「尖閣は安保の対象」について/安保による『日本防衛』とは
- 2010年 11月 1日
- 交流の広場
- Air Sea Battle安保安東次郎
クリントン長官の「尖閣は安保の対象である」という発言(28日)があり、日本の親米(従米)派は「これで米軍が尖閣に出動することがあきらかになった。ネット上での一部の反米派の言論(尖閣に米軍が出動するとは限らない)には根拠がない」とさかんに発言している。
たしかに、クリントンの発言は中国を牽制するものであるが、実際に尖閣に米軍を出動させるのか否かについては、依然として「曖昧」。そしてこの「曖昧さ」はまさに戦略的な「曖昧さ」である。
この点を見落として、「クリントンがああ言うのだから、米国は日本の安全保障のために米軍を出動させるのでしょう」と理解するのは、「お人好し」であり、外交・安全保障の世界で「お人好し」というのは、「馬鹿」の同義語にほかならない。
こうした解釈は、なにも私一人のものではない。
ここでは、太田述正氏(元防衛審議官)の10月31日の発言を引用させていただく。<(例えば、尖閣諸島は日米安保の対象ってのは法律的議論に過ぎないこと・・・)>(http://blog.ohtan.net/)
「米軍による日本防衛」とは?
ところで、「米国が日本を防衛する」という人たちは、『防衛』ということで、具体的にはどんなことを想定しているのか。日中の緊張が高まったら、米国の陸・海・空軍が日本に増援されるのだろうか。
しかし、今年CSBAが公表したAir Sea Battle A Point-of-Departure Operational Concept(以下Air Sea Battle という)にしたがえば、状況は全然違うようである。http://www.csbaonline.org/4Publications/PubLibrary/R.20100518.Air_Sea_Battle__A_/R.20100518.Air_Sea_Battle__A_.pdf
このレポートについては、「東京の郊外より」というサイトが詳しく解説しているので、そこの記事“CSBA中国対処構想” http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-05-18 ~同(6)を参考に、アメリカによるAir Sea Battle を覗いてみる。“ “は Air Sea Battle からの引用。
このレポートから中米軍事衝突を想定するなら、イザとなったとき米軍は、沖縄はおろか「西日本」の基地からも主要な部隊-佐世保・岩国・嘉手納などの部隊―を撤収すると考えた方がよいだろう。これらの基地は―今日の中国の軍事力の水準を考慮すれば―中国に近すぎる。
“air bases on Okinawa (Kadena AFB) and Iwakuni, and the naval base at Sasebo, are all within easystriking range of Chinese missiles and strike aircraft, as are many JSDF bases in western Japan.”
なお「東日本」については、 次の記述が。
“US air and missile defense reinforcements would flow into eastern Japanese bases to reinforce JASDF defenses against PLA air attacks coming from across the East China Sea, and possibly the Sea of Japan. “
しかし、
“Key targets would include forward air bases including those at Andersen, Kadena and Misawa “
との記述もあり、「東日本」についてもstriking rangeに入る点に変わりはない。(AFB[米空軍基地]JSDF [自衛隊]PLA [人民解放軍]。)
なお、中国沿岸から1,500nm(海里)以内はarea-denial(領域拒否=防衛線内にある敵に自在な行動を許さないこと)の脅威下に入ると認識されており、対中戦の場合、米軍の主力はこの外部―これは日本のはるか東方・南方領域である―からの攻撃を想定するようになるだろう。したがって空母などが日本近海に留まることはない。
“Particularly high-value units such as carriers would remain or move beyond the PLA’s A2/AD [=anti-access/ area-denial]threat range and operate in accordance with appropriate operational deception precepts to avoid attack. “
(この点についてはCSBAの他のレポートの図なども参照願いたい。
こうしたレポートから想定されることは、日本が「戦場」となるということであって、『米軍が日本を守る』ということ―そのことばで普通の日本人が想像していること―とは全く違う事態だ。
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