前大統領支持者ら683人にまた集団死刑判決
- 2014年 5月 7日
- 評論・紹介・意見
- エジプト坂井定雄
―革命3年後のエジプト⑦
エジプト南部メニア地方の裁判所のサイード・ユーセフ裁判長は4月28日、昨年7月のクーデターで逮捕・投獄されたモルシ大統領の与党ムスリム同胞団の幹部と支持者ら683人に死刑判決を下した。判決によると、被告たちは昨年8月14日、地元の警察署を襲撃して、副署長を殺害した罪。この日早朝、カイロ市内でのモルシ支持者たちの座り込みを軍・治安警察が強制排除、700人以上が死亡、数千人が負傷した。その日のうちに全国で激しい抗議行動が行われ、メニア地方の1警察署ではデモ隊によって副署長が殺害されたとされている。死刑判決を受けた被告の中には、殺害をそそのかしたとして、現場にはいなかったムスリム同胞団の最高指導者バディウ団長も含まれている。弁護団は判決を不当として高裁に控訴することを決めた。弁護団や裁判を監視し続けている国際人権団体アムネスティ・インタナショナルの法律専門家によると、公判は2回だけ開かれ、1回目は約4時間、検察側、裁判所側の主張が、被告が犯行現場にいたことの立証をはじめ証拠の提出が全くなしに展開され、弁護団側の主張の発言は一切許されなかった。2回目の今回はわずか5分間で判決が言い渡されただけだった。
同裁判長は3月24日にも、同地方の別の警察署への抗議行動で、警察幹部1人が殺害されたとして、やはりバディウを含む529人に死刑判決を下している。エジプトの裁判制度では、裁判所の死刑判決について、その妥当性にイスラム教の最高府アズハルの判断を得ることが定められており、その判断に従って同裁判長はこの529人について同じ4月28日、バディウを含む37人に死刑、残る492人を終身刑に減刑した最終判決を下した。
今回の集団死刑判決に対して国際世論は直ちに厳しく非難、批判した。潘基文国連事務総長は「3月24日に続く、エジプトでの本日の新たな集団死刑判決は、明らかに公正な裁判の基本的基準に反している。」と声明。米大統領府は「この集団死刑判決は、前月の集団死刑判決と同様、明確な証拠の提示がなく、被告が弁護士と連絡する権利を含む国際的正義のもっとも基本的な基準さえ無視したものである。われわれはエジプト政府に対し、集団裁判の利用をやめ、前回と今回の集団死刑判決を覆すよう求める」と表明した。欧州諸国も同様な批判を発表した。エジプト国内では、ムスリム同胞団の強い抗議だけでなく、リベラルなイスラム政党の「強いエジプト党」が「証拠も目撃者証言も、聴聞や尋問の記録もなしにこの判決が下されたことは、国家を掘り崩すものだ」と批判したのをはじめ、リベラル政党、人権団体が批判声明や見解を発表したが、多くの新聞、テレビは集団死刑判決に抗議したり非難することを避けたように見える。
エジプトの司法制度は、ナポレオン法典(1804年公布)はじめ、主にフランスの法的思想と手法に基いて構築されており、中東諸国の中ではもっとも完備している、と国際的にも評価されてきた。特にアラブ諸国にとって、エジプトの司法制度は模範であり、いわば先生としてアラブ諸国の司法制度の整備に影響を与えてきた。そのエジプトで、クーデター後の裁判所が、全く前例のないムスリム同胞団への集団裁判、大量死刑判決を行ったのである。集団裁判、大量死刑判決はメニアでの2件の前に、人数はやや少ないが、別の裁判所でもおこわわれている。メニアの1裁判長だけの判決ではない。
なぜ、このような集団裁判、集団死刑判決が行われるようになったのか。その分析は未解明だが、クーデターで最高権力を握ったシーシ元帥と、シーシから暫定大統領に任命された、司法界トップのマンスール前最高憲法裁判所長官が、この集団死刑判決を事前に知らなかったことはあり得ない。シーシはその経歴から、アメリカも国際社会も、かなりよく知っているはずだ。シーシなりの判断に基づいてGOサインを出したに違いない。
そのシーシは、5月26,27日に行われる大統領選挙に立候補し、圧勝することが確実視されている。エジプトはどんな国になっていくのだろうか。2011年の革命で、ムバラク独裁政権下の恐怖と腐敗への怒りから解放され、明るい自由を経験した多くの民衆はどう行動していくのだろうか。
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