軍が中国などで犯した罪は忘れてはならない」という発言も引用された。もっともこれらはロシア側の報道では伏せられていたが。
じつはこの会談ではもっと驚くことが明らかにされた。値段が折り合わなくて8年も宙に浮いていたロシアの天然ガスを中国へ輸出する問題を、5月のプーチン訪中までに解決への道筋をつけることで合意したというのである。
米がシェールガスを生産するようになって、ロシアのガスの販路が狭くなり、ロシアは中国や日本へどうしても売りたいのだが、中国は安い自国産の石炭価格を引き合いに出して、一向に話がまとまらないとされてきた問題である。一緒に日本と戦って勝ったという式典にプーチンを引き出して、国際的反日統一戦線を結成するために習近平は大きな譲歩をしたのである。
プーチン大統領にとってこんな有利な状況はない。労せずして、来年夏の第2次大戦勝利70周年記念日までに、日本が領土や経済協力で、彼の望む形で話に乗って来なければ、中国、韓国と一緒に、大々的に日本軍国主義の罪を糾弾し、その復活をもくろむ安倍晋三を攻撃するという図もあるのだぞ、と日本に分からせたのだから。
そう言えば、安倍―プーチン会談の当日、6日の『毎日』に奇妙な特ダネが載った。中国がロシアに北方領土のロシア領有を承認する代わりに、ロシアも尖閣諸島を中国領と認めるよう水面下で打診したというのである。時期は中国漁船が日本の巡視艇に体当たりして日中間の緊張が高まった2010年秋。その時、ロシア側は「北方領土は日ロ間で協議する問題だから」と断ったという。ニュース源は「日ロ外交筋」とあったが、これも小さなゆさぶりであろう。
お気づきだろうか、それかあらぬか、安倍首相の口からこのところ「4島返還」とか「北方領土」という言葉が出なくなったことに。昨年2月の施政方針演説では「北方領土問題を解決して」とあったのが、今年の演説ではたんに「平和条約締結に向けた交渉」となり、ソチでの記者会見、帰国後の国会答弁では「4島の帰属問題の解決」という客観的な言葉づかいになった。「返還」は勿論、「北方領土」も「日本のもの」が前提にある表現だが、なぜかそれを使うのを避けるようになった。
安倍首相はすでにプーチン大統領に急所を握られてしまったのでは、という心配は杞憂だろうか。げに喧嘩は高くつくもの。
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