埋立免許処分の取消・撤回の可否について -濱 秀和弁護士の解説と助言-
- 2014年 10月 15日
- 評論・紹介・意見
- 沖縄河野道夫
第8・9号「新知事が埋立承認を取り消すと?」を読んで下さった行政訴訟のエキスパート濱 秀和弁護士 が、表記題名のもとに、より正確な解説・助言を当研究会の仲井 富さんに送って下さいました。ほぼ原文通りご紹介します。「取消」と「撤回」の違いは脚注 参照。
1.公有水面埋立法について
公有水面埋立法の主な規定は、地方自治法第2条10項別表第1の定める第1号「法定受託事務」である。この事務は、地方自治法第2条9項1号がいう都道府県・市町村・特別区が処理する事務のうち、国が本来果たすべき役割に係るもので、国においてその適正な処理をとくに確保する必要があるものとして、法律またはこれに基づく政令にとくに定めるもの――である。公有水面埋立法の規定する公有水面の埋立免許(同法第2条)、免許前の手続規定(3条)の各規定も、第1号法定受託義務である。すなわち、公有水面の埋立免許も免許前の手続規定も、国の事務として理解する必要がある。
2.埋立免許処分の取消・撤回の可否
この前提であっても、埋立免許を取消ないし撤回することの可否は別である。公有水面の埋立免許が手続規定に違反したり、免許要件を欠く場合には、瑕疵ある行為として、取消・撤回が可能であることはいうまでもない。
公有水面埋立法第4条の免許処分の具体的要件のうち、免許権者である知事の裁量を含む要件として重要なものは、同条第1項1号「国土利用上適正且合理的ナルコト」、同2号「其ノ埋立ガ環境保全及災害防止ニ付十分配慮セラレタルモノナルコト」、同3号「埋立地ノ用途ガ土地利用又ハ環境保全ニ関スル国又ハ地方公共団体(港務局ヲ含ム)ノ法律ニ基ク計画ニ違背セザルコト」である。知事の裁量判断を含む要件の認定が仮に誤っていて、それが免許処分の瑕疵と認められる場合には、知事はその処分の取消・撤回が可能である。ただし、この取消・撤回が違法と考えられる場合には、免許処分の宛先である防衛省、すなわち行政主体としての国がこれを争うことになる。
3.行政主体としての国(防衛省)の争い方
この場合、国(防衛省)が知事を相手に取消・撤回の無効ないし取消の訴訟を起こすことができるとする考えがありうる。そもそも、取消・撤回が無効であるとして埋立を強行することは、法治国家ではありえない。少なくとも、埋立免許権者である知事の判断(取消・撤回の理由)がある以上、違法性の最終判断権者は裁判所である。裁判所の判断がないのに埋立免許の取消・撤回を違法として、工事を続行することは許されない。したがって国は、取消・撤回処分の取消訴訟を提起できる。しかしこの選択は、国にとって必ずしも効果的ではない。取消訴訟の一審は地方裁判所であり、三審が予定され、処理期間についても制限がない。これはおそらく、国として容認しがたいことだろう。
4.行政主体としての国(防衛省)の対処の方法
そうなると国(防衛省)としては、法定受託義務が履行されないものとしての処置を講じるのが適切であろう。地方自治法第245条の7第1項は、是正の指示権限を規定している。同法第245条の8第1項は具体的に是正等勧告をしたうえで、期限を定めて是正等の指示をし(同第2項)、期限までに指示事項を行わないときは高等裁判所に対し、当該事項を行うべきことを命ずる裁判を請求し(同第3項)、かつ裁判に従い当該事項を行わないときには代執行ができる(同第8項)。およそ、このような仕組みになっている。
5.知事が埋立工事を阻止する方法
知事が公有水面埋立に係る免許処分の取消・撤回をしない場合は、事業者(防衛省)によって埋立工事がなされる。事実、現地ではボーリングなどがなされている。この場合、工事を阻止する方法として、民事訴訟によるほかない。その前提として「だれが原告となることができるか」という、当事者適格の問題が大きく立ちはだかる。つまり、この埋立工事によって「だれの、どのような利益が侵害されるか」が争点となる。また公有水面埋立のような事実行為について、仮処分(一時中止など)をすることができるかどうかも争いになる。しかし、工事が進んで埋立が完了すれば、阻止の目的は達成されないことになる。
河野通夫( 国際法市民研究会)
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濱 秀和弁護士(1930~):東京弁護士会所属。1972年退官まで東京および札幌地裁、東京高裁などの判事を歴任。最近の著書出版は「行政訴訟の回顧と展望」信山社2014年。「行政訴訟の実践的課題」同2012年。「最高裁上告不受理事件の諸相1」同2011年など。
取消と撤回:埋立承認の効力否認のように“過去”に遡って効力を失わせ、当初状態を復元する場合は「取消」。法令違反を理由とした業者の営業許可の効力否認のように“将来”に向かって効力を失わせる場合は「撤回」。一般社会では、厳密に区別されていません。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔opinion5019:141015〕
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