米国NSAのグローバルな通信監視のもと、戦争への足音が聞こえる世界、原発再稼働に走る日本!
- 2014年 6月 2日
- 時代をみる
- 加藤哲郎原発
2014.6.1 ウクライナの大統領選挙がまがりなりにも行われ、実業家ポロシェンコ氏が当選し、ロシアのプーチン大統領も「結果を尊重する」と言明しました。安定にはほど遠いとは言え、ヨーロッパにおける大きな戦争の危機は、一応遠のきました。でも、時を同じくしてアジアに、きな臭い動き。南シナ海で衝突する中国とベトナムは、かつて「社会主義」同士の中越戦争をたたかった当事国です。エジプト、インドの新政権、タイの軍事クーデタ−、中国国内の不安定が、国際政治経済・安全保障の世界における、ナショナリズムを背景にした再編・不安定を促しています。アメリカの「世界の警察官」としての役割の衰退と、中国のバブル経済の行方を軸に、「米中支配=チャイメリカ」へとは一元化しえない、複雑な動きになっています。前回トップに掲げた「革命の消えたロシア、ロックと愛国のメーデー」は、5月17日の桑野塾勝野金政シンポジウム報告会講演のタイトルで、末尾はウクライナ情勢をめぐって「チャイメリカCHIMERICAか、チャイロシアCHIRUSSIAか」、つまり「米中世界支配か、中ロ接近=同盟形成か」と結びましたが、実際、いまや中国は、米国にとってもロシアにとっても最大の貿易相手国で、しかも国連安全保障理事会常任理事国ですから、大西洋でも、太平洋でも、無視できないキーアクターになっています。中国語サイトに出てくるCHINDIA(中印同盟)、EU議会選挙における各国民族派・懐疑派の台頭もあり、主観的には米国に盲従して(実は米国内ジャパン・ロビーに誘導された)安倍内閣の突き進む、憲法解釈変更による集団的自衛権、日米防衛ガイドライン改訂の方向も、実際には世界秩序の大きな変動の中の位置取りなのです。
ただし、情報戦の世界では、どうやら米国CIA中央情報局とNSA国家安全保障局が、着々と地球全体を監視するインフラを、構築したようです。まもなく始まる、世界のマスコミがワールドカップに酔う時期に、いろいろな工作が準備されるでしょう。CIA/NSA両諜報組織に籍を置いたエドワード・スノーデンの内部告発した国家機密情報を、『ガーディアン』誌等で報じたジャーナリスト=グレン・グリーンウォルドの著書『暴露ーースノーデンが私に託したファイル』が、世界24か国で同時刊行、日本語でも新潮社から発売されました。驚くべき内容です。ウェブを使うネチズンなら必読です。リークされた100以上の文書そのものも必読ですが、それを報じるまでのジャーナリストとしてのグリーンウォルドとスノーデンの出会い、報道機関の選択と角逐、決断と不安、実際に遭遇した権力との闘争のすべてが、スリル満点です。そのオーウェル『1984年』風世界が、実際のNSA文書で裏付けられて、心底から恐怖と怒りをおぼえます。スノーデンは、2009年から11年まで、日本に住んでいました。「NSAの請負企業」であるデル・コンピュータ社従業員をカバーにして、「上級サイバー工作員」の活動を訓練し、実行していました。ただしそれは、日本の情報収集・対日工作と言うよりも、米軍三沢基地の巨大通信傍受装置エシュロンを使って、世界のありとあらゆる情報を収集し、特に対中防諜に関わるものだったようです。コンピュータのデル社は、カバーとしての職場の提供ですが、恐ろしいのは、NSAの「すべてを収集する」「バウンドレス・インフォーマント(際限なき情報提供者)」戦略に、電信・電話会社ばかりでなく、世界の有力IT企業が、軒並み協力していたことです。「プリズム」作戦では、マイクロソフトに始まり、ヤフー、グーグル、フェイスブック、ユーチューブ、スカイプ、遂にはわが愛用するアップルまでが、個人の検索記録からメールまでの情報を提供していました。各社は否定していますが、一応抵抗し得たのはツイッター社だけらしく、『暴露』に証拠書類が十分に収録されています。マイクロソフトは、真っ先に個人情報提供を認めた米国策迎合企業、「あのWindows8というのは、ひょっとしたら」とか、「HISのサイトにアクセスしただけではめ込まれるマルウェア感染」はどこから、と疑いたくもなります。
