スイスのBasler 新聞: フクシマ漫画が日本政府を激怒させる
- 2014年 6月 2日
- 時代をみる
- グローガー理恵スイスでの「美味しんぼ」報道
スイスのBasler新聞が「美味しんぼ」騒動について報道しているという情報は、ベルリン在住のジャーナリスト、梶村太一郎氏のブログから得ました。(http://tkajimura.blogspot.com.es/2014/05/blog-post_15.html)
もう既に「美味しんぼ-福島の真実篇」は最終版が出て、編集部が「美味しんぼ-福島の真実に寄せられたご批判とご意見、編集部の見解」を発表しています。
(http://spi-net.jp/spi20140519/spi20140519.pdf)
Basler新聞の記事は、それよりちょっと早い5月12日付のものですが、報道内容が「美味しんぼ」を批判する政治家達ではなく、むしろ「美味しんぼ」の創作者側に焦点を向けており、興味深いのではないかと思います。
下が原文へのリンクです。
スイス・バーズラー新聞 (Basler Zeitung)
フクシマ漫画が日本政府を激怒させる- 2014年5月12日付
(和訳: グローガー理恵)
目下、日本国内では福島被災区域の状況を描いた漫画のために感情が高まってきている。
「美味しんぼ-福島の真実篇」の続編をほとんど待ちきれないような人々がいる一方、「福島の真実篇」に憤慨している人々もいる。そうした憤慨者の中で、とりわけ憤慨しているのが、地方の自治体や政府である。作者の雁屋哲氏は、原子炉大災害がもたらした結果を赤裸々に描写することによって、環境大臣までも怒らせることになったのである。このような激した反応は72歳の作者を驚かせたが、彼がそれで怯まされているようなことはない。
月曜日前の夜、ファンたちは、彼らが礼賛するマガジン「ビッグコミックスピリッツ」の最新号を真っ先に手に入れようと、すでに真夜中には、24時間ぶっ通しで営業するスーパーマーケット(複数)へと殺到した。毎週、グルメ-漫画美味しんぼ(美食家)の新刊が発行されるのである。美味しんぼシリーズは既に1984年から存在しており、現在、物語は福島地方を舞台に展開されている。
一週間前に出たシリーズの中では、花咲アキラ氏によって描かれた一人の人物が、福島で多数の人々が原因不明の鼻血を出したことを報告している。しかし、福島原発事故以来ゴーストタウンと化した双葉町の自治体は「そんなことは嘘である」と憤慨し、出版社である小学館に抗議を申し立てたのだった。彼らは、双葉町に事前の取材が全くなく、「美味しんぼ-福島の真実篇」は単に雁屋氏の個人的な見解のみを掲載しただけであると作者を批判した。
原発にフレンドリーな政府
新エピソードの中では、汚染区域の土壌から除染作業によって放射能がなくなることはなく、被曝が原因で鼻血が出たり、また、福島周辺地域からの瓦礫/廃棄物が焼却処理された大阪では住民たちが同様に異常症状の発生を訴えている。
非難は実際人物から出ている。例えば、前双葉町長 井戸川克隆氏は、2011年3月に発生した原子炉事故の際に何もしなかった政府を、あくまでも非難し続けている。彼は、彼自身も被曝したのだと力説する。それを裏付けるために、彼は自分の鼻血の写真を公開した。
にもかかわらず、「美味しんぼ」に抗議する広範囲の同盟が形成されたのである。石原伸晃環境大臣でさえも、それに割り込んでいった。彼は、「このような漫画においては、フィクションなのかそうでないのか、もう分からなくなってしまう」と、苦情を述べている。「専門家によって、今回の事故と鼻血に因果関係がないと既に評価されており、風評被害を呼ぶことがあれば、あってはならないことだ」と、原発フレンドリーである安部晋三内閣の閣僚は述べたのである。
フクシマは 殆どタブー・テーマに
雁屋氏自身は、彼の作品の「吹き出し」に引き続きコミットしている。: 彼は、「私は鼻血について書く時に、当然ある程度の反発は折り込み済みだったが、ここまで騒ぎになるとは思わなかった」と自分のブログに書いている。「私は真実をありのままに書くことがどうして批判されなければならないのか分からない。」
雁屋氏は「美味しんぼ」作成のために2年間福島で取材した。彼は、『「福島は安全」「福島は大丈夫」「福島の復興は前進している」などと書けばみんなが喜んだのかもしれない。しかし私は真実しか書けない。」と述べる。
来週には、もっと詳しい内容の「福島の真実篇」新シリーズが出版されるはずである。匿名を希望する、あるコミック・アーティストは、「フクシマ」がいつの間にか、ほとんど「タブー・テーマ」となってしまったことを確認する。「今になって、誰も福島地方からの野菜を買いたがらないなんてことを、誰が描くでしょうか? そんなことしたら、すぐにネットでリンチされてしまいますよ。- その前に、出版社が出版拒否しなかった場合の話ですがね」とアーティストは言う。「このことは、いつの日か「ビッグコミックスピリッツ」が廃刊されることになるだろうと、危惧しなければならないと言ってもよい程の所までに来てしまっているということですよ。」
以上
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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