思想・信条の自由なのか、あるいは利敵行為に当たるのか?
- 2010年 11月 12日
- 評論・紹介・意見
- 「自然なアルバニア」理念国境紛争問題岩田昌征
ポリティカ紙(2010年11月3日、水)に「検察はティラナ集会の証拠を収集中」なる記事が出た。尖閣諸島の日本領海侵犯問題との関連で興味深いので要約紹介しておこう。
南セルビアのアルバニア人が多数住むプレシェヴォとブヤノヴァツの郡長たちがアルバニアの首都ティラナで週末に開かれた「自然なアルバニアのためのリスト」なる組織の発起集会に登場した。セルビアの検察当局は、この集会に関する証人、記録、速記録、報道、そしてテレビ録画を調べることになる。その結果、参加した郡長たちへの起訴か不起訴かがやがて決定されるという。この検察の対応に関して今のところ次のような政界と学界からの反応がある。
親米派の自由民主党首チェドミル・ヨヴァノヴィチは、―セルビアのすべての人々は、セルビアの将来を如何に考えるかを語る権利がある。政府が検察を使って脅かすのは誤りだ。南セルビアのアルバニア人との対話が必要だ。対話ではなく、告訴するようなことになれば、私たちは再び過去におかれた状態(岩田註:国際的孤立)に陥ることになろう。
穏和派民族主義のセルビア前進党首トミスラヴ・ニコリチは、―プレシェヴォとブヤノヴァツの高い公的役職にある者が「自然なアルバニア国家」の形成を支持することは、違憲であり、許容しがたい。逮捕すべきだ。
ベオグラード大学哲学部ユーゴスラヴィア史講座主任リュウボドラグ・ディミチは、―「自然なアルバニア」理念は、1877年以来130年の歴史がある。アルバニア人はトルコ、ついでハプスブルク君主国、イタリーとそれへの支持を求めてきた。国は週末にティラナで表明されたこの理念に関心を払うべきだ。今のところ、外交的抗議以上のことはできないにしても。
非公式であるが、ティラナで公然と表明された「自然なアルバニア」理念とは、いわゆる大アルバニア主義であり、現行アルバニア人国家のアルバニアとコソヴォに隣接する外国領の諸地域、すなわちセルビアのサンジャク地方、南セルビア、ブルガリアの西端部分、マケドニアの西半分、ギリシャ領の対アルバニア国境地帯に対する領土要求を意味する。今回の問題の意味は、日本国の最近事例に例えれば、尖閣諸島領海への中国漁船の侵犯問題を考えればよくわかる。セルビアの上記の議論の筋によれば、領海侵犯の船長の逮捕・起訴に関して疑う者はいない。ところで、ここで仮の設定をすれば、日本国の二つの地方都市の二人の市長が中国系日本人(日本国籍の中国人)であったとして、彼らが北京で開かれた尖閣諸島を含む「固有の中国領回復を目指す」組織の発起集会に登場したとしよう。これは日本国憲法に従って、言論・思想の自由として許容されるのか、それとも違憲・違法として逮捕されるべきなのか。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔opinion0211:101112〕
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