プリズムを通して得られた情報は、「国外配布禁止」のトップ・シークレットを頂点に、「ファイブ・アイズ」=アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの「包括的協力国」で共有されるA層、それにオーストリア、ベルギー、チェコ、ドイツ、ハンガリー、スウェーデン、スイスなど「限定的協力国」=B層に分けられます。アジアの日本と韓国もB層とされていますが、これは米国にとって、特定領域では協力を得られるが、同時に監視対象ともなる国々です。ですからドイツの首相の携帯電話まで、調べられていました。安倍首相とオトモダチの携帯も、きっと筒抜けだったことでしょう。どうやら日本は米軍への便宜と米国経済復興の金庫役らしく、TPP交渉がらみで、東京の寿司屋でオバマが話す内容も、前もってチェックされ、インプットされていたでしょう。だからこそ、日本側の期待のシナリオと狂った「尖閣問題をエスカレートするのはprofound mistake(深刻な誤り)」という、世界向けに発せられたオバマの英語を、日本政府は、国内向けには「正しくない」とさりげなく訳したりする、姑息な手段が使われたのでしょう。もっとも、米国の世界戦略立案のもととなるNSA文書の中で、日本がB層の国の中で重視されていた形跡はありません。アメリカにとっては「特別の同盟国」ではないらしく、3・11後の米国の機密情報収集でも、日本の原発事故が重要イシューとされた記録は、少なくとも今回の『暴露』資料にはありません。だからこそ、日本の安倍首相や原子力ムラ住人たちは、安心して原発再稼働への道を着々と準備し、厚顔にも、トルコやベトナムへの輸出さえ進めようとしているのでしょう。実際、NSAの「脳の中をのぞき込む」IT監視システム、スノーデンの言う「地球内部の地底人」を知ってしまうと、脱原発への道も、オープン・スペースでオーソドックスに進めざるをえません。倫理や哲学のレベルに踏み込んで、読み手・聞き手にしっかり届き響く議論で支持を獲得する、民主主義の王道を歩むしかありません。日本政府が日米同盟のためにと提供する国家機密の資料や案件が、本当にトップ・シークリットかどうか判断するのは、実際には他国からの情報も併せて政策策定する、米国側になります。改めて、特定秘密保護法の成立が悔やまれます。深草徹さんの新稿「今、再び特定秘密保護法を考える」(2014.6)をアップ。大飯原発3・4号機の運転差し止めを認めた、下記の5・21福井地裁判決を、エシュロンに覗かれてもかまわないかたちで、大いに拡散していきましょう。
「ひとたび深刻な事故が起これば多くの人の生命、身体やその生活基盤に重大な被害を及ぼす事業に関わる組織には、その被害の大きさ、程度に応じた安全性と高度の信頼性が求められて然るべきである。このことは、当然の社会的要請であるとともに、生存を基礎とする人格権が公法、私法を間わず、すべての法分野において、最高の価値を持つとされている以上、本件訴訟においてもよって立つべき解釈上の指針である。
個人の生命、身体、精神及び生活に関する利益は、各人の人格に本質的なものであって、その総体が人格権であるということができる。人格権は憲法上の権利であり(13条、25条)、また人の生命を基礎とするものであるがゆえに、我が国の法制下においてはこれを超える価値を他に見出すことはできない。したがって、この人格権とりわけ生命を守り生活を維持するという人格権の根幹部分に対する具体的侵害のおそれがあるときは、人格権そのものに基づいて侵害行為の差止めを請求できることになる。人格権は各個人に由来するものであるが、その侵害形態が多数人の人格権を同時に侵害する性質を有するとき、その差止めの要請が強く働くのは理の当然である。」
初出:加藤哲郎の「ネチズン・カレッジ』より許可を得て転載 http://www.ff.iij4u.or.jp/~katote/Home.shtml
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔eye2649:140602〕
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