オーガニック?
- 2014年 9月 2日
- 交流の広場
- 藤澤豊
2014年8月2日付けの英Economist誌がホールフーズ・マーケット(Whole Foods Market)の苦境を伝えている。全米のオーガニックや自然食品の売上に対するホールフーズ・マーケットの占める割合が昨年のピーク時と比べて四十パーセント以上も落ちてしまった。前四半期の売上、利益共に若干伸びているので即経営難に陥ることはないとしながらも、今までのようにはゆかないだろうと警告を発している。
”Victim of success”と題した記事で市場の変化に対するビジネスモデルそのものの危うさを指摘している。記事によれば、オーガニックや自然食品市場は2012年時点で$63billion(630億ドル、1ドル=100円)、市場調査会社は2018年までに18%の成長を予測している。市場全体では成長傾向だが、これまでのように栽培に化学肥料や農薬、添加剤などを使っていないから多少お高くてもということから消費者が離れ始めている。
成功したがゆえにフツーのスーパーマーケットやディスカントストアの参入を招き今までのようなプレミアム価格(ビジネスモデル)が通用しなくなった。一つの例としてオーガニックのリンゴがホールフーズでは一ポンド(約450グラム)、2ドル99セント、安いを売り物にしているコストコ(Costco)なら1ドル99セント。
ここまでは、小規模業者が高級指向のニッチ市場で成功した。ニッチ市場も成長して大手の目にも美味しい市場になって大手競合が高級指向の消費者にも高級ではない価格で似たようなものを提供し始めた。市場としては成長してゆくだろうが、プレミアム価格は通用しなくなったという話でしかない。
興味深いのは、プレミアム価格の裏付けである健康指向をくすぐるオーガニックや自然食品そのものに対する疑問を軽く呈しているところにある。英国の食品基準庁(Food Standard Agency、FSA)と米国内科学会 (en:American College of Physicians)によって発行される医学学術雑誌『アナルズ・オブ・インターナル・メディシン(Annals of Internal Medicine』によればオーガニックや自然食品は健康面からみて栄養価の面では大きな違いはないと結論づけている。オーガニックや自然食品はフツーの食品より生産性が劣る分、土地の有効利用という面でみれば社会的にはマイナスになる。
米国では自然食品(natural food)の公的定義がないこともあり、ホールフーズが売り物にしているオーガニックや自然食品には規定がない。カリフォルニア大学の植物学者Alan McHughenによればそれは事実というより九十九パーセントマーケティングが作り上げたPerception=みんながそう思っているだけに過ぎない。
ここまでくると、何年か前の「トンデモ本」の序文を思い出す。序文では大まか次のようなことが書かれていた。分かっている人たち、気がついてしまっている人たちにはあまりにあたりまえのことで、いまさらの解説はうっとうしいだけなのだが、そうでない人たちにはその怪しさというよりウソをどう説明したらいいものかと悩むことがある。典型的な例としてちょっと前のテレビショッピングの口上がある。
“化学物質の入ったシャンプーで洗髪するというのはあなたの髪に死刑宣告をしているようなものです。今回お薦めするこのシャンプーなら安全です。なんといってもこのシャンプー、成分は全て天然素材、化学物質はいっさい入ってません。。。”
同僚の女性たちに、この話、何かおかしくないかと聞いてみた。家でも聞いてみたが答えは同じだった。おいおいそれはないだろう。フツーに考えれば小学生でも分かることででしかないはず。頭抜けて優秀な知り合いの女性にも聞いてみた。誰もおかしな話と思っていないのに驚く以上にがっかりした。
トンデモ本の序文の件(くだり)がそのまま自分の身近にあるとは想像もしていなかった。要は化学物質とは何なのかというかなり基本的な理解があやふやなところにある。そのあやふやなところをきちんと突いて、怪しい商売が成り立っているとしか思えない。
化学物質と一言で言っているが水も私たちの体も、身の回りのありとあらゆるものが化学物資から構成されている。化学物質を含まないものなどあり得ようがない。一歩引いて天然か人工かという視点から言えば、天然であれ人工であれ化学物資は化学物質で元素から分子構造まで同じだったら同じ化学物質で何も違わない。そのいい例がこれもトンデモ本に書いてあった天然バニラと人工バニラだろう。記憶に間違いがなければ人工バニラは製紙製造工程の副産物として出てくる。それは分子構造まで天然バニラと同じもの、何も違わない。巷で天然バニラとその食感から思われているのは実はバニラビーンズの欠片。それを言ってみれば不純物を天然バニラと思い込んでか思い込まされて、多くの人たちが高い天然バニラにプレミアムを払って悦にいっている。
ボストンにいた時ホールフーズ・マーケットには随分お世話になった。店は綺麗だし、店員も親切。安いが一番というスーパーマーケットでは傷んだメロンやチェリーが片付けられずに置いてある。人件費を節約しているからだろうが、何かあっても聞く店員が見つからない。消費期限切れのものまでそのままになってはいないかと気になる。ホールフーズ・マーケットなら店も客も含めて要らぬストレスを感じることもないし、買い物が楽しい時間になる。多少高くてもホールフーズ・マーケットに行ってしまう。それはオーガニックだらかとか自然食品でだからということではない。曖昧だが綺麗で安心から多少なりとも潤いのある消費生活をさせてもらえるという(附帯ではない)実質があるからだった。
オーガニックや自然食品とフツーの食品、極端に言ってしまえばどちらでもいいものはいいし、ダメなものはダメでしかない。定義をちょっと真面目に考えたら定義すらし得ないオーガニックや自然食品。作られた神話のような話にころっと騙されて、潤いのある生活と思い込まされる幸せも幸せなのだろう。ただ残念なことに、気がついていて騙されたようなフリをしてもその類の幸せには縁がない。
Private homepage “My commonsense” (http://mycommonsense.ninja-web.net/)にアップした拙稿に加筆、編集
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