人を値踏みする輩を値踏みする
- 2014年 10月 13日
- 交流の広場
- 藤澤豊
世界でも指折りの人材紹介コンサル(リテーナ)会社から電話があった。まだ、転職して二ヶ月にもなっていないころに、それも、会社の代表電話にかけて、取り次いでくれた事務の女性に社名まではっきり伝えてだ。無神経にもほどがあるってもんだろと思いながらも、敢えて断らずに話だけは聞いた。そのコンサル会社とはもう十年以上コンタクトしていない。この類の電話の用件は他にありっこないのに格好だけはつけたいのだろう即要点入ろうとはしない。声の調子からはやっと見つけたという感じがあった。こっちの第一声はよくここまでトレースしましたねだった。お互い暇じゃないんだから早く要点に入れって思いながら話を聞く。
CEOのポジションなのだが、細かなことは電話では話せないという。何をもったいぶってと思いながらも、プライベートのメールアドレスを伝えた。帰宅してメールを見て、いったい何をどう調べて何をどうしようと考えて電話してきたのか想像できなかった。返信しないで放っておこうかとも思ったが返信してこない原因が自分たちにあることなど想像する能力があるとも思えない。そんな能力、欠片でもあれば電話してこない。礼儀的に失礼にならないよう簡素な一文「愚生の前歴をご存知ですか?」と返信しておいた。
受け取ったメールの文面を見る限り、古文書のような十年以上前の履歴書を持ち出して見ているとしか思えない。クライアントがふるってた。何年か前に次の会社からの頼まれ仕事を引き受けることになって、退社した会社だった。それも、この何年か戻るの戻らないという話が持ち上がっては流れ、流れてはまた持ち上がるという経緯があった。戦場を渡り歩いてきた典型的なノンキャリアの傭兵もどきのところにまでコンタクトしてくるところをみると、よほど候補探しに窮しているのだろう。
世界屈指の人材紹介コンサル会社の総合的力に多少なりとも畏敬の念がある。が、それがどれほどのものかという疑念を持ち続けていた。この畏敬の念と疑念を検証し得る千載一遇の機会が転がり込んできた。クライアントにいたことがあるというより先代の社長の右腕だった。クライアントの業界とその関連業界のかなり多くのメジャープレーヤと何年にも渡って、それも日米欧亜市場で渡り合ってきた。一言でいえば精通しているという自負がある。
メールでのやり取りが数回あった後、どうもごちゃごちゃしそうなので、半分以上お人好しにもわざわざコンサルの事務所まで話をしに行った。この類の話は話を聞きに行ったというのが普通だろうが、今回は話しをしに、もっとはっきり言わせて頂ければ、コンサルしに行ったと言った方があたっている。
いくつかの視点でクライアントからどのような話を伺っているのか失礼にならにように注意しながらお聞きした。鵜呑みにも程があるんじゃないかと言いたくなる体たらくだった。彼らの言を素直に聞けば、超優良企業だ。じゃあ、なぜ今回のような不祥事が起きたのか、あるいは、起らざるを得なかったのか?たとえ表面的にでも理解していればまだしも、何も知らない。誰も自社の窮地、その窮地を招いた自らの失政、その失政が事故ではなく起きるべきして起きた文化の問題。。。を公言しないだろう。公表されている表面的なことに手前味噌を聞かされて、それをそのまま鵜呑みしてのヘッドハンティングはないだろう。
そのクライアントの業界がこの十年ほどの間に技術基盤の進化にともなって大きく変化した。その変化にそのクライアントがどのように対応してきたのか、してこなかったのか、全く何も知らない。昨日、今日立ち上がってきた業界でもクライアントでもない。専門誌というのか業界紙と呼んだ方が適切なのか分からないが、少なくとも月刊誌が二誌発行されている。展示会も夏と冬に開催されている。調べようとすれば、いかようにも調べられる。
今、クライアントがどのような市場理解に基づいた戦略を立て、どのように事業展開してゆくのかなどという最も重要な基本的なことを理解することなく、企業の将来を託す社長を任せられる人材を紹介し得るのか。アウトプレースメントじゃない、仮にも世界でその名もしられたリテーナの日本支社じゃないのか。短期の利益に右往左往する金融屋のような視点で経営トップの人材を見繕って紹介してきているだけじゃないか。そこらの中古車屋の能書きの方がまだ気が利いている。
もう仕事でのつながりはなくなってしまったが、また変なのが社長になったら嫌だし、バカバカしいと思いながらも、日米欧のクライアントの業界図からクライアントの顧客の市場、拠って立つ技術基盤の変遷から、近い将来のありよう。。。一時間以上かけて素人にも分かりやすいように注意して説明した。興味もないのか知ろうとする意志がない。多分知ろうとしても理解する基礎知識がない。あの類の人たちは誰でもみえるブランドのロゴとそれを判断基準とする人たちと同じで実務の内実には興味もない。あるのは表層の評価と即の金だけ。
できればこの類の俗物に値踏みされることだけは遠慮したいものだ。
Private homepage “My commonsense” (http://mycommonsense.ninja-web.net/)にアップした拙稿に加筆、編集
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