3年目の3・11 を前に、脱原発の力の再結集を!
- 2014年 3月 1日
- 時代をみる
- ナショナリズム加藤哲郎原発
2014.3.1 戦争の時代が近づいている。そんな実感を持っているのは、いまでは日本の総人口の5分の1になった戦前生まれの世代だけでしょうか。元号は好きではありませんが、かつて「大正生れの歌 」を追いかけた時に先達に教えられた、第二次世界大戦の最前線で戦争を体験し犠牲者も多かった「大正世代」は、「明治世代」とあわせても5%以下になったようです。そこに、A級戦犯の血をひく右翼の首相と、軍事オタクの政権与党幹事長です。その首相が画策して抜擢された公共メディアNHK会長や首相側近たちも加わって、「靖国神社参拝はたんなる戦没者慰霊」「従軍慰安婦はどこの国でもあった」「アベノミクスは強力な軍隊をもって中国に対峙するため」と、一昔前なら自民党政権内でも公言できなかった異様な歴史認識・ナショナリズムの噴出です。さらには「戦後教育はマインドコントロールだった」という、首相の国会での公式答弁、世界から「極右」とみられるのも当然です。戦後生まれの私たち団塊の世代でも、「マインドコントロール」されているのはどっちだ、と問わざるをえません。戦争や原子力をゲーム感覚でもてあそぶ、危険きわまりない内閣です。そこに、図書館の『アンネの日記』を破り捨てる、卑劣な人種主義的犯罪の横行。米国国務省の「人権報告書」で日本のヘイトスピーチが「民族差別」と名指されたばかりで、国際的孤立が、いっそう閉鎖的・排外主義的ナショナリズムを強めるのではないかとおそれます。それが国政では、特定秘密保護法に続いて、沖縄普天間基地の辺野古移転強行、武器輸出3原則の見直し、集団的自衛権の閣議決定による解釈変更、立憲主義放棄と憲法改正への道を、ひた走ろうとしています。
東京都知事選での脱原発勢力不統一のツケが、原発再稼働を明記し、核燃サイクル推進まで入った政府のエネルギー基本計画案として、発表されました。3・11三周年になる3月中に閣議決定される勢いです。熊本市の内科医小野俊一院長が、つぶやいていました。「原発再稼働は、いったい何のためか、誰の指示か」と。東京都知事選挙で自公政権の原発再稼働方針が認められたとして、いや「原発ゼロ」の主張は否定されたものとして、3年たっても廃炉どころか「収束」にはほど遠い東京電力福島原発事故を、汚染水・廃棄物処理を含め福島県内に局地化し、大地震も津波も経験しなかったが如く、「原子力ムラ」のエネルギー支配に、戻そうとしています。都知事選挙の街頭演説で、安倍首相に最も近い極右の候補者が「原発事故では死者は出ていない」「毎月100ミリシーベルト、年間1200ミリシーベルトくらいの放射線は、人体の健康に利することはあっても、これによってガンになることなどは全くない」「日本の原発技術は世界一」と強弁していたのが、思い起こされます。
その裏で、プルトニウム保有の問題が、深刻になっています。すでに原爆5000個分以上といわれる日本のプルトニウムは、「原発は平和利用のため」と語られるさいの象徴で、同時に、日本の原子力開発が潜在的核兵器保有であることの象徴です。そもそも核燃サイクルで再利用されることを前提にして例外的に認められていたのですから。そのうち原爆50発分にあたる茨城県東海村の高速炉臨界実験装置(FCA)で使う核燃料用プルトニウム約300キロを、2018年の日米原子力協定期限切れを待たずに、米国オバマ政権が、返還を要求してきました。安倍極右政権への、米国側の警戒の表れでしょう。現在の日本は、核の国際管理を基軸とした第二次世界大戦以後の世界秩序の、攪乱者と して見られているのです。靖国問題、TPP交渉と並ぶ、極右戦争準備内閣のジレンマです。 そんな中で、3・1ビキニデー、ちょうど60年前の1954年3月、ビキニ環礁の米国水爆実験で、第5福竜丸など日本のマグロ漁船が「死の灰」で被曝した日です。ただし発覚したのは3月16日、14日に焼津港に帰港した後でした。それが、3月2日に国会に中曽根康弘等の原子力予算が提案され採択された直後だったために生まれた、その後の日本の「原爆反対、原発推進」世論の悲劇については、私の「日本における『原子力の平和利用』の出発」(加藤哲郎・井川充雄編『原子力と冷戦ーー日本とアジアの原発導入』花伝社)、岩波現代全書『日本の社会主義』をご参照ください。核戦争を恐れ反対するが故に「平和利用」を願った反核勢力の分裂が、「原子力ムラ」の「安全神話」に対抗できなかった歴史に、今こそ学ぶべきです。
明日3月2日午後、池袋で予定されていた私の『日本の社会主義』講演会は、主催者側の事情で、中止になりました。原発問題で出席を予定されていた方は、同じく池袋の武藤類子さん講演会「つながる市民の輪、変えるくらしとエネルギー」(1時45分、豊島区勤労福祉会館)にご参加ください。同日、岐阜県瑞浪市では、伊藤律生誕100周年記念シンポジウムが開かれます。もうすぐ3/11三周年、3月8−15日はNo Nukes Week で、8日の福島県民大集会(郡山市、福島市、いわき市)、9日・15日の日比谷野音など全国各地で多種多様な脱原発集会・デモが行われます。再稼働反対の力の再生、脱原発勢力の再結集の場にしたいものです。入学・卒業・同窓会の季節でしょうか、2月16日の朝日新聞読書欄で紹介された私の岩波現代全書『日本の社会主義』もある種の歴史的回顧を含みますが、3月1日、「新左翼を問う」講演会、3月16日、川上徹『戦後左翼たちの誕生と衰亡』(同時代社)合評シンポジウムが開かれます。ご関心の向きはどうぞ。安田常雄他編『講座 東アジアの知識人 第4巻 戦争と向き合って』が公刊され(有志舎)、私も「国崎定洞ーー亡命知識人の悲劇」を寄稿しています。単著の平凡社新書 『ゾルゲ事件ーー覆された神話』が3月14日発売と決まり、宣伝用チラシが作られました。乞うご期待!
初出:加藤哲郎の「ネチズン・カレッジ』より許可を得て転載 http://www.ff.iij4u.or.jp/~katote/Home.shtml
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔eye2559:140301〕
「ちきゅう座」に掲載された記事を転載される場合は、「ちきゅう座」からの転載であること、および著者名を必ず明記して下さい。