ブラウン管の中のスパイたち
- 2014年 5月 24日
- カルチャー
- とら猫イーチ 改め 熊王 信之
1960年代テレビ番組(洋画)では、西部劇が全盛であったことは、以前の投稿で少し書いたのですが、それ以外で当時、人気を博していた番組は、西部劇よりは少なかったもののスパイものが人気でした。 その多くは、米国からのものでしたが、英国の同様な番組が、相当多く、日本でも放映されていました。 諜報・情報小説は、英国が本場とも云えますので、当然でしょうけれども。 映画では、007が活躍していましたしね。
その中で、今でも人気があり、全作品がDVDで買えるのは、「スパイ大作戦」(Mission: Impossible)を筆頭に、いくつかがあります。 「スパイ大作戦」は、1966年から1973年まで放送された米国の番組で、全171話です。 主演が、一つのチームで作戦を遂行するのが常ですので、長寿番組であるところから、何回かの編成替えがありましたが、作品の基本構成が、変わらず、視聴者は安心して(!?)観られました。 作戦に失敗らしきものが無いのが、日本のあの超長寿番組と同じです。
毎回、チームの一人が、敵方の枢要人物に為り替わる等と云う基本設定の最初から、有り得ないものでしたので、云わば、大人のおとぎ話でした。 でも、面白かったのは本当です。 後年、トム・クルーズ主演で劇場映画化もされました。 私は未見ですが、友人に依ればこちらも面白かったようです。
でも、そんな真面目腐ったおとぎ話より、スパイの諜報合戦そのものを徹底的にパロディーにして笑い飛ばしたのが、「それ行けスマート」(Get Smart)でした。 私は、この番組が好きで、毎週、楽しみでした。 主演のドン・アダムズ(Don Adams)扮する米国の秘密諜報機関コントロール(CONTROL)のエージェント86号・マクスウェル・スマートが、糞まじめに繰り広げるお間抜けの数々を、彼が操るトンデモ・スパイ道具の怪しさとともに怪喜劇に仕立てたもので、他に類を観ない可笑しさでした。
この喜劇は、主人公も喜劇の第一人者でしたが、彼の相棒の99号が、美人で聡明そうに観える外見とは裏腹に、主人公に輪をかけて可笑しくて、始めから、出演者は、この二人に限って、米国渡来の漫才をすれば良いかも、と家族と話したこともあるほどでした。 それもその筈で、扮していたのは、性格俳優のバーバラ・フェルドン(Barbara Feldon)でした。 スタイル抜群で、美人なのは、モデルとしても活躍していたことからも知れます。 身長が主人公よりも高く、番組では、その事実を隠すべく苦心したらしいのですが、二人が並んでいる場面を観れば歴然としていました。
この番組は、米国では、NBC系で1965年から1969年まで、CBS系で1969年から1970年まで放映され、全部で138話ありました。 「日本(関東地区)では1966年にNETテレビ(現:テレビ朝日)の『危機一髪シリーズ』(金曜21:00 – 21:56)で、『ハニーにおまかせ』と共に放送、その後1968年から1969年まで東京12チャンネル(現:テレビ東京)の毎週火曜21:00 – 21:30で放映された。」とWikipediaにあります。 (因みに、「ハニーにおまかせ」については、別途、投稿で触れる予定です。)
それ行けスマート Wikipedia
スパイものは、他にも相当あったのですが、私が、欠かさず視聴していたのは、 英国の「秘密諜報員ジョン・ドレイク」(Danger Man)でした。
余談になってしまいますが、60年代の外国テレビ映画の邦題って、どうしてこう垢抜けしない、場末の映画館の三本立て並みのものなのだったのでしょうか。 「秘密諜報員」って、諜報員は、名刺を持って挨拶廻りすることは無いでしょうし、「私、諜報員です」と自己紹介することも無いでしょう。 「諜報員」は秘密に決まっているでしょうに。
西部劇でも阿保らしい邦題が多かったですね。 マックィーン主演のWanted : Dead or Alive でも、「拳銃無宿」等と、訳の分からない泥臭い邦題をつけるし。 これでは、西部開拓時代の懸賞金付き指名手配ポスターを題名にした垢抜けた演出が台無しです。
スパイもののジャンルでも同じでした。 本国の英国では人気の長寿番組であったThe Avengersに「おしゃれ丸秘探偵」等と云うお間抜けな邦題をつけて、邦題のせいかどうか知りませんが視聴率が低迷し、放送が打ち切りになったこともあります。 このシリーズは、本国では人気の長寿番組であったのですが、私には、製作者の御遊びが過ぎるように思え、また、英国風のユーモアにはついていけずに、殆ど何の記憶も残っていません。
比較して、パトリック・マクグーハン(Patrick McGoohan)主演のDanger Manのシリーズは、なかなかシリアスで、冷戦時代の緊迫した環境下での諜報戦を、ある程度写実的に描いていました。 英国側の諜報機関に二重スパイが居る設定の作品もあり、また、米国のテレビシリーズと異なり、必ずしも、東側のみを敵視した視点からのみ描いてはいませんでした。 しかも、作品中で味方である筈の上司に裏切られるものもありましたので、観終わった後味が悪かったのを覚えています。
