民衆は変わった。軍は政治から離れるべきだー退役少将の分析
- 2014年 3月 26日
- 評論・紹介・意見
- エジプト坂井定雄
「革命3年後のエジプト」④
エジプト情勢の分析・報道をしているジャーナリストの中で、国際的にみても最も信頼できるのは、朝日新聞の川上泰徳さんだと思う。現在も同紙の中東アフリカ総局長として書き続けるとともに、朝日中東マガジンというネット配信の中東専門誌を主宰している。同誌(2014.2.27)は「軍出身の政治アナリストが指摘するエジプトの民衆の新たな動き」と題したアーデル・スライマン退役少将(70)との、注目すべき長文のインタビュー記事を掲載した。それを紹介したい。
スライマン氏は、軍を支持している巨大な軍ファミリーの一員だ。このインタビューでも、軍トップのシーシ元帥を「軍の司令官としては極めて優秀だ」と評価し、「大統領選挙に立候補すれば、国民の一部だけが参加する選挙で、9割以上の票を取り大統領になるだろう」と予想する。その一方で同氏は、「国民の多くを占める貧しい民衆は、自分たちの生活が変わらないことに不満を持ち、デモを続ける。そうなれば安定はないし、最悪の状態にある観光が回復することもなく、新しい政府が成功することもない。軍による政治への介入は政治を混乱させ、軍の信頼を低下させるだけだ。国民多数の意思を実現するような民主的な政治が必要なのだ」「政治は文民に任せて、軍は政治から離れ、国防に専念すべきだ」という。近く行われる大統領選挙で軍トップのシーシ元帥の体制が生まれようとしており、スライマン氏のような主張が軍ファミリーの中にあることが報道されたのは、おそらく初めてだ。同氏はさらに、このインタビューで次のように語っているー
問い(川上) いまのエジプト情勢をどう見ているか?
答え(スライマン)2011年にムバラクは辞めたが、全権を掌握したのは軍で、国民に権力が渡されることなく、体制は何も変わらなかった。変わったのは民衆だ。体制を変えようとする民意の噴出があった。その後、民主的な選挙でムスリム同胞団のモルシが大統領に選ばれたが、昨年7月に軍の介入で排除された。
問い 昨年夏の軍によるモルシ排除をどう考えるか
答え 私は「クーデター」とは呼ばない。クーデターは、権力を転覆することだが、モルシは大統領のイスについただけで、もともと権力は何も有していなかった。軍も、警察も官僚組織も、司法も、国家の権力を担っている機構はなにもモルシの意のままにはならなかった。権力を行使する統治の手段を持っていなかったので,大統領と言っても名前だけだった。軍の介入はモルシ個人を排除しただけだ。モルシ大統領の下で、権力を影から支配していたものが、表に出てきた。それは、ムバラク時代に体制から利益を得ていた企業家であり、腐敗した政府の幹部職員たちだった。
問い 軍による政治介入の影響は?
答え 2012年の大統領選挙でモルシに投票したのは、5000万人の有権者のうち1300万票だった。私はムスリム同胞団の支持層は国民の10%を超えることはないと見ている。モルシが獲得した票は、同胞団の支持者をはるかに超えている。モルシに投票した人々には、それまで政治に関わったことのないような貧しい人々も多く、モルシに政治をやらせて政治を変えようとした。なのに、軍はモルシを排除した。貧しい民衆は自分たちの投票が反故にされたと反発し、その後、反政府のデモに参加するようになっている。そのような政治の広がりによって、いま、エジプトの社会は変わり始めている。国民の多数である貧しい民衆が政治にかかわる形で、革命が続いているということだ。
問い どうして民衆が変わったとわかるのか
答え 民衆と話せば分かる。家に来ている家政婦と話すだけでわかる。通りに出て、デモをしている人々を見れば分かる。それまで政治を語らなかった人々が、今は政治を語るようになっている。
問い なぜ民衆は変わったのか
答え いまのように、インターネットを開けば世界で何が起こっているか分かる時代に、エジプトだけ例外で、強権支配が続くということはあり得ない。いま、エジプトの若者たちはみんなツイッターで、ウクライナの政権崩壊のことを語っている。(2011年には)最初に中流の若者たちや文化人が通りに出て、ムバラク政権打倒を叫んだ。それがより貧しい民衆を目覚めさせ、いまや国民の多数を占める貧しい人々がデモをし、ストをしているということだ。
問い あなたのような考え方は、いまのエジプトのメディアからはまったく聞こえてこないが。
答え いま、政府はメディア統制して、異なる意見を受け入れなくなっている。いまは、「同胞団はテロリスト」で、「国民はシーシを支持する」という論調だけしかない。政府が認める一つの主張しかないのは、政府が弱いことを示している。しかし、いくら言論を統制しても、国民への影響力は弱い。国民は権力を恐れなくなり、政府は、国民を従わせることができない。(了)
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