「四つ子の赤ちゃんが生まれた!」 ―ガザから、世界に発信するアルシーファ病院―
- 2014年 8月 6日
- 評論・紹介・意見
- 坂井定雄
イスラエル軍の爆撃、砲撃で連日百人以上の住民が死亡しているガザで、四つ子の赤ちゃんが無事生まれた。ガザ最大のアルシーファ病院。同病院から毎日、ガザと病院の現実をツイッターで世界に発信しているバッセル・アブ・ワルド医師は7月31日、「カドゥーラ医師の下でパレスチナ人の母親が昨夜、四つ子を産んだ」と喜びを写真とともに伝えた。
その数時間前にワルド医師は、爆撃で重傷を負って病院に運び込まれたが、医師団の手当てもむなしく、亡くなった女の赤ちゃんの写真とともに「この子は家族全部が爆撃で死亡したので、ある男性が埋葬を申し出てくれた」と発信している。
ワルド医師は前週、ガザ市中心部のデイル・アルバラ病院の医師がイスラエル軍の戦車砲撃で死亡した妊婦を切開手術し、無事生きたまま取り出した「奇跡の赤ちゃん」のことを発信した。だが同医師は30日、この赤ちゃんは集中治療室で6日間治療を受けたが、断続的な停電による酸素供給装置などの作動不良のために亡くなったと、悲しい知らせをツイッターに書いたばかりだった。
アルシーファ病院は1920年代の英国統治下に設立された、伝統ある先進的な病院。ガザの医療ネットワークの中心になっている。現在、イスラエル軍の攻撃の犠牲になった負傷者だけでなく、住み家を破壊された家族や、砲爆撃から避難してきた数千人が病院の敷地内に逃げ込んでいる。ガザの住民たちは、赤十字の旗を掲げた病院、医療施設と国連が設置し国連旗を掲げた学校だけは安全な避難場所だと考えてきた。しかし、イスラエル軍は今回、学校と病院や医療施設にも、容赦ない砲爆撃を加え、破壊し始めた。イスラエル側は、病院にもイスラエル軍と戦う武装政治組織ハマスが逃げ込んでいると主張、すでに3つの病院が爆撃され、死傷者が出ている。アルシーファ病院に対しても、一部米国のメディアが、ハマスの秘密司令部が病院内にあると報道した。病院側だけでなく、国連の現地機関もきっぱりと否定したが、それを口実に同病院も攻撃される危機感が高まっていた。
危機感は現実になった。7月28日、イスラエル軍はアルシーファ病院の外来患者用施設を爆撃した。同施設にも多数の避難民がいたが、爆弾は命中せず、周辺の建物が破壊されただけですんだという。
この爆撃に対して、同病院に手術チームを派遣している「国境なき医師団」(本部パリ)は29日、イスラエル軍の攻撃を厳しく非難する次のような緊急声明を発表した。
「病院とその周辺を攻撃目標とすることは、絶対に受け入れることができない。国際人道法の重大な違反である。」「いかなる状況下においても、医療施設と医療スタッフは保護され、尊敬されなければならない。しかし現在のガザでは、病院は、そうでなければならない安全な場所ではない。」
アルシーファ病院爆撃の1時間後、近くのシャティ難民キャンプがイスラエル軍のミサイル攻撃を受け、多数の死傷者が出て、負傷者は同病院に運び込まれた。病院にいた「国境なき医師団」のスタッフによると「負傷者の3分の2は子供たちだ。」
ガザは中央部が幅6キロほどの細長い地域で、パレスチナ人180万人がひしめいて暮らしている。しかも、今回の作戦開始後、イスラエル軍はイスラエル国境から3キロの幅を作戦地域として住民を追い出している。「国境なき医師団」本部のロドリーグ運営局長は「ガザ住民は海と閉鎖された国境に囲まれている。イスラエル軍は、住民に対し自らの家と隣人たちから立ち去れと命令するが、住民たちはどこに行けというのか。ガザ住民たちには移動の自由がなく、ガザの外に避難できない。彼らは閉じ込められているのだ」と非難した。
ガザの戦闘は続いている。住民の犠牲は増え続けている。そのなかで、必死に避難し生き続けようとする住民たちと、それを助ける医師たちがいる。
写真説明:ガザのアルシーファ病院で7月30日に生まれた四つ子たちと、担当のガドゥーラ医師。アブ・ワルド医師のツイッター投稿写真。
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