消費税はあがり、世界の評価はさがる、日本の春
- 2014年 4月 1日
- 時代をみる
- 加藤哲郎安倍日本の孤立
◆2014.4.1 新学期、新社会人の季節です。東京のサクラは満開です。でも「希望の春」の気分には、なかなかなれません。たんぽぽ舎から送られてきたニュースによると、経産省前テント村での川柳句会で詠まれたのは、「花咲けど 脱原発の道遠し」「再審を 支えし姉の笑顔咲く」、それに「8億円 どんなヨシミで借りたのか みんなの党にみんなあきれる」という狂歌なそうです。そして今日から、消費税は8%になります。医療費はあがり、年金は減額です。増税分が社会保障や福祉に、被災地の復興や生活支援にまわされる保証は、ほとんどありません。なにしろ3・11の復興予算さえ流用されたことは、自民党ホームページにも記されています。税金の使途を、タックス・ペイヤーとして監視し議論するのは、最低限の市民の権利であり義務です。そのうえ、安倍内閣高支持率の理由である、アベノミクスによる景気浮揚効果が、実際にどうなるかも、この半年で、わかってくるでしょう。ただ、その間に、安倍首相の本来の政策である、特定秘密保護法制定から靖国参拝、武器輸出三原則見直しから集団的自衛権の解釈改憲、道徳教育の教科化、そして最終目標である日本国憲法の明文改正が、どこまで進むのかが、憂鬱です。NHK会長や内閣法制局長官の国会答弁を見ると、どうも安倍首相は、立憲主義ばかりでなく、権力分立の意味も、理解していないようです。「積極的平和主義」などという、本来の意味とは正反対のまやかしの言説操作に、ご注意。原発再稼働の行方と共に、国民の監視が不可欠です。
◆ウクライナ・ロシア問題や朝鮮半島が緊迫する中で、国際社会での日本の孤立は、深刻です。最近送られてきた『労働運動研究』という雑誌に、中国・韓国ばかりでなく、『ニューヨーク・タイムズ』『ワシントン・ポスト』『ファイナンシャル・タイムズ』『フランクフルター・アルゲマイネ』『ル・モンド』等の対日論調が集大成されていて、改めて事態の深刻さに、驚かされました。もともと世界のメディアでは、日本関係の記事が少なくなり、アジア支局も東京から北京・上海・香港などに移されて久しいのですが、そこでクオリティ・ペーパーに登場する見出しが「安倍氏の危険な歴史修正主義」(NYタイムズ)、「厄介な方向を向き始めた安倍の国家主義」(FTタイムズ)、「日本の挑発的行動」(ワシントン・ポスト)、「日本外交が孤立する危険」(ル・モンド)等々ですから、 世界の注目点は明瞭です。経済的にも、内閣官房参与が「アベノミクスは強力な軍隊を持つため」などと『ウォール・ストリート・ジャーナル』で公言するものですから、「対米自立」の方向性も、いっそう警戒されるばかりです。グローバル化のなかでの日本への対内直接投資は、世界一の中国への百分の1で、世界では65位です。もっとも「女性の社会進出」の75位、 「報道の自由度」59位という文化水準に見合った順位と、いえないこともありませんが。
◆特に、人権保障は、深刻です。自殺率の世界9位は未だにトップクラスですが、治安・安全ランキング第6位は、本当に誇れるものでしょうか。ようやく再審・釈放が認められ「証拠ねつ造の疑い」まで判定された袴田事件に、静岡地検は即時抗告して警察・検察の面子と権限を守ろうとし、飯塚事件の再審請求は、福岡地裁で却下されました。国際社会がいま日本に注目するのは、従軍慰安婦や南京大虐殺、沖縄・アイヌの扱いのような歴史認識と共に、福島原発汚染水の行方や原発再稼働、人権裁判の行方や記者クラブ制度です。「人間の尊厳」がうとんじられ、軽視される国に、未来はありません。理研のSTAP細胞問題も、同じ文脈で注目されることは、必至です。国際司法裁判所は、日本の調査捕鯨を、日本側の「科学的な調査が目的で成果を挙げている」という主張を退け、「実態は商業捕鯨にほかならない」と認定しました。領土保全・資源権益が本当の目的の「沖ノ鳥島・巨大桟橋」事故、東京オリンピックのためのフクシマ「アンダー・コントロール」の嘘が見抜かれても繰り返す「世界一安全な原発」の内実、そうした姿にダブらせて、世界を驚かせた「STAP細胞」事件が、日本の「科学技術立国」の今日の問題として、世界に示されます。今日は理研の最終調査報告記者会見とか、ウェブ上での専門家たちの「論文捏造&研究不正」ツイッターでの検討などで、小保方氏らの「ネイチャー」論文の問題点は、明らかになっています。問題は、なぜこのような「事件」が起こったのかです。私の『日本の社会主義ーー原爆反対・原発推進の論理』(岩波現代全書)では、戦時中日本軍の原爆開発に従事した理研の仁科芳雄ら核物理学者が、なぜ米国占領下の学術研究体制づくり、研究予算配分、「原子力の平和利用」と科学技術庁出発の中心になったのか、その背景に、米国の戦時科学技術体制ーー原爆「マンハッタン計画」への自然科学者動員と戦略情報局(OSS=戦後CIAの前身)調査分析部(R&A)への人文・社会科学者動員ーーの戦後の世界化があり、「原子力ムラ」の「安全神話」と今日の日本の大学・研究機関の成果競争は、そこから連続しているのではないか、と問題提起しておきました。袴田事件とはやや異なる、情報戦の政治的位相での冤罪・人権侵害と真相究明を試みた『ゾルゲ事件ーー覆された神話』(平凡社)、私の「国際歴史探偵 」の原点である国崎定洞研究の到達点「国崎定洞ーー亡命知識人の悲劇」(安田常雄他編『東アジアの知識人』第4巻、有志舎)も発売されましたので、ぜひご笑覧ください。
初出:加藤哲郎の「ネチズン・カレッジ』より許可を得て転載 http://www.ff.iij4u.or.jp/~katote/Home.shtml
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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