敗戦70年に向けて、どんな歴史認識を構築するのか?
- 2014年 11月 2日
- 時代をみる
- ゾルゲ事件加藤哲郎原発
2014.11.1 私たち日本人の集合的記憶・歴史認識が、いま世界から問われています。来年1945年は第二次世界大戦終結70年、日本の敗戦後70年、米英ロシア戦勝70年、中国・朝鮮半島・東南アジア解放70年ですから、当然ながら、ナチズムから脱したドイツとともに、日本の戦後70年の軌跡が、国際社会で改めて問われます。そこで、靖国神社に参拝した首相や閣僚、集団的自衛権を認め特定秘密保護法を施行する政府、国民の税金を私消する政治家、従軍慰安婦問題の存在そのものを認めない一部マスコミ、男女平等は世界142か国中104位、ヘイトスピーチと呼ばれる他民族蔑視・迫害が横行している社会が注目され、いったい日本はどこに向かおうとしているかが、インターネットにまで広がった、グローバルな言論世界で論じられるのです。来年の8月前後が日本の戦後70年を問い直すピークになるでしょうが、そこでは広島・長崎原爆投下70年ばかりでなく、日本経済の「失われた20年」、2011年3月11日以後の自然災害や核エネルギーへの態度も、改めて問われます。福島の汚染水処理・廃炉工程も定かでないのに、鹿児島県川内原発を突破口に原発再稼働・プルトニウム蓄積へと向かう日本を、世界はどのように見るのでしょうか? 私たち自身の歴史認識を、しっかり鍛えなければなりません。読書の秋は、歴史を学ぶ秋です。
敗戦前年の1944年11月7日に、いわゆるゾルゲ事件でリヒャルト・ゾルゲと尾崎秀実が東京で死刑に処されて70周年、前回もお知らせしましたが、11月8日(土)午後1−5時、明治大学リバティータワー地下1階1001教室で、「ゾルゲ・尾崎処刑70周年:新たな真実」と題する国際シンポジウムが開かれます。昨年の上海に続く、日露歴史研究センター主催の第8回国際シンポジウムで、コーディネーターは日露歴史研究センター代表・白井久也さん、パネリストに、ゾルゲ・尾崎秀実の上海時代を初めて旧ソ連第一次資料で本格的に解明したロシアのミハイル・アレクセーエフ・ロシア軍事史公文書館員、上海時代を中国側資料から論じる上海復旦大学・蔵志軍教授、それに、日本側から社会運動資料センター・渡部富哉さん、作家でゾルゲ事件の小説執筆中の小中陽太郎さん、それに今春『ゾルゲ事件』(平凡社新書)を公刊した私です。そこに、蔵教授ら中国側代表団が、昨年上海シンポの記録をまとめた、中国で初めての本格的学術研究論文集・蘇智良編『佐爾格:在中国的秘密指令』(上海社会科学院出版社、2014年7月)を持ってきました。蔵教授の報告予定日本語草稿では、今日の中国ではゾルゲは「中国革命に貢献した赤色情報員」「永遠に記念される世界反ファシズム戦争の英雄」と評価されているそうです。旧ソ連がゾルゲを「大祖国戦争の英雄」として歴史的実在を認めたのは、ちょうど中ソ論争の真っ最中の1964年で、毛沢東時代にはゾルゲが全く無視され黙殺されていたのに比すると、大きな変化です。尾崎秀実の中国論についても、中国側からの再評価が始まりそうです。私の報告も、戦後日本で「スパイ・ゾルゲ」イメージがいかにスパイ防止法・国家機密法制定に利用されてきたかを示して、敗戦直後の「ゾルゲ、尾崎の反戦平和活動」のイメージを、敢えて再提示しようかと考えています。拙著『ゾルゲ事件ーー覆された神話』(平凡社新書)の続編の話となりますが、ご関心のある方はぜひどうぞ。
メキシコから嬉しい便り。この10年ほど客員講義や国際会議報告に出かけるたびに編纂に加わり助言してきた、スペイン語の日本現代政治資料集が、ようやく刊行されました。メキシコ大学院大学田中道子教授が総監督で、1000頁近い大著です(メキシコ大学院大学出版局、2014)。もともと私以前に同大学客員教授を勤めた故高畠通敏教授が1926ー1982年までのスペイン語訳資料集を田中教授と共に編纂し、1987年に2分冊で刊行していたのですが、私が高畠教授の遺志を継ぎ、1983ー2012年までの日本政治の公式決定・政策文書・重要資料を適宜加えて増補し、田中教授以下10人ほどのチームでスペイン語に訳したもので、旧版と合本したので1000頁になりました。予定より遅れて2011年東日本大震災・福島原発事故関係の資料を加えることができたのが、ある意味では怪我の功名で、ラテンアメリカで日本に関心を持つ人々の基本教材になるはずです。私としても、大きな仕事を一つ成し遂げた達成感があります。ただし、民主党野田内閣の時期までなので、高木仁三郎の遺言や脱原発運動の資料は入れることができましたが、安倍内閣になっての急速な右傾化・軍事化の関係資料は収録されていません。高畠教授の旧版から日本国憲法9条や非核3原則、日中・日韓友好関係など、平和国家としての日本の戦後を浮き彫りにするように資料を編纂してきたのですが、そうした歴史認識に相反する最近の日本政治の動向のニュースを、日本に関心を持つスペイン語圏の皆さんがどう解釈し、行動に移すのか、気懸かりです。なお、次回更新予定の11月15日は、中国・上海にいる予定です。最近中国政府のインターネット規制が強まっているというので、ホテルのIT環境次第では、遅れる可能性があります。その際は、ご海容ください。
初出:加藤哲郎の「ネチズン・カレッジ』より許可を得て転載 http://www.ff.iij4u.or.jp/~katote/Home.shtml
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔eye2805:141102〕
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