このシリーズのSeries 1 は、邦題名「秘密指令」で30分番組でしたが、日本での放送時には、私は観ていません。 全39話のDVDが発売されていますので、発注しようか、と思案しているところです。 今では、購入せずともYou-Tubeで視聴が可能ですしね。
シリーズ中で特筆すべきものは、Series 2の第三作目、 邦題名「第三の異境」(Colony Three)です。 共産主義者の英国人が東側へ次々と消える事件に疑いを持った情報部が、渡航準備中の英国人にすり替えたドレイクを東欧に送りますが、列車から東欧の詳細不明の場所へ降り立った彼の前にダブル・デッカー(Double Decker)が現れ、英国の街を模したスパイ養成の施設に連れて行く、と云った、冷戦当時には如何にも有りそうな話でしたし、日本では、北朝鮮に依る拉致事件が有り、或は、彼の国にはこのような施設があるのかも、と、今見ても薄気味の悪い作品です。
この作品は、後年、カルト的テレビ映画シリーズである「プリズナーNo.6」(Prisoner No.6) へ、と繋がるのですが、Danger Manの主人公が、No.6になると思っても間違いは無いでしょう。 マクグーハンは否定していますが、少なくとも、この作品からPrisoner No.6の着想を得たことは確かでしょう。
http://www.youtube.com/watch?v=TysXtB22TLY
Danger Man 2×03 Colony Three You-Tube
最終シリーズの二作品はカラーになり、題名がKoroshiとShinda Shimaで、題名を観れば明らかなように、日本を舞台にしたもので、シリーズとは異質な作風になっています。 前者は、若干オカルトチックで、後者は、007のシリーズに似ています。 Prisoner No.6の撮影が放送に間に合わず、その穴埋めのための作品だったそうです。 日本人が観れば、何処の国が舞台なのか分からず、日本と云われても、何時の時代の日本かも分からない、と思われるものでした。 何しろ、いくら60年代でも、京都や奈良の観光地なら分かりますが、それ以外の地域では、既に茶店は無かったでしょうが、この作品では、日本人が茶店でお茶を飲んでいる場面が出てきました。
蛇足ですが、スパイ映画の小道具の話です。 それもスパイが携帯する銃ですが、Danger Man では、主人公は、常時、銃器を携帯せず、携帯する場合には、イタリア製ベレッタのような小型拳銃を使用します。
「それ行けスマート」では、銃器もトンデモ系で、99号は、数ミリサイズの超小型拳銃を構えたことがありますが、銃弾は、一体、どうして装填するのでしょうか。 虫眼鏡で見ながら、ピンセットで銃弾をつまんで装填するのでしょうか。
劇場映画の007シリーズでは、ボンドの持つ拳銃としてワルサーPPKが有名です。 彼は、ワルサーの前には、ベレッタを持っていたのですが、上司の命令でワルサーPPKに替えた経過があります。 一時は、同じワルサーでもワルサーP99と云う口径9mmの大型拳銃を携帯していましたが、今では、PPKに戻っています。 ワルサーP99は、軍用や警察用で、スパイが隠し持つには、大型過ぎますので当然でしょう。
更にいえば、銃器の使用が不可避になる状況になれば、諜報・情報機関員としては、作戦は失敗になることでしょう。 銃器の使用が必要な作戦には、それ相応の部隊が臨むのが普通です。 英国であれば、有名なSAS(Special Air Service英陸軍特殊空挺部隊)ですし、SBS(Special Boat Service 英海兵隊特殊舟艇部隊)です。 英国の内外に於いて、作戦実施の折には、国外では、Secret Intelligence Service (旧MI6)、国内であれば、MI5(Security Service)の情報提供と協力の下で、これ等の部隊が敵地等への潜入・監視・情報収集・破壊、等々の武力による作戦を実施することになります。 007のように、単身で敵地に乗り込み本拠地を破壊等とは、有り得ないお話です。
http://www.youtube.com/watch?v=VuO34MDezzU
The Guns of James Bond BBC
(なお、ハンドリング・ネームの「とら猫イーチ」で筆名に替えて今日まで来ましたが、ハンドリング・ネームでは、聊か軽薄な感じを否めません。 投稿内容まで軽薄な印象を受けては残念ですので、思い切って、筆名である熊王信之に替えたいと思います。 当初から筆名で投稿しておけば良かったのですが、安易にハンドリング・ネームで投稿を重ねました。 申し訳御座いません。)
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔culture0059:140524〕
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